ストレスチェックの概要や実施方法を解説!従業員「50人未満」事業場でも義務化を検討中
<ストレスチェック義務化の動向> 2015年 「常時50人以上の労働者を使用する事業場」で義務化 2024年 「全ての事業場」で義務化を検討中 |
社会保険労務士の松本幸一です。
今回のテーマは、「ストレスチェック」です。
2024年12月時点では、厚生労働省の検討会では、全ての事業場でのストレスチェック義務化が議論されています。本記事では、厚生労働省の検討会の中間とりまとめの内容(2024年11月)を参照にしつつ、ストレスチェックの概要や実地方法を説明します。
今後の義務化が検討されている「従業員50人未満」事業場の人事労務労担当者にも、ご確認いただければと思います。
ストレスチェックの概要
「ストレスチェック」とは、労働者がストレスに関する質問票に回答し、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査になります。
目的
ストレスチェックは、①会社の健康経営、②従業員のメンタルヘルスの保全、③働きやすい職場づくりを目的としています。
労働者にとってはストレスチェックを受験することで自身が抱えるストレスについて気付きを得る機会となり、必要に応じてセルフケア情報の提供、面接指導を受けることができます。
事業主にとっては事業の拠点・部署等集団ごとのストレスチェックの集計・分析結果の提供を受け、職場環境を改善する手がかりを得られます。
対象となる事業場
<現在> 従業員50人以上の事業場は義務化 従業員50人未満の事業場は努力義務 |
<今後> 従業員50人未満の事業場でも義務化される可能性あり |
※「従業員50人未満の事業場でも義務化」検討については、下記の記事でも紹介しています。合わせて、ご確認ください。
2024年「10月の振り返りと11月の準備」
【1】カスハラ防止条例が東京都で成立、【2】ストレスチェック「50人未満」にも義務化を検討、【3】最低賃金への対応など10月のトピックを振り返り、【4】フリーランス保護法(新法)への対応」や【5】過労...
実施状況
厚生労働省の検討会の中間とりまとめ(2024年11月)によると、ストレスチェックの実施が義務付けられている事業場のうち実際に実施している事業場の割合は約80%、実施義務のない50人未満の事業場では35%程度にとどまっています。
<ストレスチェック未実施の罰則>
従業員50人以上の事業場において、ストレスチェック実施後に報告しなかった場合、もしくは虚偽の報告を行った場合、最大50万円の罰則金が科されます。実施後は、速やかに事業場を管轄する労働基準監督署へ「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を提出してください。
対象者
・期間の定めのない者、もしくはそれと同視できる者
・所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の者
上記のいずれにも該当する労働者がストレスチェックの対象になります。つまり、多くの事業場において週の所定労働時間が30時間以上が対象となり、社会保険に加入する労働者と同じです。
義務化対象企業
ここまで「事業場」を単位として解説を進めてきましたが、企業単位ではどうでしょうか。
各事業場の労働者が50人未満であれば企業全体で50人以上の労働者を雇用していても実施義務はありません。あくまで努力義務ではありますが、「当分の間」であることを再度認識しておく必要があります。
ストレスチェックの実施方法
厚生労働省のストレスチェック制度実施マニュアルを参考にストレスチェックの全体像をお伝えします。実務担当者の視点で上記全体像を見てみると、大きく次の3ステップに分けられます。
①実施前の準備
上記の流れでは方針の決定後、衛生委員会での調査審議のステップが設けられていますが、ストレスチェックの実施が努力義務となる従業員50人未満企業で衛生委員会が設置されていることは少ないでしょう。そのため、衛生委員会での調査審議に代えて人事や総務を中心に実務担当者を決めて、方針の決定や決定実施機関の手配、社内周知について協議を進めましょう。
②調査票の配布・回収
従業員への説明を終え無事実施に至れば、実務担当者は外部機関から提供される調査票を対象の労働者へ配布・回収し、結果は労働者に直接通知されます。その際、労働者のメンタルヘルス状況が数値化され、労働者が抱えるストレスの程度によってセルフケアや相談窓口についての情報提供、もしくは面接指導の受験勧奨がなされます。
そのため、実務担当者の役割は実施にあたっての説明と、調査票の配付・回収にとどまり、実務担当者を含め社内の人間は個々の労働者についてストレスチェックの結果を知ることはできません。
ただし、労働者の同意を得て会社が結果の提供を受けることもできますが、あくまで労働者がストレスチェック結果の提供について自由に意思決定できるよう最大限の配慮が必要です。
また、最近ではオンラインでのストレスチェックも普及しており、実務担当者による調査票の配付・回収の手間が省けるため、これからストレスチェックの導入を検討する場合には特におすすめできる手法です。
③集団分析結果の活用
会社は個々の労働者についてのストレスチェック結果を知ることはできませんが、労働者のまとまりごとの集団分析と言って、例えば事業場や部署、勤務グループごとの集計・分析結果の提供を受けることができます。
会社では集団分析結果をもとに集団ごとの労働時間等の労働条件や指揮命令系統の見直し、社内相談窓口の設置等具体的なメンタルヘルス予防対策を検討します。
なお、集団の人数が極めて少数で、集団分析結果から個々の労働者の回答が特定できてしまうような場合には集団分析結果の提供を受けない旨を周知し、労働者の不安を払拭するのもひとつの方法です。
社労士の松本 幸一がお答えします。ストレスチェックのQ&A
Q1 ストレスチェックに関する社内規程を作成する必要はありますか? |
A ストレスチェックに関する社内規定の作成義務はありませんが、労働者の理解を得るためにも社内規定の作成、もしくは就業規則へ盛り込むといいでしょう。規程では目的・方針に加え、外部機関への個人情報の提供、回答に努めることも規定します。
Q2 従業員にストレスチェックの受験義務はありますか? |
A 従業員がストレスチェックを受験するかは任意であり、受験しないことによる給与・処遇等の不利益取扱いは禁止されています。
従業員がストレスチェックを受験することにためらいを感じている場合、ストレスチェックに関する社内規程の内容を再度説明するなど、受験を促すのが望ましいとされていますが、決して受験を強制することのないように配慮が必要です。
Q3 ストレスチェックはアルバイトに対しても実施しますか? |
A アルバイトであっても次のいずれにも該当する場合はストレスチェックの対象者となります。
・期間の定めのない者、もしくはそれと同視できる者
・所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上の者
Q4 ストレスチェックを実施したあと、どこに報告が必要ですか? |
A ストレスチェックの実施が義務付けられている事業場は、事業場を管轄する労働基準監督署に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を提出する必要があります。
本社を管轄する労働基準監督署へまとめて報告することはできないため、実施対象の事業場が複数ある場合、労働基準監督署への報告に要する作業時間も含めたスケジューリングを心がけましょう。
なお、勤務形態等のグループ毎に複数回に分けて実施している場合は全ての実施結果がそろってから報告書を作成し提出することとなっています。
Q5 ストレスチェックを外部に委託せずに、自社だけで対応することはできますか? |
A ストレスチェックの実施は医師や保健師等、一定の資格を有する者に限られています。そのため、産業医のいない事業場でストレスチェックを実施するには外部の実施機関への委託が必要となり、自社のみで対応することはできません。
Q6 例えば、従業員Aの上司Bから「従業員Aのストレスチェックの結果を知りたい」と要望があったときに、上司Bに情報を開示することはできるのでしょうか? |
A たとえ上司からの要望であっても原則としてストレスチェック結果を開示することはできません。
本記事で解説した通り、ストレスチェックの結果は本人の同意がない限り会社へ提供されることはありません。これは、ストレスチェックの結果が会社には知られないとすることにより、従業員の本意に従った回答を担保するためです。
ただし、従業員の同意のもと会社がストレスチェックの結果の提供を受ける場合も、人事考課・配置転換等に影響しないことをしっかり伝えたうえで、従業員から同意を得る必要があります。また、同意を得て開示されたストレスチェック結果を社内で知ることができる従業員の範囲についても事前に必要最低限に定めておく必要があります。
Q7 ストレスチェック実施の結果、高ストレスと判定された従業員には実施機関から何かアクションがあるのでしょうか? |
A 高ストレスと判定された場合はストレスチェックの結果と併せて産業医等による面接指導の受験を促す旨が通知されます。従業員が面接指導を希望する場合、事業場を通じてその旨を申し出ることとなりますので、事業場にあった面接指導の希望を申し出やすい環境(例:実務担当者へメールで申し出るなど)を整えましょう。
Q8 高ストレスと判定された従業員は会社に知られず面接指導を受けられますか? |
A 事業主を通じて面接指導を申し出ることとなるため、少なくとも社内の実務担当者は従業員が面接指導を申し出たことを把握することとなります。
さらに、面接指導を申し出たことをもってストレスチェック結果の開示に同意したとみなされます。そのためストレスチェックの実施について社内周知する際に、ストレスチェックの結果を会社に開示することへの同意を求めることに加え、面接指導を申し出た際はストレスチェックの結果開示に同意したものとして取り扱うことについても周知を徹底しましょう。そうすることで結果開示について労使の認識のズレによるトラブルを回避できます。
Q9 従業員が就業時間内に面接指導を受ける場合、会社は賃金を支払わなければいけませんか?有給休暇を取得してもらうことは違法ですか? |
A 面接指導が就業時間内に実施される場合、その時間を就業時間として所定の賃金を支払うのが望ましいですが、有給休暇を取得してもらっても違法ではありません。
現状、面接指導の時間について事業主の賃金支払い義務はなく、労使で協議して決定すべきとされています。しかしながら、雇用する従業員の健康保持のため、事業主にとっては従業員の稼働を維持・改善するために実施されるのがストレスチェックおよびその後の面接指導です。
そのため、ストレスチェック、面接指導いずれも就業時間内に実施される限りはその時間について賃金を支給するのが望ましいことに加え、実際に賃金を支給している事業場が大半です。
キテラボ編集部より
最後に、ストレスチェックと関連が強い「休職」や「休業」についての資料をご紹介します。皆様の業務のご参考になれば幸いです。
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