育児休業とは!?対象者や期間、給付金など人事労務担当者が押さえておきたいポイントを解説
社会保険労務士の西岡秀泰です。
育児休業は、育児・介護休業法に基づく休業制度です。少子化対策として子育て世代を支援するため、2021年6月に育児・介護休業法が改正(2022年4月以降順次実施)され育児休業が取りやすくなりました。
本記事では、育児休業の内容と人事担当者が知っておきたい育児休業の基礎知識について解説します。2023年4月より育児休業取得状況の公表が義務付けられる(対象は従業員1,000人超の企業)など、企業には育児休業の取得率を上げて従業員の子育てを支援することが求められています。
※2024年5月に改正された内容(2025年4月施行)については、キテラボの別記事で詳細を解説予定です。少々お待ちください。
育児休業とは
まず最初に、育児・介護休業法に定める育児休業の基本ルールについて確認していきましょう。育児休業に関する手続きに必要な知識ですが、育児休業を取得する従業員からの問い合わせに対し的確に回答するためにも、きちんと理解しておきましょう。
育児休業の対象者
育児休業は手厚いケアが必要な幼児を養育するための休業ですが、養育する人すべてに認められている訳ではありません。育児休業の対象者について解説します。
1歳未満の子を育てる労働者
育児休業の対象者は、「原則1歳未満の子を育てる労働者」と定められています。子どもを産んだ母親だけでなく、子育てする父親も対象です。特別養子縁組のために試験的に養育している人なども含まれます。また、子どもの年齢に関する例外は後述します。
労働者の範囲については、正社員や雇用期間の定めがない無期契約社員のほか、育児休業申出時点で次に該当する有期契約社員も該当します。
- 子どもが1歳6か月に達する日まで契約期間が残っている
- 子どもが1歳6か月に達する日までに契約期間が終了するが更新されないことが明らかでない
また、育児休業は労働者の申出により取得可能となるため、従業員が所定の期間内に申出をしなければ育児休業としては認められません。
育児休業を取れない労働者
育児休業の対象者は一般の労働者であり、日雇いの労働者は対象外です。労使協定に定めた場合、次に該当する労働者は育児休業を取れません。
- 雇用された期間が1年未満
- 1年(1歳以降の休業の場合は6か月)以内に雇用関係が終了する
- 週の所定労働日数が2日以下
また、育児休業は子どもの養育を目的としたものであるため、別目的での育児休業は認められません。1歳未満の子どもがいる父親が、旅行や留学のために会社を休んだ場合、育児休業の対象外です。孫の養育を目的に会社を休む祖父母も同様です。
育児休業の期間
次に、育児休業の期間について解説します。一定要件を満たせば期間の延長も可能です。
いつからいつまで?
育児休業の期間は、「原則子どもが1歳になるまでの連続した期間」です。育児休業は連続して休業することが原則ですが、法改正により2回まで分割して取得可能となりました。母親は産前産後休業(以下、産休)があるため、母親と父親では取得期間が異なります。
子どもを出産した母親の場合、出産後8週間は産休を取得するため育児休業期間は「産休終了翌日から子どもが1歳になる日まで」となります。
父親については、「出産日から子どもが1歳になる日まで」育児休業が取得可能です。
期間の延長
育児休業の期間は原則子どもが1歳になるまでですが、次の条件をすべて満たした場合、「子どもが1歳6か月になるまで」延長も可能です。
- 子どもが1歳になった日の翌日から1歳6か月になる日までに休業申出している
- 子どもが1歳になった日に本人または配偶者が育児休業をしている
- 子どもが1歳を超えても休業が必要な特別の事情がある
- 過去に1歳6か月までの育児休業(育児休業の延長)をしたことがない
「休業が必要な特別の事情」とは、次が該当します。
- 保育所などの入所を希望しているが入所できない
- 子どもを養育していた(または予定していた)配偶者の死亡や負傷、疾病などにより養育が困難になった
- 育児休業の対象となる子どもや養育者が死亡した
さらに、子どもが1歳6か月になった時点で、上記と同様の条件を満たしている場合、育児休業の期間は「子どもが2歳になるまで」延長できます。
また、上記の条件を満たしていない場合でも、育児・介護休業法第9条の特例を活用すれば、育児休業期間を「子どもが1歳2か月になるまで」延長できます。この特例は「パパ・ママ育休プラス」と呼ばれ、適用される条件は次の通りです。
- 夫婦ともに育児休業を取得する
- 配偶者が子どもの1歳の誕生日前日までに育児休業を取得している
- 本人の育児休業開始予定日が、子どもの1歳の誕生日よりも前である
- 本人の育児休業開始予定日が、配偶者の取得した育児休業の初日以降である
本人を父親、配偶者を母親とすると、母親が産休終了後から子どもが1歳になるまで育児休業を取得し父親が母親よりも後から育児休業を開始した場合、父親は子どもが1歳2か月になるまで育児休業を取得できます。
(パパ・ママ育休プラスのイメージ)
ワンポイント
男性の育児休業については、下記の記事で詳しく解説しています。
(関連記事)男性の育児休業について。2025年4月の法改正前に人事労務担当者が押さえておきたいポイントを解説
育児休業給付金
育児休業給付金は、子育てのために休業する世帯を経済的に支援するために設けられた雇用保険の給付です。休業中は無給であるのが一般的で、子育て世帯の給与収入の減少を給付金でカバーします。
育児休業給付金が支給されるのは、法律上の育児休業に該当する期間です。育児休業給付金の支給額や受給資格についても確認しておきましょう。
育児休業給付金の額
育児休業給付金は、支給対象期間(1か月)ごとに次の通り計算します。休業開始からの期間によって金額は異なります。
- 休業開始6か月以内:休業開始時賃金日額✕支給日数(30日)✕0.67
- 休業開始6か月以降:休業開始時賃金日額✕支給日数(30日)✕0.5
休業開始時賃金日額(以下、賃金日額)は、育休開始前(女性は産休開始前)6か月の賃金を180日で除して計算します。休業開始から半年は支給率67%、半年経過後は50%と覚えておきましょう。
ただし、賃金日額は上限が1万5,430円、下限が2,746円(※)と定められているため、実際の支給額は次の範囲内です。
※賃金日額の上限・下限は2024年7月までの金額です。毎年8月に改定されます。
- 休業開始6か月以内:上限31万143円、下限5万5,194円
- 休業開始6か月以降:上限23万1,450円、下限4万1,190円
受給資格
育児休業を受給するためには、育児休業前の条件と育児休業中の条件をすべて満たさなければなりません。
育児休業前の条件は次の2つです。
- 雇用保険の被保険者である
- 休業前の2年間に就業日数11日以上の月が12か月以上ある
※12か月ない場合、賃金支払の対象時間が80時間以上の月が12か月以上ある
育児休業中の条件は次の通りです。
- 支給対象期間(1か月)に休業前の平均賃金(賃金日額×30日)の8割以上の賃金が支払われていない
- 支給単位期間(1か月)の就業日数が10日以下または就業時間が80時間以下である
- 育児休業の取得が原則2回以内である など
育児休業中に勤務先から給与が支給された場合、育児休業給付金は減額されることもあります。また、有期契約社員の場合、「子どもの1歳6か月になる日までに労働契約の期間が満了することが明らかでない」などの条件も必要です。
育児休業の開始から終了までの流れ
従業員が育児休業を取る場合、人事労務担当者はさまざまな手続きや対応をしなければなりません。手続きが漏れたり対応が遅れないように、育児休業の開始から終了までの流れを把握して計画的に対応しましょう。
1.育児休業開始前
従業員から妊娠の連絡を受けた場合、産休や育児休業、復職などの予定を確認するとともに、休業申請や給付金請求の手続き、休業に関する諸制度や注意点などを説明しましょう。
説明にあたっては「個別周知・意向確認書」などを使用しましょう。
(参考)大分労働局「モデル例・様式集(雇用環境・均等室)」
(関連記事)2022年4月1日から義務化される「個別の周知・意向確認の措置」とは?
育児休業の申請は従業員が行いますが、申請書を事前に交付するなど休業開始日の1か月前までに申請してもらうように手配しましょう。
2.育児休業中
育児休業が開始したら、社会保険料の免除手続きと育児休業給付金の請求手続きが必要です。社会保険料の免除手続きは、企業が日本年金機構または健康保険組合に「育児休業等取得者申出書」を提出して行います。
(参考)日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が育児休業等を取得・延長したときの手続き」
育児休業給付金の請求は、企業がハローワークに「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金支給申請書」を提出します。休業開始後1か月後に初回の申請を行い、その後は毎月支給申請するのが一般的です。
初回の申請時には、賃金日額を決定するために「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」も同時に提出します。
3.育児休業終了前後
休業終了予定日前に、復職日の確認と復職に向けた打ち合わせを行いましょう。休業者が復職後の時短勤務を希望する場合は対応が必要です。
休業者が予定より早く復職した場合は、企業は日本年金機構へ「育児休業等取得者終了届」を提出します。また、短時間勤務などで給与が下がった場合、「育児休業等終了時報酬月額変更届」の提出が必要です。
従業員が「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」の利用を申し出た場合は、「養育期間標準報酬月額特例申出書」を日本年金機構に提出します。みなし措置の利用により、報酬が低下しても将来の年金額に影響しなくなります。詳細は日本年金機構のHPで確認しましょう。
(参考)日本年金機構「従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)の育児休業等が終了したときの手続き」
社労士の西岡秀泰がお答えします。育児休業のQ&A10選
1 育児休業中の社会保険料はどうすればいいですか?
育児休業中は、会社と従業員の社会保険料が免除されます。休業中の経済的負担を抑えるための措置です。給与だけでなく賞与に対する社会保険料も対象です。
ただし、育児休業中または育児休業終了後1か月以内に、日本年金機構または健康保険組合に「育児休業等取得者申出書」を提出しなければなりません。
2 社会保険料の免除を受けると将来の年金額はどうなりますか?
育児休業中の社会保険料免除期間は、「将来、被保険者の年金額を計算する際は保険料を納めた期間」として扱われます。つまり、実際には社会保険料を支払っていなくても、就労して保険料を支払った場合と同額の年金が受給できるということです。
3 育児休業中に就労することはできますか?
育児休業中は原則就労できませんが、例外的に「労使の話し合いにより、子の養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的にその事業主の下で就労することは可能」とされています。育児休業中に就労の可能性があれば、就業規則に記載が必要です。
ただし、1か月の就業日数が10日以下または就業時間が80時間以下でなければ、育児休業給付金は支給されません。また、恒常的・定期的に就労させていると判断されれば、育児休業給付金が出ないだけでなく、社会保険料の免除も受けられません。
4 育児休業中に就労した場合、育児休業給付金の金額はどうなりますか?
支給対象期間(1か月)に支払われた賃金によって、育児休業給付金の金額は次の通りです。
- 平均賃金の80%以上:支給されない
- 平均賃金の13%超80%未満:(賃金月額×80%-賃金)が支給される
- 平均賃金の13%以下:全額支給される
※休業開始6か月以降で給付率が50%のケースでは、上記の「13%」を「30%」に置き換えて金額を算出します。
平均賃金が月30万円で育児休業期間に支払われた賃金が15万円の場合、育児休業給付金の金額は次の通りです。平均賃金の13%超80%未満の場合、支払われた賃金の額に関係なく、賃金と育児休業給付金の合計が、平均賃金の80%となります。
- 育児休業給付金=30万円×80%-15万円=9万円
5 育児休業を延長した場合、育児休業給付金は支給されますか?
育児休業を子どもが1歳6か月(または2歳)になるまで延長した場合でも、育児休業給付金は支給されます。支給額については、通常の育児休業(子どもが1歳になるまでの休業)と同様に計算します。
6 育児休業制度について就業規則等に定める必要はありますか?
育児休業制度は、国が定める制度ですが就業規則などでも定める必要があります。育児休業は、労働基準法で定める「就業規則の絶対的記載事項」のうち労働時間に関する事項に該当するからです。
7 育児休業は何回まで分割して取得できますか?
育児休業は、2022年10月から2回に分割して取得できるようになりました。
また、後述する「産後パパ育休(※)」と併用すれば、子どもが1歳になるまでに4回に分割して取得することも可能です。
※育児休業とは別に「子どもの出生後8週間以内に4週間まで取得」できる休業制度。
(産前産後休業の分割取得のイメージ)
8 育児休業から復帰後の勤務について注意事項はありますか?
職場復帰した後も子育ては継続するため、従業員が希望する場合は次の労働制限が法律で定められています。
- 所定外労働の制限:3歳未満の子どもの養育者に所定労働時間を超える労働を禁止
- 時間外労働の制限:未就学児の養育者の時間外労働を制限(1か月24時間以内、1年 150時間以内)
- 深夜業の制限:未就学児の養育者の深夜業(午後10時~午前5時)を禁止 など
対象となる従業員に労働制限の内容を周知し、希望があれば労働制限を実施しなければなりません。
9 所定労働時間の短縮措置とはなんですか?
所定労働時間の短縮措置とは、3歳未満の子どもの養育者が希望すれば利用できる短時間勤務制度の設置を企業に義務付けるものです。
具体的には、1日の所定労働時間を6時間以下にする勤務制度を設けることが必要ですが、できない場合の代替措置として、次の制度導入などが求められます。
- フレックスタイム制度
- 始業・終業時刻の繰上げ、繰下げ制度
- 3歳未満の子供の保育施設の設置運営 など
10 看護休暇と育児休業の違いは?
看護休暇とは、一定要件を満たす未就学児の養育者が、一年度につき年5日(二人以上のときは10日)を限度に、子どもを看護するために取得できる休暇のことです。子どもが病気やけがのとき休暇を取得しやすくして、仕事と子育ての両立を支援するために設けられました。
育児休業は子どもが1歳になるまで子供を養育するために一定期間まとまって休みを取るのに対し、看護休暇は育児休業が終了し仕事に復帰した後に短期間取得するものです。
育児休業と他制度の違い
育児休暇との違い
育児休業は育児・介護休業法に定める休業で、労働者が希望すれば事業主は拒否できません。一方、育児休暇は、法律で定められたものではなく企業によって制度が設けられたり設けられなかったりします。休暇期間や取得要件も企業が任意に決めます。
また、育児休業中は報酬がなければ育児休業給付金を受給できますが、育児休暇に対する給付はありません。企業の判断で報酬を支払うことは可能ですが、一般的には無給です。
産後パパ育休との違い
産後パパ育休(出生時育児休業)とは、育児休業とは別に「子どもの出生後8週間以内に
4週間まで取得」できる休業制度のことです。出産直後で子どもの育児負担が大きい時期に、父親が休業しやすいように設けられました。
一定の要件を満たせば、出生後8週間以内に2回に分割して休業したり休業中に就業することも可能であるため、仕事が忙しくて長期で休めない場合でも休業を取りやすくなります。
育児休業と同時期に取得できませんが、出生後8週間以内は産後パパ育休を取得し8週間経過後に育児休業を取得できます。2つの育休制度を併用することで、休業期間を分割しやすくなることもメリットです。
産前・産後休業(産休)との違い
産前・産後休業(産休)制度は、女性労働者が「産前の6週間(多胎妊娠は14週間)と産後の8週間は休業できる」というもので労働基準法第65条に定められています。一方、女性の育児休業は、産前・産後休業終了後からの休業が対象です。
取得時期が異なりますが、産前・産後休業の申し出をすると事業主はこれを拒否できないことや休業時の経済的支援として給付金(産前・産後休業の場合は出産手当金)が支払われることなど、共通点もあります。
まとめ
育児休業は、子どもと子育て世代を支援する休業制度です。少子化対策の一環として、国は制度の充実と育児休業取得率の向上に取り組んでいます。
人事労務担当者は育児休業の内容を理解し諸手続きを円滑に行うとともに、仕事と子育てが両立できるように従業員の子育てを支援する役割も担っています。企業の発展を支える従業員が生き生きと活動できる職場づくりの一環として、育児休業の取得推進を図りましょう。
(追記)2024年10月2日に、株式会社Kiteraは、改正育児介護休業法に関するセミナーを開催しました。
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