副業を認めるには!?就業規則に記載すべきポイントを社労士が解説
社会保険労務士の西岡秀泰です。
今回のテーマは副業です。
2024年11月に、厚生労働省が割増賃金の「労働時間通算ルール」見直しを検討していると報道されました。今後、副業促進の動きが強くなると思われます。
従業員の副業を認める際に注意したい点や、就業規則に記載すべきポイントを解説します。
企業が副業を解禁するメリットとデメリット
多様な働き方やキャリア形成のためのスキルアップを求める働き手が増え、企業に副業解禁を求める声が広がっています。企業としてどう対応するか検討する前に、副業解禁のメリットとデメリットを確認しておきましょう。
副業解禁のメリット
副業解禁の主なメリットは次の通りです。
- 従業員のスキルアップや成長が期待できる
- 従業員の定着率を高め新規採用もしやすくなる
- 組織の活性化が期待できる
メリットの1つ目は、副業先での業務を通じて従業員のスキルアップや成長が期待できることです。自社にない業務を経験することで、新たな知識やノウハウを身につけられるからです。従業員の成長は、生産性の向上にもつながります。
メリットの2つ目は、従業員の定着率を高め新規採用もしやすくなることです。副業解禁によって、従業員は新たな収入を得たり、やりたい仕事にチャレンジしたりできるため、会社に対する満足感が高まるからです。従業員の離職を抑えるだけでなく、企業の魅力が高まり新規採用にも好影響を与えます。
メリットの3つ目は、組織が活性化することです。副業する従業員が新しいアイデアやノウハウをもたらし、他の従業員に刺激を与えるからです。古い組織の慣習やマンネリ化した業務を見直すきっかけになることが期待できます。
副業解禁のデメリット
副業解禁の主なデメリットは次の通りです。
- 労務管理が難しくなる
- 本業に悪影響がでる可能性がある
- 情報流出のリスクが高まる
- 副業先への転職や独立のリスクがある
デメリットの1つ目は、複数の会社で勤務することにより労務管理が難しくなることです。副業先での労働時間を把握して社会保険の加入要件や時間外労働、残業代を計算する必要があり労務管理が複雑になるからです。従業員の健康管理も難しくなるでしょう。
デメリットの2つ目は、副業によって十分な休養が取れず本業に悪影響を及ぼす可能性があることです。副業先での業務内容や労働時間によって影響は異なりますが、過重労働による疲れや生産性の低下なども考えられます。
デメリットの3つ目は、副業先に機密情報や顧客情報、個人情報が流出するおそれがあることです。副業先が同業や関連業界の場合、従業員が自社の機密情報などを持ち出して副業先で利用する可能性があるからです。就業規則で副業先を限定したり、情報の持ち出しを厳しく制限するなどの措置が必要になることもあります。
デメリットの4つ目は、副業先への転職や独立のリスクがあることです。副業先からのスカウトによる離職、スキルアップや取得した知識・ノウハウ取得を活用した起業も考えられます。副業の普及とともに、人材の流動化はますます進むことも予想されます。
副業解禁する際に注意したい5つのポイント
【1】副業の労働時間の通算
法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)や時間外労働、残業代は、自社と副業先での労働時間を通算して計算しなければなりません。モデルケースを使って、労働時間の通算について見ていきましょう。
(モデルケース)
・自社での労働時間:8時間
・副業先での労働時間:2時間
自社の勤務だけなら法定労働時間内での勤務となりますが、副業先の労働時間を通算すると1日10時間となり、時間外労働が発生し残業代の支給が必要です。時間外労働に対する残業代は、勤務時間の遅い方が負担(通常賃金の25%以上の割増賃金の支払い)することになります。
自社での勤務後に副業する場合、副業先での労働時間が時間外労働となり、副業先が残業代を支払います。副業後に自社で勤務する場合、残業代を支払うのは自社です。副業解禁によって、副業先での労働時間の管理と残業代(残業代が発生しないケースもある)の負担が生じることを覚悟しておきましょう。
2024年11月時点で、厚労省は、1日8時間・週40時間を超えた労働に支払う割増賃金について、本業先と副業先の労働時間を通算して計算する現行制度の見直しを検討しています。今後、副業促進の動きは強くなると考えられます。下記の記事でも解説していますので、合わせてご確認ください。
2024年「11月の振り返りと12月の準備」
2024年11月も、【1】副業促進へ、割増賃金の「労働時間通算ルール」見直し検討【2】厚労省「106万円の壁」の議論が本格化【3】女性の管理職比率、公表義務の方針 など、人事労務担当者がチェックすべ...
【2】副業の通勤手当の取り扱い
通勤手当について法律上の定めはないため、通勤手当の有無や支給額については企業が任意に決定します。副業する従業員についても同様で、次のように企業が自由に決められます。
- 通勤手当はまったく支給しない、または副業先への交通費は支給しない
- 自宅と勤務先の往復交通費を支給する(副業の有無にかかわらす同額支給)
- 勤務先から副業先への交通費を支給する など
ただし、上述の通り、通勤手当を支給するか否かの判断や、支給する場合の額は企業が任意に定めることができます。支給する場合は、通勤手当が労働基準法上の『賃金』に該当し、就業規則の絶対的必要記載になることから、就業規則に定め、労働基準監督署長に届出(常時使用労働者10人以上の事業場)を行います。
【3】副業中に発生した通勤災害・業務災害の取り扱い
副業中に発生した通勤災害や業務災害については、副業先の労災保険によって補償されます。勤務先から副業先への移動についても同様です。企業にはすべての労働者を労災保険に加入させる義務が課せられているため、勤務先でも副業先でも労災保険に加入しています。
注意点は、労災給付の計算基礎となる「給付基礎日額(直近1年間の平均賃金を基に算出)」に勤務先での賃金が反映しないことです。副業先での賃金が少ない場合、副業先の労災保険からの給付は少額にとどまるでしょう。
働き方改革の一環として、国では副業や兼業の普及促進を図っています。副業の普及と副業する労働者の補償拡充を目的に、労災給付の見直し(すべての勤務先の賃金を反映して給付基礎日額を決定する、など)が検討されています。
【4】副業する従業員への安全配慮義務
企業には、従業員の安全と健康を守るために適切に配慮することが義務付けられています。副業によって長時間労働が懸念される従業員は健康被害のリスクが高いため、一層の配慮が必要です。
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業を行う労働者を使用するすべての使用者(勤務先と副業先)が安全配慮義務を負っていることを明確にするとともに、配慮の仕方について次のように例示しています。
- 就業規則などに「長時間労働による健康被害が想定される場合、副業や兼業を禁止または制限できる」旨の規定を設ける
- 副業の届け出時に副業によって安全や健康に支障がでないかを確認するとともに、副業の状況報告方法などを従業員と話し合う
- 副業の状況を報告などで把握し、健康状態に問題が認められた場合には適切な措置を講じる など
法律上の義務を果たすとともに、自社の貴重な戦力を守るための取り組みが必要です。
【5】副業する従業員の社会保険の取り扱い
副業する従業員の社会保険(健康保険や厚生年金保険)は、原則勤務先で加入します。ただし、副業先でも社会保険の加入要件を満たしている場合、勤務先でも社会保険に加入しなければなりません。つまり、社会保険に二重に加入することになります。
社会保険加入手続きは勤務先や副業先がしますが、従業員も日本年金機構に「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出して「主たる事業所」を選択する必要があります。健康保険組合に加入する事業所を選択する場合、健康保険組合への届け出も必要となるため、従業員に案内してあげましょう。
広義の社会保険(労働保険)については、次の通り取り扱います。
- 雇用保険:収入の多い勤務先で加入(二重加入できない)
- 労災保険:すべての勤務先で加入(二重加入しなければならない)
就業規則の記載で注意すべきこと
副業に関する就業規則の記載について、注意すべきポイントは次の3つです。
- 副業禁止・制限の規定を明確にすること
- 許可制にするか、届け出制にするか
- 副業の規定を守らない従業員への対応
各注意事項について解説します。
【1】副業禁止・制限の規定を明確にすること
公務員などを除けば法律で副業が禁止・制限されていないため、企業が副業を禁止したり制限したりしたい場合は就業規則に明記しましょう。副業を認める企業が増える中、従業員の誤解によるトラブル防止になります。
副業を制限する場合は、次のように制限するケースを一定程度具体的に記載しましょう。
- 労務提供上の支障がある場合
- 企業秘密が漏洩する場合
- 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- 競業により企業の利益を害する場合 など
【2】許可制にするか、届け出制にするか
許可制とは、副業していいかどうかを企業が判断して許可する、または許可しないという制度です。企業の判断基準を明確にしないと、従業員から反発を買うリスクもあるでしょう。
一方、届け出制の場合、副業をするかどうかは従業員自身が判断します。労働者の職業選択の自由に配慮して、従業員の決定を会社に届け出するだけで残業が可能です。
従来の厚生労働省・モデル就業規則では「許可制」と記載されていましたが、副業の普及促進を図るという国の考えに基づき現在のモデル就業規則では「届け出制」に変更されました。「許可制」にしている企業様も多いですが、どちらを選択するか、じっくりと考えてみることが大切です。
※「モデル就業規則」を活用する際に、注意するポイントなどを下記の録画セミナーで公開しています。
ご興味がある方は、合わせてご確認ください。
【3】副業の規定を守らない従業員への対応
副業の規定を守らない従業員に対しては、懲戒処分が必要になるかもしれません。従業員が違法性の高い仕事をしたり、副業先に機密情報を漏らしたりした場合、企業が社会的信用を失ったり大きな損害を被ることもあるからです。
ただし、従業員を懲戒処分するには就業規則にその旨を記載しなければなりません。副業を解禁する場合、副業に関する規定を新たに設けるとともに、懲戒規定も点検・整備しましょう。また、従業員への周知も必要です。
懲戒処分と就業規則については、下記の記事で弁護士が詳しく解説しています。合わせて、ご確認ください。
懲戒処分をするためには?弁護士が「懲戒事由を就業規則に定める際のポイント」を解説!
懲戒処分を行うためには、懲戒事由を就業規則に定める必要があります。懲戒種別ごとに懲戒事由を定めるべきか、避けるべき表現、懲戒事由の規定例などを解説します。人事・労務関連の基礎知識から、社内規程の作成や...
キテラボ編集部より
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社労士の西岡秀泰が答えます!Q&A5選
Q1 副業先と合わせて1週間の労働時間が40時間を超える場合、残業代はどちらが負担するのですか。 |
労働時間が1週間40時間に達したあとの勤務が時間外労働に該当します。時間外労働した事業所が残業代を負担します。モデルケースを使って確認しましょう。
(モデルケース)
- 自社での勤務:月曜から金曜日まで1日8時間(1週間40時間)
- 副業先での勤務:月曜から金曜日まで1日2時間(1週間10時間)
モデルケースでは、月曜から木曜までの通算労働時間は法定労働時間(1週間)と同じ40時間です。金曜日の勤務はすべて時間外労働となるため、自社(8時間分)と副業先(2時間分)はそれぞれ残業代の支払いが必要になります。
Q2 許可制で副業を解禁する予定ですが、フリマアプリで不要品を販売するなどのケースでも許可申請を必要とするべきでしょうか。 |
許可申請が必要な副業の範囲に関する法律上の定めはないため、企業ごとに判断します。副業での労働時間や自社の業務に与える影響、従業員の健康に与える影響などを考慮して、判断基準としましょう。
企業などに一定時間雇われて仕事をする場合、労働時間の通算などが必要となるため申請は必要です。フリマアプリでの販売活動や株式などの売買は、時間拘束されることもなく個人の趣味的な要素もあるため、申請不要としても問題ありません。
明確な判断基準を設定するのは難しいため、ケースバイケースで対応するのがいいでしょう。
Q3 副業を解禁している企業はどの程度ですか |
株式会社HRビジョンが運営するWebサイト「日本の人事部」の「人事白書調査レポート2020 働き方」によると、副業を認めている企業は22.7%です。制度はないが黙認している企業(8.1%)と副業解禁予定の企業(6.2%)を含めると、調査企業の4割弱です。
同レポートでは、副業している従業員の労働時間を把握していないとする企業が半数近くあり、把握するための方法も従業員からの報告に頼っている様子が伺えます。副業解禁に関する企業の取り組みや環境整備は十分とは言えませんが、法整備を含めて多方面での改善が予想されます。
Q4 副業をしている人の年末調整は勤務先と副業先の両方で必要ですか |
年末調整は、収入の多い方の事業所が行います。勤務先の方が多ければ、勤務先が他の従業員と同じように年末調整を行います。
年末調整は、所得控除などを反映して1年間の所得を正確に計算し、源泉徴収した所得税を精算するものです。2つの事業所で年末調整をすると所得控除を二重に受けることになるため、一方のみで行います。
ただし、副業先の所得は反映しないため、従業員が確定申告ですべての所得を申告して所得税額を確定しなければなりません。
Q5 複数のアルバイトを兼務する人をアルバイト採用する場合の注意点を教えてください |
最も注意すべきは、他のアルバイトでの労働時間の把握です。アルバイト先すべての労働時間の合計が1日8時間・1週間40時間を超える可能性がある場合、他のアルバイト先での労働時間を正確に把握しなければなりません。
時間外労働が把握できず残業代を正しく支給できなければ、労働基準法違反となります。また、他のアルバイト先で8時間以上働いたあと自社で仕事をする場合、労働時間すべてに割増賃金が発生するため、人件費が割高になる可能性もあります。