労働基準監督署による監督指導と地方労働行政運営方針の変遷
労働基準監督署(以下「労基署」という。)が行う監督指導では、労働時間、賃金、健康の保持増進のための措置等に関する労働条件等が、法定に抵触していないか確認し、違反があれば行政指導が行われます。この監督指導は、年々厳しくなっているといわれています。各年度毎の監督指導の方針については、厚生労働省が毎年発表している地方労働行政運営方針(以下「方針」という。)で確認することができます。今回は、労基署による監督指導及び方針の変遷、特に長時間労働の監督指導にかかわる事項について解説します。
1.長時間労働等が疑われる事業場への臨検調査
平成27年度に発表された方針は、長時間労働の是正に向けた監督指導のターニングポイントといえます。同方針では、働き過ぎ防止に向けた取組の推進として、「各種情報から時間外労働時間数が1か月当たり100時間を超えていると考えられる事業場や長時間労働にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場に対して、監督指導を徹底する。(原文のまま)」と記載されています。平成26年度以前の方針では、長時間労働等が疑われる事業場への監督指導について明記されていたものの、具体的な時間外労働時間数等については明記されていませんでした。そのため、平成27年度に発表された方針から、長時間労働是正に向けて本格的な監督指導の取組を開始したことが伺えます。
2.長時間労働等の是正に向けた更なる取組み
平成29年度の方針では、①長時間労働の是正に向けた取組みとして、「特に月80時間超の時間外労働が疑われる全ての事業場に対する監督指導を徹底すること。」が掲げられているほか、②仕事と生活の調和の実現の取組みとして、「時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えている疑いがある事業場及び長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場に対して、引き続き監督指導を徹底する。(原文のまま)」との目標も掲げられています。
同年に発表された方針には、時間外・休日労働時間数という用語が使用されるとともに、指導対象となる事業場の選定基準は、「時間外労働時間数等が100時間を超える事業場」から「時間外・休日労働時間数が80時間を超える事業場」と変更されるなど、その基準は厳しくなっていることが確認できます。
加えて、同年の方針では、違法な長時間労働等が複数の事業場で認められた企業にかかる企業名公表制度について記載がされるとともに、「『労働者の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』を周知する。(原文のまま)」との方針が明記され、長時間労働の是正のほか、労働時間の適正な把握に向けた取組みが本格的に開始されたことが読みとれます。
3.長時間労働是正に向けた新たな取り組み
令和2年度に発表された方針では、従来通り時間外・休日労働時間数が80時間を超えていると疑われている事業場への監督指導に加え、すべての労基署に「労働時間改善指導・援助チーム」を編成することとされています。このチームは、説明会や中小企業の事業場への個別訪問による支援、改正労働基準法の周知を中心とした相談支援等を行うとされており、従来の監督指導(行政指導)とは違ったアプローチで事業場を「支援」するものとされています。