BCPとは?作成するメリットや内容を社労士が解説
社会保険労務士の玉上 信明(たまがみ のぶあき)です。
我が国では、地震、台風、大雨、津波、火山噴火はじめ多くの自然災害などに見舞われます。パンデミック、テロ、大事故など事業者ではコントロールできない様々な事件が起こります。これらの非常事態に直面した際にも、企業には「事業の継続」が求められます。このための計画を「事業継続計画(Business Continuity Plan、BCP)」と呼びます。
本記事では、BCPの必要性、メリットなどを解説します。
BCPに盛り込む内容の詳細や作成事例については、こちらの資料(28ページ)もご参考ください。
事業継続計画(BCP)とは
事業継続計画(BCP)は次のように定義されます。
「大地震等の自然災害、感染症のまん延、テロ等の事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化など不測の事態が発生しても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針、体制、手順等を示した計画」 |
(出典)内閣府「事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応- (令和5年3月)
この問題が我国で注目されるようになったのは、2011年の東日本大震災の発生以降です。
近年では新型コロナウイルスの世界的な流行を契機に、多くの企業が緊急事態の事業継続の必要性について真摯に考えるようになったと言われています。
事業継続計画(BCP)を図解すれば、次のようになります。
(出典) 内閣府「内閣府ガイドライン」
事業継続計画(BCP)の策定状況
実際の策定状況はまだ十分とは言えません。
内閣府が2024年1月に大企業中堅企業4,934社を対象にした調査では、次の通りです。
・大企業でBCPを「策定済み」と回答した割合は76.4%
・中堅企業でBCPを「策定済み」と回答した割合は45.5%
事業継続計画(BCP)を策定する5つのメリット
事業継続計画(BCP)の策定には、次のようなメリットがあります。
メリットを明確に認識しておくことが、具体的な事業継続計画(BCP)を策定するときの大切な手がかりになります。
【1】不測の事態に対応できる強い経営基盤ができ、顧客基盤を保持できる
緊急時に事業活動が停止すれば、企業は存続が危うくなり倒産にも追い込まれかねません。事業継続計画(BCP)の策定・実行により、緊急事にも最悪の事態を脱し、速やかな回復が図れます。顧客流出の危機にも素早く対処し、市場の自社シェアを維持できます。
【2】関係者からの評価や企業価値を高める
多様なリスクを想定した事業継続計画(BCP)を策定することそれ自体が、顧客や取引先企業、株主等のステークホルダーなど幅広い関係者に対して事業の継続性やリスクマネジメントに対する意識の高さをアピールできます。実際の事態発生時には、速やかな復旧により企業評価向上につながります。すなわち、危機的状況において逆に企業価値を高めることも可能になります。
【3】意識向上と迅速な行動が可能となる
緊急事には、速やかに最善の方法を決断し実行する必要があります。事業継続計画(BCP)を策定し、役職員が危機意識を共有し実際の行動計画をシミュレーションしておけば、緊急事にも、組織をあげて迅速的確に行動でき、スピード感ある復興が可能になります。
【4】従業員が安心・安全に働ける環境を守る
「ヒト」、すなわち従業員を守ることも事業継続計画(BCP)の重要な目的です。
緊急時に従業員の命を守り、安心して働ける環境を維持すること、すなわち従業員への安全配慮義務を尽くすことも事業継続計画(BCP)の大切な役割です。事態発生時や復旧時に業務継続を図るさいには、長時間勤務や精神的打撃など職員の労働環境が過酷になりかねません。労働契約法第 5 条(使用者の安全配慮義務)の観点からも、職員の過重労働やメンタルヘルス対応への適切な措置を講じることが使用者の責務となります。
【5】自社の強みと弱みが明確化する
緊急時には様々なリソースが不足します。優先して復旧すべき事業や業務を見極めて行動する必要があります。事業継続計画(BCP)策定時には、どの事業や業務が中断されると特に大きな影響が出るかを検討し、復旧の優先順位を的確に定めておく必要があり、本当に守るべき事業は何なのかが、明確になっていきます。普段は気づきにくい事業の改善点等も判明してくるでしょう。これも事業継続計画(BCP)策定の効果といえます。
事業継続計画(BCP)の作成と運用のフロー
概ね以下のようなステップやプロセスでBCPの策定やその後の運用が行われることが一般的です。
項目 | おもな内容 |
---|---|
1 基本方針・運用体制の検討 | BCP取組の目的や方針、社内の取組み体制 |
2 対象業務の検討(重要業務・目標復旧時間等の検討) | 災害等発生時に継続すべき「重要業務」を選定。業務の目標復旧時間を検討 |
3 具体的なBCPの策定 | 目標復旧時間内に重要業務を継続する戦略や手順を具体化、文書化 |
4 従業員教育・研修の実施 | BCPの実効性を高めるため、訓練や教育による従業員への周知 |
5 継続的な見直し・改善 | 訓練で洗い出された課題や組織体制の変化を踏まえ、現状のBCPの見直し・改善を定期的に行う |
<キテラボ編集部より>
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上記のような要望に対応するための資料を準備しました。下記の資料(28ページ)では、「小売業」「卸売業」「情報通信業」「サービス業」「製造業」など10業種ごとにBCPに記載したい内容を紹介しています。BCPの作成事例も豊富に紹介しています。本記事と合わせて、ご活用ください。
事業継続計画(BCP)の概要を解説
この資料でわかること BCPと災害対策の違い BCPを策定するメリッ ト 業界ごとのBCPの特性・具体例 BCPの作成方法 など 2024年1月の「能登半島地震」や8月の「南海トラフ地震臨時情
よくある質問に答えます!Q&A3選
Q1.BCPと防災計画の違いは何ですか? |
BCPと類似した言葉に、防災計画があります。概念的には次のように整理されます。
防災計画 | 災害などの被害を可能な限り防ぎ、いち早く復旧を目指すための計画。 |
BCP | 災害などで被害が生じた後、企業活動の継続や早急な復旧のための計画。 |
防災計画は、防災の未然防止に主眼があり、BCPは災害発生時のスムーズな復旧を目指す、という違いはありますが、実際にはBCPの中に防災計画の要素も取り込まれます。BCPは防災計画を越え事業そのものの復旧継続を目指す、と理解しておきましょう。
特に、危機的事象が発生すれば、活用できる経営資源に制限が生じます。BCPでは優先すべき重要事業・業務を絞り込み、どの業務をいつまでにどのレベルまで回復させるかを経営判断として決定する必要があり、単なる防災計画とは視点が異なることになります。
Q2.BCP策定後、どれくらいの頻度で見直したら良いでしょうか? |
A定期的(年1回以上)に点検を行いましょう。自社の事業戦略や次年度予算を検討する機会と連動して実施することが望ましいでしょう。そのほか次の機会にも見直すべきです。
・自社事業、内部または外部環境に大きな変化があったときに見直す。
・自社がBCPを発動した場合に反省を踏まえて見直す。
Q3.「BCPは自社だけの問題ではない」と耳にしますが、どのような意味でしょうか? |
A 事業継続計画(BCP)は自社対応だけでは完結しません。取引先等ステークホルダーとの協働も必要になります。自社が助けてもらうこともあれば、自社が他社を助けることもあるでしょう。自治体、地域住民との関係構築にも配慮が必要です。業界ごとの事業継続計画(BCP)の特性・具体例をご覧いただければ、よくご理解いただけるでしょう。下記の資料(28ページ)では、10業種ごとにBCPに記載したい内容や、BCPの作成事例も豊富に紹介しています。
事業継続計画(BCP)の概要を解説
この資料でわかること BCPと災害対策の違い BCPを策定するメリッ ト 業界ごとのBCPの特性・具体例 BCPの作成方法 など 2024年1月の「能登半島地震」や8月の「南海トラフ地震臨時情
<キテラボ編集部より>
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