年次有給休暇の基礎知識!取得推進のメリットや注意点を紹介
社会保険労務士の西岡秀泰です。
年次有給休暇(以下、有給休暇)とは、労働基準法39条に定められた休暇制度です。1年単位で付与され、欠勤と異なり休暇日に対しても給与が支給されます。
本記事では、人事担当者が知っておきたい有給休暇の基礎知識について解説します。有給休暇の取得率向上に向けた対策も紹介しますので、自社の働き方改革の一環として検討してみましょう。
年次有給休暇の基本ルール
有給休暇を付与する条件や付与日数は、労働基準法で定められています。労働基準法は最低限の労働条件などを定めたものであるため、それを上回る条件を企業が任意に設定しても問題ありません。
まずは、法で定める最低基準を見ていきましょう。
ルール①:付与する条件
従業員が次の2つの条件を両方とも満たした場合、企業は従業員に有給休暇を付与しなければなりません。
- 雇入れの日から6か月継続勤務
- 全労働日の8割以上出勤
新卒採用で4月入社の従業員が初めて有給休暇を取得するのは、入社年度の10月1日となります。
ただし、全従業員の付与日を4月1日に統一している会社では、入社日(4月1日)に有給休暇を付与することもあります。
ルール②:付与する日数
有給休暇の1年間の付与日数は、勤務年数によって次の通り定められています。勤務年数が長くなると付与される日数が増え、20日で頭打ちになります。
(有給休暇の付与日数)
勤務年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
パートやアルバイトなどの短時間労働者についても、一定要件を満たせば有給休暇を付与しなければなりません。「1週間の所定労働時間が30時間以上」または「1週間の所定労働時間が5日以上」の要件を満たせば、一般の従業員(正社員など)と同様に付与します。
上記要件を満たさない場合でも、1週間の所定労働日数(決まっていない場合は1年間の所定労働日数)が下表に該当すれば、有給休暇の付与が必要です。
(短時間労働者の付与日数)
所定労働日数 | 勤務年数 | |||||||
1週間 | 1年間 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年 |
4日 | 169~216日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
3日 | 121~168日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
2日 | 73~120日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
1日 | 48日~72日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
週1日勤務のパート職員なども、有給休暇の対象です。労働日数は実労働日数ではなく、契約時に決めた所定労働日数を使用することに注意しましょう。
ルール③:付与するタイミング
有給休暇を付与するのは、所定の勤務年数が経過したときです。4月1日に入社した従業員は、勤務年数が6ヶ月を経過した同年10月1日までに付与しなければなりません。
付与日を後にずらすことはできませんが、従業員にとって有利になる前倒しは問題ありません。有給休暇付与の手間を省くために、入社月に関係なく4月1日に全従業員に対し一斉に有給休暇を付与する会社もあります。この場合、入社と同時に有給休暇を付与することになります。
ルール④:半日単位・時間単位の付与も可能
有給休暇は原則1日単位で付与するものですが、1時間単位での付与も可能です。
ただし、時間単位の有給休暇(以下、時間単位年休)を付与するには、次の2つを満たさなければなりません。
- 時間単位年休に関する労使協定を締結する
- 取得日数は年5日以内とする
労使協定では、時間単位年休の対象者や日数、1日の時間数(所定労働時間が8時間なら8時間以上)などを定めます。具体的な内容は、次の参照サイトの労使協定例を参照ください。
(参照)厚生労働省「時間単位の年次有給休暇に関する労使協定例」
時間単位年休の取得は、従業員から希望のあった場合に認めるものです。
そのため、後で解説する企業に義務付けられた「年5日以上の有給休暇取得」にはカウントされません。
半日単位の有給休暇については労働基準法に定めはなく、会社が制度を設ける場合は従業員が申し出て企業が認めれば付与可能です。
時間単位の有給休暇については、具体的な導入手順やメリットなどを下記の記事にまとめています。
(関連記事)時間単位の年次有給休暇を検討してみませんか?メリットや導入方法を社労士が解説
年次有給休暇の取得
有給休暇の取得は、従業員が取得を請求するのが原則です。
しかし、会社が取得日を指定するなど例外的な取り扱いもあります。有給休暇の取得に関する基本ルールを解説します。
従業員が希望した日に取得
有給休暇は、従業員が希望した日に取ることができます。労働基準法では、従業員に取得時季を決める権利(「時季指定権」という)を認めているからです。会社が忙しい時期でも、取得理由が何であれ、従業員が請求した日に有給休暇を付与しなければなりません。
「日能研関西ほか事件(大阪高裁・2012年4月6日判決)」では、有給休暇取得の申請に対し上司が「申請により評価が下がる」と発言して取得を妨害したとして、会社や上司に損害賠償を命じました。申請拒否だけでなく、申請取り下げを強要することも認められません。
企業が取得日の変更を求めるケース
有給休暇は原則従業員が希望した日に付与しなければなりませんが、会社がこれを拒否できるケースがあります。休暇取得によって「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、会社は従業員に取得時季の変更を求める権利(「時季変更権」という)を持つからです。
ただし、「事業の正常な運営を妨げる場合」とは、次の条件を満たす場合に限定されます。
- 取得希望日の仕事が所属部署などの業務運営にとって不可欠
- 代わりの従業員を確保することが困難
慢性的に人手不足、日常的に業務多忙などは上記に該当しないため、安易に取得日の変更を求めることは避けなければなりません。
また、「事業の正常な運営を妨げる場合」であれば必ず認められるとも言えません。「高知郵便局事件(高松高裁・1987年5月21日判決)」では、年度始に計画していた有給休暇の取得日を2日前に変更するように通知された従業員が、取得日の変更は違法として会社を訴えました。判決では、予期せぬ事態が発生したことによる「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当することは認められましたが、事態判明後速やかに対応しなかったために時季変更権は認められませんでした。取得日の変更を求めるときは、従業員への配慮も必要です。
企業による取得時季の指定(計画的付与)
会社が時季を指定して、従業員に有給休暇を付与することも可能です。「計画的付与」といい、業務の繁閑に合わせて従業員を適切に配置したり、従業員に休暇取得を促すために利用されます。
ただし、有給休暇の計画的付与を行うには次の3つの条件を満たす必要があります。
- 計画的付与に関する労使協定を締結する
- 計画的付与に関して就業規則に記載する
- 取得時季を指定するのは有給休暇のうち5日を超える部分のみ
労使協定に記載する具体的な内容は、次の参考サイトの労使協定例を参照ください。
(参照)厚生労働省「年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定」
また、3つ目の条件により、従業員は年に5日間は自分の好きな時季に有給休暇を取得できることになります。
年5日以上の取得を企業に義務化
働き方関連法案により2019年4月から、時季を指定して従業員に年5日以上の有給休暇を取得させることが企業に義務付けられました。「年5日の時季指定義務」といい、企業が休暇取得しない従業員に働きかけて、有給休暇の取得を促進するものです。計画的付与により取得した日も年5日取得義務にカウントされます。
対象となるのは、次の2つを満たす従業員です。
- 年10日以上の有給休暇が付与されている
- 有給休暇の取得日数が5日未満である
従業員自らまたは会社が時季を指定して、従業員が5日以上取得すれば義務はなくなります。時季指定については、従業員の希望を聞いて取得時季を決めるようにしましょう。
年次有給休暇を取得させなかった場合の罰則
企業が有給休暇に関するルールを守らなかった場合、労働基準法(第119条、第120条)に定める罰則を受けます。罰則の内容は次の通りです。
- 従業員の請求する時季に有給休暇を与えなかった:6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
- 年5日の有給休暇を取得させなかった:従業員1人につき30万円以下の罰金
- 計画的付与の就業規則未記載:30万円以下の罰金
また、労働基準法附則第136条では、有給休暇を取得した(または取得しようとした)ことによって、従業員に不利益な取扱いを行うことを禁止しています。
年次有給休暇に関する注意点
有給休暇について、人事担当者が知っておきたい注意点を5つ紹介します。
注意点①:継続勤務の判断
注意点の1つ目は、有給休暇の付与条件である継続勤務の判断です。付与条件として「雇入れの日から6か月継続勤務」がありますが、定年後再雇用により嘱託として働くケースや、短期契約を更新して仕事を続ける契約社員などについては契約がいったん切れるため「継続」といえるかが問題になります。
結論は、継続勤務しているかどうかは、実際に在籍しているかどうかで判断します。どちらのケースも労働契約の期間は途中で中断していますが、退職や契約更新の前後で継続して在籍しているため継続勤務と判断されます。
注意点②:出勤率の計算
2つ目の注意点は、出勤率の計算です。付与条件として「全労働日の8割以上出勤」がありますが、全労働日としてカウントしない日や仕事をしない日でも出勤日として取り扱う日があるからです。
(全労働日としてカウントしない日)
- 会社責任の理由による休業日
- 正当なストライキなどにより労務の提供がなかった日
- 休日(法定内・法定外)労働をさせた日
(出勤日としてカウントする日)
- 業務上の負傷・疾病等による療養のための休業日
- 産前産後休暇中の休業日
- 育児休業や介護休業中の休業日
- 有給休暇を取得した日
日頃の勤務管理をきちんと行い、出勤率を正しく算出しなければなりません。
注意点③:年次有給休暇の管理
3つ目の注意点は、有給休暇の管理方法です。働き方関連法案により2019年4月に、従業員ごとの有給休暇管理簿の作成・保管が企業に義務づけられたからです。
管理簿には、基準日(有給休暇を付与する日)や休暇日数、取得時季の3項目を記載しなければなりません。
また、管理簿の保管期間は3年と定められています。
注意点④:基準日の設定
年次有給休暇を付与する基準日は入社日から半年後で、それ以降は毎年同日に年次有給休暇を付与するのが原則です。
しかし、入社日を基に基準日を設定すると従業員ごとに基準日が異なり有給休暇付与の手続きが煩雑になるため、基準日を統一する会社もあります。基準日を4月1日に統一した場合、4月1日入社の新入社員は入社日に年次有給休暇が付与されます。入社日の半年後というのは労働基準法の定める最低限の基準であるため、前倒しして有給休暇を付与することに問題はありません。
ただし、本来付与しなくてもいい有給休暇の付与(前倒し付与)は、企業にとってコストアップとなります。基準日の統一は、メリットとデメリットを考慮して慎重に検討しましょう。
注意点⑤:年次有給休暇の買い取り
4つ目の注意点は、有給休暇の買い取りは禁止されていることです。従業員に十分な休養を与えるために設けられた制度であるため、買い取りによって従業員の休暇が減っては困るからです。
ただし、次の有給休暇については、例外的に買い取りが認められます。
- 退職時に残った有給休暇や時効などで翌年に繰越できない有給休暇
- 法定日数を超えて付与した有給休暇
例外的な買い取りを行う場合、就業規則等にその旨を記載しておきましょう。
注意点⑥:年次有給休暇の繰り越し
5つ目の注意点は、有給休暇の繰り越しです。1年間で使い切れなかった有給休暇は、原則翌年に繰り越しますが、繰越できないケースがあるからです。
有給休暇を取得できるのは基準日から2年以内であるため、2回目の繰越はできません。
また、繰越日数は最大20日と定められているため、20日を超える有給休暇も同様です。
日本の年次有給休暇の取得状況
年次有給休暇の取得率の取得率について、政府は「過労死等の防止のための対策に関する大綱」で70%という目標(2025年まで)を掲げています。
しかし、厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」によると、2023年の日本の年次有給休暇の取得率は62.1%という状況で政府目標には届いていません。労働者の安全と健康を守るために、企業には年次有給休暇の取得率を高めることが求められています。
(出典引用)厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況・労働時間制度」
また、年次有給休暇の取得率が上がることは、従業員だけでなく企業にとってもメリットがあります。年次有給休暇の取得推進のメリットと方法について見ていきましょう。
年次有給休暇を取得推進するメリット
働き方改革の一環として、企業には長時間労働の是正が求められています。企業が有給休暇の取得を推進することは、長時間労働の是正に役立つでしょう。
また、休暇が増えることにより次のメリットが期待できます。
- 従業員の安全・衛生の確保
- 心身のリフレッシュによる生産性の向上
- 長時間労働を是正し離職防止
- 働きやすい会社として採用に好影響
全国知事会の「第1回休み方改革プロジェクトチーム会議」資料でも、有給休暇の取得率が高いほど離職率は低く、生産性が高いことがわかります。
(出典引用)全国知事会「休み方に関する課題認識と「休み方改革」に向けた問題提起」
少子高齢化による生産労働人口の減少が進むなか、企業を維持・成長させるために労働力の確保と生産性の向上は不可欠です。有給休暇の取得推進は、その対策の1つと言えます。
年次有給休暇の取得推進方法
企業が従業員の有給休暇の取得を推進するためには、制度面の充実が重要です。制度面では次の方法が効果的です。
- 従業員ごとに年間の取得計画を立てる(有給休暇取得計画表の作成など)
- 半日単位や時間単位での取得を認める
- 取得時の交代要員を準備する など
周囲に遠慮して取得できない人も多いことから、取得しやすい環境づくりも必要です。雰囲気づくりのための主な方法は、次の通りです。
- 企業トップが取得推進していることを積極的に発信する
- 上司が率先して有給休暇を取得する
- 取得によるメリット(事故防止や生産性の向上など)を周知する など
また、「休んだら周りから遅れてしまう、負けてしまう」と考えて、取得をためらう人もいるでしょう。意識を変えることは難しい面もありますが、方法として次が考えられます。
- 遅れない、負けではないというロールモデル(基幹職員や管理職など)を作る
- 管理職の意識改革を図り「有給休暇取得=遅れ、負けではない」という考えを浸透させる(上司の評価に部下の有給休暇取得率を追加するなど)
- 仕事熱心な従業員向けに遅れをとらない休み方(自宅で書籍を読む、他社・他業界の見学など)を提唱する など
最後に、有給休暇の取得推進を図る企業の取り組み事例を紹介します。
(NSW株式会社)
NSW(日本システムウエア)株式会社では、「年1回5日間連続で取得する特別休暇」制度を設けました。特別休暇の取得を徹底するため、「部下を休ませる」ことをマネージャーの責任として明示し、取得率を上司の労務管理能力の判断材料としています。その結果、2011年度の連続休暇の取得率は93.6%でした。
特別休暇の取得推進を通じ「休みが取りづらい」という気持ちが薄らぐとともに、従業員が仕事を離れても仕事に支障が出ない体制づくりができ、有給休暇の取得率が全産業平均を20%程度上回る成果を挙げています。
(株式会社クボタ)
株式会社クボタでは、2014年に社長と労働組合委員長が連名で「3年後に取得率100%」を目指すことを宣言しました。
労使トップの発信により社内の意識改革を図るとともに、「時間単位年休」の導入やクボタ独自の「積立年次有給休暇制度」の拡充を図り、取得率は110.5%(2022年度)を達成しました。
積立年次有給休暇制度とは、2年の時効までに利用しなかった年休を失効させずに60日分まで溜められる制度です。宣言後に同制度を拡充し、積立年休が60日貯まるまで、毎年5日(入社時は10日)の有給休暇を加算しています。
(株式会社シマブン)
株式会社シマブンでは、誰が休んでもカバーできる体制づくりを行うことにより取得率100%を達成(2018事業年度)しました。
体制づくりの具体策は、従業員の多能工化(マルチスキル化)と業務のマニュアル化です。従業員の多能工化を図るため、部署内で定期的に役割の入れ替えを行うとともにコミュニケーション研修を行うなどして部署間の情報共有を図っています。
また、有給休暇ではありませんが「スポット休暇」「アニバーサリー休暇」「リフレッシュ休暇(2日)」を設け事業年度始に取得日を決めるなどして、休暇が取りやすい環境づくりを行っています。
(参考)働き方・休み方改善ポータルサイト
(参考)国土交通省「ポジティブ・オフ運動」
まとめ
有給休暇は、従業員の心身の健康を守るための重要な制度です。人事担当者はルールを正しく理解し、適切に処理・管理しなければなりません。
また、有給休暇の取得率を高めることにより離職率の低下や生産性の向上が期待できることから、取得率の向上は企業にも大きなメリットがあります。企業の継続的な発展に向け、有給休暇の取得推進に取り組みましょう。