介護休業とは?取得の条件、休業中の給付金など社労士が人事労務担当者向けに解説

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松本 幸一

社会保険労務士の松本 幸一です。

家族の介護を理由とする離職を「介護離職」と言いますが、ニュース等で一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。直近の国の統計によると、個人的理由による離職のうち介護離職が占める割合は1%強となっています。しかし、介護については会社に伝えず単に一身上の都合での離職している人が少なからず存在し、調査への回答が100%ではないことを考慮すると、実際の介護離職者数はもっと大きいと推定できます。

人手不足がより一層叫ばれる今日において、介護離職の防止は会社にとっても大きな課題であることは間違いありません。本記事では、労働者から家族の介護について相談・申出があった際に適切な対応ができるよう、介護休業について人事労務担当者として知っておくべきポイントを解説します。

キテラボ編集部より
2024年に成立した育児介護休業法改正については、【1】子の看護休暇の改正、【2】所定外労働の制限の対象となる子の範囲の拡大、【3】300人超の企業に育児休業等の取得状況の公表の義務付けなどを下記の記事で解説しています。合わせて、ご確認ください。
(関連記事)育児介護休業法改正の7つのポイント!社労士が解説【2025年重要トピック】

介護休業とは

介護休業とは、労働者が要介護状態にある対象家族を介護する為の休業制度で、仕事と介護の両立を実現することを目的に育児介護休業法によって定められています。

介護休業はどれだけの期間取得可能であるか、対象となる労働者・家族の範囲など、制度の概要を順に解説します。

なお、本記事で解説する内容は育児介護休業法の定める最低ラインですので、法の定めを上回って介護休業を認めることを妨げるものではありません。

制度の概要

冒頭でもお伝えした通り、介護休業とは要介護状態にある対象家族を介護する為の休業です。

家族に介護が必要になった際に検討すべき事項は多々あります。

・短期間の付き添いで対応できそうか

・施設への入所等長期にわたることが見込まれる場合、介護保険関連の行政手続きや介護サービスの相談をいつ、誰が行うのか

・介護サービスを利用できない日は誰が介護をするのか など

これらのハードルを離職することなくクリアし、仕事と両立を実現するために介護休業制度が定められています。

介護休業の日数

育児介護休業に定められている介護休業の日数は、対象家族ひとりにつき最大で93日間です。

連続する93日間の取得はもちろん、最大3回に分けての取得も可能です。

介護休業を取得するための条件

労働者本人の条件

対象家族を介護する労働者であれば性別・年齢を問わず介護休業を取得できます。

正社員などのフルタイム勤務はもちろん、アルバイトやパートタイマーでも取得可能ですが、次のいずれかに該当する労働者は介護休業の対象外です。

・日々雇用される労働者

・雇用期間の定めがある労働者であって、介護休業取得予定日から起算して93日経過する日から6ヶ月以内に雇用契約が満了することが確実な者

(参考)介護休業について|介護休業制度|厚生労働省

上記の条件に加え、会社の過半数労働組合の代表者、もしくは労働者の過半数代表者と労使協定を締結することにより、次に該当する労働者を介護休業取得の対象外とすることが認められています。

・入社後1年を経過していない労働者

・介護休業取得の申出から93日以内に雇用契約が満了する労働者

・週の所定労働日数が2日以下の労働者

家族の条件

介護休業の対象となる家族の条件は、2週間以上にわたり常時介護が必要な状態であることです。

対象家族

対象家族とは、介護休業の対象となる家族のことで、具体的な範囲は次の通りです。

・配偶者(事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)
・父母(配偶者の父母を含む)
・子
・祖父母
・孫
・兄弟姉妹

(参考)介護休業について|介護休業制度|厚生労働省

ここで注意したいのが、労働者本人と血のつながりのある家族については祖父母、孫、兄弟姉妹も対象となる一方で、婚姻による血のつながりのない家族は配偶者の父母に限定されている点です。

そのため、配偶者の祖父母の介護は介護休業の対象から外れていることに特に留意が必要です。

また、かつて祖父母、兄弟姉妹、孫には「同居かつ扶養していること」という条件がありましたが、2017年(平成29年)1月改正により同条件は撤廃されていますので、同居・扶養していないから対象外です、と誤った対応をすることのないよう留意しましょう。

要介護状態

介護休業における要介護状態とは、負傷・疾病または身体上もしくは精神上の障害により2週間以上常時介護が必要な状態を言います。

具体的には、次のいずれかに該当する場合、常時介護が必要な状態であると判断されます。

・介護保険法における要介護2以上であること
・身体上もしくは精神上の障害により、次のようなケースに複数該当する場合
・自力で食事ができない
・自力で着替えができない
・外出先から自力で家へ戻れない
・十分な意思伝達ができない など

(参照)常時介護を必要とする状態に関する判断基準|厚生労働省

ここでのポイントは、必ずしも介護保険法上の要介護認定に該当する場合に限られない、ということです。

実際、介護というと高齢の親族というイメージが強いのではないでしょうか。

もちろん、高齢の父母、祖父母、配偶者の介護が大半であることは間違いありません。

しかし、現役世代の家族であっても、突然の事故や要介護認定がおりていないことで、労働者が「要介護認定がおりていないから介護休業の対象にはならない」と早合点して離職を決心しないよう、日ごろから介護休業について周知しておくことが大切です。

介護休業取得の申出から休業終了まで

ここまでは介護休業の概要、対象となる労働者、家族の条件について解説しました。

ここからは介護休業取得の申出から休業終了までの流れを解説します。

介護休業取得の申出

介護休業の取得を希望する労働者は、原則2週間前までに対象家族の状況と介護休業の開始日・終了予定日を明らかにした上で社内様式等で申請します。

社内様式がない、もしくは現在の様式に不安が残る場合には厚生労働省の提供する様式を活用することをおすすめします。

(参照)介護休業申出書 モデル例|厚生労働省

介護休業の終了

予定していた介護休業終了予定日に達すると、当然に介護休業は終了となります。

ただし、育児介護休業法の定める93日を超えて介護休業の取得・延長を認めることは禁止されておらず、むしろ望ましい対応ですが、この後に解説する介護休業給付金は93日が上限であることに注意が必要です。

また、次の場合は介護が必要な事由が消滅したとして、終了予定日を待たずして介護休業は終了となります。

・対象家族の死亡
・対象家族との親族関係の消滅
・労働者が対象家族を介護できない状態になった

介護休業の撤回・再申出

介護休業取得を申し出たものの、対象家族の病状が予定以上に快方に向かった、他の家族が主として介護にあたることとなったことで労働者本人が休業する必要がなくなった、ということも十分考えられます。

このような経緯により、介護休業開始の前日までに労働者から介護休業取得撤回の申出があった場合、会社はその申出を認めなければなりません。

また、一度は撤回を申し出たものの、再度同じ対象家族について介護休業取得の申出があった場合、会社は1回目の再申出に限ってはこれを認めなければなりません。

なお、介護休業開始日の前日までに当記事で解説した介護休業の終了事由に該当することとなった場合は介護休業取得の申出がなかったものとみなされるため、労働者からの介護休業取得申出に対してその旨を速やかに通知する必要があります。

休業中の賃金と介護休業給付金

介護休業中は労働者から労働の提供がありませんので会社は賃金を支給する必要はありません。

介護休業中、賃金を得られない労働者の生活の安定を支援するための制度として、雇用保険の介護休業給付金があります。

なお、介護休業給付金は介護休業の要件を満たす限り、2週間未満の休業でも対象となります。

介護休業給付金の金額

介護休業給付金は、介護休業開始日を初日として30日ごとに次の金額が支給されます。

休業開始時賃金日額×30×67%

介護休業給付金の受給要件

介護休業給付金を受給するには、介護休業開始日までの2年間に被保険者であった期間が1年以上必要です。

具体的には、介護休業開始日の前日から1カ月毎に区切っていき、その1カ月の中に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12カ月ある場合、介護休業給付金の受給資格を得られます。

現在の会社で上記要件を満たさない場合、その前に勤務していた会社で雇用保険に加入していればそちらも併せて受給資格の有無を判断します。

ただし、現在の会社に入る前に失業等給付の受給資格決定を受けた場合、たとえ給付を受けていなくても、それまでの雇用保険加入期間は受給資格の有無を判断するにあたって対象外となります。

社労士の松本 幸一がお答えします。介護休業のQ&A8選

Q1 介護休業中も社会保険料を支払わないといけませんか?

A.支払わないといけません。

育児休業と異なり社会保険料免除の制度がないため、労働者、会社共に休業中の社会保険料を支払います。

Q2 介護休業中の従業員は、働いてもいいですか?

A.問題ありません。

週に数日だけ介護休業を取得する運用もありますので、介護休業開始後も出勤すること自体は問題ありません。

Q3 介護休業中の従業員が働いた場合、給付金はどうなりますか?

A.休業期間中に支払われた賃金の額によっては給付金が減額調整されます。

Q2でお伝えしたとおり、介護休業期間中に働くこと自体は問題ありません。

ただし、介護休業給付金を受給するには、次の2つの要件を満たす必要があります。

・休業開始日を初日として30日ごとに区切った期間(支給単位期間と言います)に働いた日数が10日以下

・支給単位期間に働いた時間が80時間未満

これらの要件を満たさない場合、介護休業給付金は支給されません。

上記いずれかをクリアした上で、支払われた賃金により減額調整されます。

・休業開始時賃金日額×30×13%以下:満額
・同80%未満:80%との差額
・同80%以上:不支給

Q4 就業規則はありませんが介護休業を認めてもいいですか?

A.問題ありません。

就業規則等に介護休業について定めていなくても、法定通りの介護休業を定めているとみなされます。そのため、就業規則がないこと、就業規則に介護休業について定めていないことを理由に介護休業取得の取得を拒むことはできません。

キテラボ編集部よりワンポイント
介護休業について就業規則に明記することで、「社員が介護休業を取得しやすくなる」「介護休業を取得しない社員の理解も深まる」などの効果が期待できます。就業規則への記載をおすすめします。

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Q5 介護休業を取得したことで出勤率が8割未満となった場合、有給休暇は発生しないのでしょうか?

A.発生します。

年次有給休暇は出勤すべき日数(全労働日と言います)の8割以上出勤した場合に発生します。出勤率の算定にあたり介護休業は出勤したものとみなすため、介護休業以外の理由で出勤率が8割未満となる場合を除き、年次有給休暇は法定通り発生します。

上記年次有給休暇の出勤率のほか、介護休業の取得を理由とする不利益な取り扱いは禁止されています。

Q6 以前の会社で取得した介護休業とは通算されますか?

A.通算されません。

対象家族ひとりにつき最大で通算93日間のルールは事業主(会社、雇い主)毎に判断します。そのため同じ対象家族について以前の会社で介護休業を取得していたとしても、今回新たに最大で93日間の取得が可能です。

Q7 従業員から介護休業取得の申出がありましたが、共働きの配偶者が介護休業中です。
介護できる家族が他にいるため会社は介護休業取得を拒否できますか??

A.拒否できません。

限られた人数で業務を行う中、このようにお考えになるお気持ちは十分理解できます。しかしながら、介護休業の条件に「自身しか介護をする家族がいない」という要件はありません。

そのため、配偶者を含めた他の家族の介護休業中であっても、同じ対象家族について複数の家族が介護休業を取得することが可能です。

また、専業主婦(夫)である配偶者や会社勤めをしていない家族がいる場合も従業員本人の介護休業取得を妨げることはありません。

ただし、休業中のサポートにあたる従業員も同様に、ご質問のように感じることが少なくないでしょう。そのため、休業中サポートにあたってくれる従業員へ過度な負担がかからないよう会社主導での業務調整を心掛けましょう。

Q8 介護が必要な家族のいる労働者へ、介護休業以外で検討すべきことはありますか?

A.短時間勤務、法定時間外労働の制限、介護休暇等を併せて活用しましょう。

これまで解説してきた介護休業の対象となる労働者から申出があった場合に、育児介護休業法には介護休業の他に事業主が講ずべき措置について定められています。

短時間勤務等

勤務時間について、勤務時間の短縮、フレックス勤務や始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げなど、勤務時間の柔軟な運用が義務付けられています。また、記事公開時点で義務付けられていませんが、テレワークも積極的に活用できるとより良いでしょう。

法定時間外労働の制限

残業時間について、1カ月24時間、1年で150時間までとすることが義務付けられています。介護が必要な労働者の業務負担を軽減できる業務調整、作業手順の見直しが大切です。

介護休暇

無給の休暇を年間5日間、対象家族が2名以上の場合は年間10日間、書面での申出を必須とせず認めることが義務付けられています。

年次有給休暇を付与する際、出勤率の算定にあたって全労働日から除くことは義務付けられていませんが、介護休業が全労働日から除かれていることを考慮すると介護休暇についても全労働日から除くのが望ましいです。

育児介護休業法にはこれらの措置の他にも事業主が講ずべき措置が定められています。

(参照)育児・介護休業法(介護関係制度)の概要|厚生労働省

松本 幸一
さいわい人事労務事務所 社会保険労務士
TOP実務の手引き

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