通勤手当は対象となるか?事例を用いて解説

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KiteLab 編集部

人事労務担当者の仕事のひとつに、給与計算があります。
その給与計算の過程で重要な項目のひとつとして、各従業員の源泉所得税の算定があります。

源泉所得税の算定は、給与所得に対して所得税率を乗じて求めますが、通勤手当は課税所得に該当をするのでしょうか。
今回は、通勤手当は源泉所得税の課税対象となるのかについて、ご紹介致します。

源泉所得税とは

まずは、源泉所得税の仕組みについて確認をしましょう。
源泉所得税は、各従業員が給与所得に応じて負担すべき所得税のことです。
給与の支給の際に税額を差し引くことで、その税額を一時的に会社が預かり、従業員の代わりに納付することを源泉徴収といい、この仕組みにより給与から差し引く所得税は、源泉所得税といわれています。

参考  国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2508.htm

給与所得

源泉所得税の課税対象となる給与所得とは、従業員に支払う給与、役員に支払う役員報酬の他に、賞与や手当、現物給与が該当をします。

手当

手当には残業手当や休日出勤手当、職務手当、地域手当、家族手当、住宅手当等が該当をし、通勤手当の一部も給与所得に算入される手当に該当をします。

現物給与

現物給与とは、金銭で支給される給与以外の、経済的利益をいいます。会社所有の車を無償で従業員に譲渡した場合や、社宅を無償で利用させた場合等が該当をします。

必要となる源泉徴収事務

人事労務担当者は、給与計算の際に源泉所得税を計算し、その税額を従業員から差し引くことで一時的に預かり、従業員の代わりに納付を行う必要があります。

源泉所得税の計算は、手当等を含めた給与額面総額から社会保険料等を差し引き、社会保険料等控除後の給与等の金額を求め、これに扶養親族等の数を勘案した後に税率を乗じて行います。
実際には手計算ではなく、国税庁のホームページや税務署から入手することが出来る源泉徴収税額表や、給与計算ソフトを利用して計算をします。

計算された源泉所得税は給与支給時に従業員から差し引いて預かり、原則として給与支給日の翌月10日までに、会社全従業員から預かった金額を、所轄の税務署に納める必要があります。

 通勤手当の非課税の範囲

上記の手当でご紹介しましたように、通勤手当の一部は給与手当に算入され、源泉所得税の課税対象となります。
一部である、というのは、通勤手当は職務上必要な経費である場合が多いため、通勤手当には源泉所得税の課税されない非課税の範囲(課税限度額)が交通手段別に定めらており、その範囲を外れたものに限るためです。

ここでは、①公共交通機関のみを利用する場合、②マイカーや自転車のみを利用する場合、③公共交通機関とマイカーや自転車を利用する場合の3つの交通手段における非課税限度額等についてご紹介致します。

参考 国税庁 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2582.htm

公共の交通機関のみを利用する場合

電車やバス等の公共の交通機関のみを通勤で利用する場合は、1ヶ月あたり150,000円までの定期券代等が非課税に該当をします。
この非課税となる定期券代とは、時間、距離等の各従業員の事情と照らし合わせて、最も合理的かつ経済的であると判断出来る経路や方法によるものです。また、新幹線や特急列車を利用した場合の定期券代は通勤時間を勘案したものとして合理的である認められる場合には、非課税の通勤手当に該当をしますが、グリーン料金は合理的であるとは認められず、非課税の通勤手当には該当をしません。

電車通勤者の場合は、自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅までの定期券代が該当をし、その範囲を超えた定期券代、例えば習い事のために頻繁に利用する駅までの定期券代を非課税とすることは出来ません。

ここで公共交通機関のみを利用する場合に支払われる通勤手当の課税処理について、事例を用いて紹介します。

*いずれの例も最も合理的かつ経済的な経路を利用しているものとします

例1 地下鉄を利用し、1ヶ月あたりの定期代相当の20,000円を毎月支給している場合

この場合は、毎月支給される20,000円の全額が、所得税の課税対象になりません。

公共の交通機関のみを通勤で利用する場合は、1ヶ月あたり150,000円までの定期券代等が非課税に該当をするためです。

例2 新幹線と在来線を利用し、1か月あたりの乗車券の定期代相当20,000円に加えて、特急券の定期代相当150,000円の計170,000円を支給した場合

この場合は、毎月支給される170,000円のうち、20,000円が所得税の課税対象になります。

公共の交通機関のみを通勤で利用する場合は、1ヶ月あたり150,000円までの定期券代等が非課税に該当し、その金額に新幹線、在来線、特急券の代金を含みますが、150,000円を超過する定期券代等は所得税の課税対象になるためです。

マイカーや自転車のみを利用する場合

マイカーや自転車のみを通勤で利用する場合は、公共の交通機関のように客観的な通勤のための金額が分からないため、片道の通勤距離によって非課税の範囲が定められています。
この通勤距離とは、自宅と会社を結ぶ地図上の直線の距離ではなく、通勤経路に沿った長さのことをいいます。通勤経路の距離ごとの1ヶ月あたりの非課税限度額は下表のとおりです。

距離非課税限度額
2㎞未満全額課税
2㎞以上10㎞未満4,200円
10㎞以上15㎞未満7,100円
15㎞以上25㎞未満12,900円
25㎞以上35㎞未満18,700円
35㎞以上45㎞未満24,400円
45㎞以上55㎞未満28,000円
55㎞以上31,600円

ここで通勤手当の課税処理について事例を用いて紹介します。

例1 自宅から会社の通勤経路の長さが片道1.8kmで、自転車で通勤している従業員に対し、通勤手当として4,000円を支給した場合

この場合は、毎月支給される4,000円の全額が、所得税の課税対象になります。

上記の表のとおり、片道の通勤経路の長さが2㎞未満の場合には、支給される通勤手当の全額が所得税の課税対象となるためです。

例2 自宅から会社の通勤経路の長さが片道12.0kmで、自転車で通勤している従業員に対し、通勤手当として7,000円を支給した場合

この場合は、毎月支給される7,000円の全額について所得税の課税対象になりません。

上記の表のとおり、片道の通勤経路の長さが10㎞以上15㎞未満の場合の非課税限度額は、1か月あたり7,100円です。支給される通勤手当の金額7,000円は、非課税限度額に収まっており、例2における通勤手当は課税対象となりません。

例3 自宅から会社の通勤経路の長さが片道12kmで、車で通勤している従業員に対し10,000円を支給した場合

この場合は、毎月支給される10,000円のうち、2,900円が所得税の課税対象になります。

片道の通勤経路の長さが10㎞以上15㎞未満の場合の非課税限度額は、1か月あたり7,100円です。
支給される通勤手当の金額10,000円は、非課税限度額を超過しています。超過分は次の計算式のとおり2,900円となります。

10,000(円)ー7,100(円)=2,900円

そのため、例3における通勤手当10,000円のうち、2,900円が所得税の課税対象となります。

公共機関とマイカーや自転車を併用する場合

公共機関と、マイカーや自転車を併用して通勤で利用する場合は、公共機関の定期券代と、マイカーや自転車のみ利用した場合の非課税限度額を合算した金額(上限は150,000円)が、非課税の範囲となります。

ここで通勤手当の課税処理について事例を用いて紹介します。

例1 ①自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅までの1ヶ月あたりの定期代相当とし122,000円②自宅から自宅の最寄り駅までの50kmを、マイカーを利用するため28,000円 合150,000円を支給した場合

この場合は、毎月支給される150,000円の全額について、所得税の課税対象になりません。

併用する場合は、それぞれの通勤手段の非課税限度額を確認する必要があります。

まず①は、1ヶ月あたり150,000円までの定期券代等が非課税に該当することから、122,000円の全額が所得税の課税対象になりません。
次に②は、片道の通勤経路の長さが45㎞以上55㎞未満の場合の非課税限度額は、1ヶ月あたり28,000円まです。マイカーを利用するためにに支払われる28,000円の全額が所得税の課税対象になりません。

このように①、②共に非課税限度額の範囲内の支給であり、かつ合計が150,000円を超過しないことから、所得税の課税対象になりません。

例2 ①自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅までの1か月あたりの定期代相当122,000円、②自宅から自宅の最寄り駅までの30kmを、マイカーを利用するため28,000円の合計150,000円を支給した場合

この場合は、毎月支給される150,000円のうち、9,300円が所得税の課税対象になります。
上記の例1と支給される合計が150,000を超過せず、①の条件も変わりありませんが、②の条件が異なります。

②は、片道の通勤経路の長さが25㎞以上35㎞未満の場合には、1ヶ月あたり18,700円までの通勤手当が非課税に該当をしますが、18,700円を超過する通勤手当は課税対象となります。超過する金額は次の計算式で求められます。

28,000(円)ー18,700(円)=9,300(円)

そのため9,300円が課税対象となります。

このように、合計額が150,000円を超過しない場合であっても、それぞれの交通手段において非課税限度額よりも多い通勤手当を支給した場合には、超過した金額については所得税の課税対象になります。

例3 ①自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅までの1か月あたりの定期代が132,000円、②自宅から自宅の最寄り駅までの50kmを、マイカーを利用するため28,000円、合計160,000円を支給した場合

この場合は、毎月支給される160,000円のうち、10,000円が所得税の課税対象になります。

まず①は、1ヶ月あたり150,000円までの定期券代等が非課税に該当することから、132,000円の全額が所得税の課税対象になりません。

次に②は、片道の通勤経路の長さが45㎞以上55㎞未満の場合には、1ヶ月あたり28,000円までの通勤手当が非課税に該当をすることから、28,000円の全額が所得税の課税対象になりません。

このように、①と②は共に所得税の課税対象になりませんが、非課税限度額を合算した金額が150,000円を超過するため、超過した金額については所得税の課税対象になります。

まとめ

給与計算が正確に行われることは、会社と従業員の信頼関係を保つうえで、とても重要なことです。とりわけ通勤手当は、各従業員で金額が異なり、更に非課税の範囲が定められていることから、源泉所得税の計算間違いが多い項目です。

是非、ご参考になさってください。

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