TOP労務コラムフリーランス新法の注意点とは!?取引条件の明示義務、発注事業者の禁止行為などを社労士が解説【2024年重要トピック】

フリーランス新法の注意点とは!?取引条件の明示義務、発注事業者の禁止行為などを社労士が解説【2024年重要トピック】

佐々木 光成
2024.07.04


社会保険労務士の佐々木 光成(株式会社KiteRa)です。

フリーランス新法が2024年11月から施行されます。

同法は、フリーランス人口が大きく増加するなか、フリーランスの働きやすい環境を整備するために制定されました。取引条件の明示義務や、発注事業者の禁止行為、ハラスメントに対する体制の整備義務などが盛り込まれています。

本記事では、新法成立の背景と、フリーランス新法のポイントを条文に沿って詳しく解説していきます。

フリーランス新法成立の背景

フリーランス協会 フリーランス白書2024を参考にKiteRaで作成

①フリーランスの実態
近年、クラウドソーシングを利用したフリーランスなどの非雇用型の働き方が、多様な人材の活用による経済活性化の観点から注目されています。2020年(令和2年)5月に内閣官房から発表されたフリーランス実態調査によると、フリーランスとして働いている方の人数は462万人であるという調査結果が出ています。フリーランスの業種はクリエイティブ系やエンジニアが多くを占め、その他には事務、営業、医療など多様な職種が存在します。

このように、デジタル社会の進展に伴い、多種多様な業種・職種に対して多くのフリーランスが参加しています。しかし、令和2年の「フリーランス実態調査」によると、一定数のフリーランスが依頼者から納得できない行為を受けた経験があると回答しています。

内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁 令和4年度フリーランス実態調査結果 を参考にKiteRaで作成

フリーランス・トラブル110番では、以下のようなトラブル事例が公開されています。「報酬金額を合意したうえで動画を納品したのに、出来栄えに納得がいかないとして報酬の減額を要求された事案」、「事前に了承されたアイディアに基づき作業し納品したところ、コンセプト違いを理由にやり直しを要請された事案」、「納品したサンプル作品が一方的に販売・利用された事案」などが掲載されています。

募集A市とB市で実施する工事に関する業務委託を受注したが、実際にはC市での工事であった。さらに、急な休みを言い渡されることが多々あり、予定されていた就業期間よりも大幅に短い期間で業務が終了した。
応募フォームには資格手当が支払われる旨の記載があったが、契約後、発注者に確認すると、資格手当の制度は無くなったと言われた。
育児介護介護等のやむを得ない理由で仕事の予約を1度キャンセルしたところ、今後の契約打ち切りを示唆するような脅しメールが送られてくるようになった。
これまで発注者等の都合で納期が延長していた事情があったのにもかかわらず、妊娠中であることを理由に受注者から仕事量の調整・納期の延長を申出たら、納期は延長できない旨を伝えられた。
ハラスメント業務委託の発注先の相手方から事務所内で抱きつかれるといったセクハラを継続的に受けたことにより、ストレスで仕事の継続が難しい状態となった。
業務委託契約で働いている別のスタッフが発注者から罵倒されているのを探知し、その言動はパワハラである旨を指摘したところ、「(自分を含め)業務委託のスタッフは、全員、契約を解除する」と通告された。
中途解除1年間の業務委託契約を締結していたが、発注事業者の従業員に対する悪口等を理由として、一方的に契約解除となった。
契約書には「迷惑行為があった場合には一定期間をおいて解除する」と規定されていたのにもかかわらず、身に覚えのない理由で、事前予告なく突然、契約を解除された。

(出典)厚生労働省 フリーランス・トラブル110番について

フリーランスは一個人として業務委託を受けるケースも多く、法人のような組織的な発注事業者との間に交渉力や情報収集能力の格差が生じやすいとされています。従業員を使用せず、自身で業務を行うことになるフリーランスは業務のキャパシティ的な問題から事業規模が小さく、特定の発注事業者に依存することになり易い可能性が高くなります。また、発注事業者の指定に沿った業務の完了まで報酬が支払われないことが多いという事情もあり、フリーランスは取引上、弱い立場にあると言えます。

多様な働き方の拡大は「高齢者雇用の拡大」、「健康寿命の延伸」、「社会保障の支え手・働き手の増加」への貢献が期待されており、フリーランスとして安心して働ける環境の整備が急務とされ、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス新法」という。)が制定され、2024年(令和6年)11月1日から施行されることとなりました。フリーランス新法では個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため、「取引の適正化」と「就業環境の整備」を図ることを目的としています。

フリーランス新法は「総則」、「特定受託事業者に係る取引の適正化」、「特定受託業務従事者の就業環境の整備」、「雑則」、「罰則」の全5章で構成されております。本記事では主に1章「総則」から3章「特定受託業務従事者の就業環境の整備」について解説します。

第一章より:対象となる当事者・取引の定義

第一章 総則

(定義)
第二条 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの

2 この法律において「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である前項第一号に掲げる個人及び特定受託事業者である同項第二号に掲げる法人の代表者をいう。

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

4 前項第一号の「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
一 プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの
四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの

5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。

6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの

7 この法律において「報酬」とは、業務委託事業者が業務委託をした場合に特定受託事業者の給付(第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、当該役務の提供をすること。第五条第一項第一号及び第三号並びに第八条第三項及び第四項を除き、以下同じ。)に対し支払うべき代金をいう。

フリーランス新法は従業員を使用せず、「1人の個人として業務委託を受けるフリーランス」と「従業員を使用して組織として業務を委託する委託事業者」の取引に適用されます。

①対象となる当事者・取引の定義(法第二条)

  1. 「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいう。
  2. 「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である個人及び特定受託事業者である法人の代表者をいう。
  3. 「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託することをいう。
  4. 「特定業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者であって、従業員を使用するものをいう。
    ※ 「従業員」には、短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含まない。

(本記事では、読みやすさを重視して、原則として特定受託事業者を「フリーランス」特定業務委託事業者を「委託事業者」と表現しています。)

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

フリーランス新法は個人と組織の力の差を考慮した法律であるため、特定業務委託事業者として規制を受けるのは「従業員を使用する事業者」であり、特定受託事業者として保護されるのは「従業員を使用しない個人又は法人(代表以外に役員がいない1人会社)」となっています。この使用する「従業員」は、週労働20時間以上かつ31日以上雇用見込みがある者が該当します。なお、派遣労働者であっても1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、継続して31日以上労働者派遣の役務の提供を受けることが見込まれる場合は「労働者を使用」に該当することに注意しましょう。

注意点1:対象となる「業務委託」が下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)よりも広いこと

フリーランス新法では、業務委託を次のように定義しています。

(1)事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

(2)事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

下請法では「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」と、業務委託がある程度類型化されていますが、フリーランス新法では業種の制限はありません。また、下請法では対象外となっている「自らが利用する役務」も明確に対象となるとされており、下請法よりも広い概念であることに注意が必要です。

注意点2:規制対象となる事業者の範囲が下請法より広いこと

下請法の対象となる取引は事業者の資本金規模で決定され、原則として資本金1,000万円以下の会社であれば規制の対象外とはなりませんが、フリーランス新法では組織と個人の交渉力の格差に注目していることから「従業員を使用する事業者」であれば規制の対象となります。

法人の場合、役員が2人以上いる場合は従業員を使用していなくても対象となります。大企業であれば、以前から下請法の対象となり、下請法の対応をそのままフリーランスにも適用することで対応できるものも多いですが、下請法対象外の中小企業などは新たに社内の制度を構築しなければならず負担が大きいと考えられます。

注意点3:事業者間取引が対象であること

フリーランス新法はBtoBにおける委託取引が対象です。例えば、一般の消費者からの注文に対応する場合や不特定多数に自らの作品を販売するような場合は対象外となります。

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

注意点4

フリーランスとの取引関係において複数の事業者が当事者として参加している場合、実質的にフリーランスに業務委託しているものが特定委託事業者に該当するとされています。例えば、芸能事務所と芸能人の関係において芸能事務所が単なる仲介業者なのか、芸能人へ業務を委託している特定委託事業者なのかという点において、実質的に芸能事務所が芸能人に業務を委託しているといえる場合は特定委託事業者に該当するといえます。この点については、今後、公正取引委員会等、行政からより詳細な基準が示される可能性もありますので、注視していく必要があります。

注意点5

企業に所属しながら副業として個人で仕事を請け負う方も増えています。この様な場合であっても特定委託事業者に該当する事業者がフリーランスに業務を委託した場合はフリーランス新法の対象となる点に注意が必要です。(例:弁護士事務所に所属している弁護士個人に業務を依頼するなど)

注意点6

取引関係に入る委託事業者、フリーランスが「特定受託事業者」、「特定委託事業者」に該当するか否かの判定は発注時点で行うこととされています。例えば、個人事業主が従業員を1人雇用している状態で委託を受けており、その後、従業員が退職し特定受託事業者の要件に該当したとしても、その委託に関して特定受託事業者とはなりません。なお、業務の委託に係る契約が更新される場合(自動更新を含む。)、あらためて業務委託があったものと考えられるため、更新後に特定受託事業者に該当していた場合、フリーランス新法が適用されることになります。

なお、従業員の有無についての定期的に確認する義務は課されてはおりませんが、業務委託時以外では、給付の受領時や更新時などのタイミングで適宜確認することが望ましいとされています。過度に負担にならない程度で、定期的な確認を行うようにすべきでしょう。

第二章より:特定受託事業者に係る取引の適正化

フリーランス新法第2章では「特定受託事業者に係る取引の適正化」というテーマで、取引内容の明確化や支払期日、その他遵守事項が定められています。

①特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等(法第三条)

第二章 特定受託事業者に係る取引の適正化

(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。

(ⅰ)明示するタイミング

業務委託事業者はフリーランスに業務委託をした場合、直ちに法律で定められた明示事項を「書面」又は「電磁的方法」により明示しなければなりません。これは業務委託契約の内容を明確にさせてトラブルを未然に防止することや、トラブルが生じた場合に業務委託契約の内容についての証拠として活用することができるという理由から制定されていると考えられます。この取引条件等の明示義務については、フリーランス同士の取引であっても有益なルールであると考えられるため、フリーランス同士の取引についても適用されることになっています。

(ⅱ)明示する事項

 法第三条では、次の事項を書面又は電磁的方法で直ちに明示することとなっています。

  1. 給付の内容
  2. 報酬の額
  3. 支払期日
  4. 業務委託事業者・フリーランスの商号、名称
  5. 業務委託をした日
  6. フリーランスの給付・役務を受領する期日
  7. フリーランスの給付を受領する場所
  8. 給付・役務の内容を検査する場合はその検査完了日

現金以外の方法で報酬を支払う場合の明示事項 明示方法で、電磁的方法による明示が認められていますが、電子メール、電子契約を締結するサービスの他、SNS等のダイレクトメッセージなど多様な方法が広く認められる方向となっています。

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

注意点1:業務委託後、直ちに明示しなければならない。

法第三条の明示義務は業務委託をした場合、「直ちに」明示されることが要求されているため、業務委託について当事者間で合意した場合、すぐに明示事項を通知する必要があります。一定期間に渡って同種の業務委託を複数行う場合は個々の業務委託ごとに同様の内容を取り決める手間を省く観点から共通事項を取り決めつつ、個別の契約ごとに合意を締結していくことがありますが、この場合は後に個々の業務委託をすることについて合意した場合をいうとされています。

注意点2:内容不定の場合の明示義務

法第三条で定められている明示事項について、その内容が定められないことについて業務の性質上、業務委託をした時点では決められないと客観的に認められる場合は明示しなくても良いとされています。ただし、その未定事項の内容が定められない理由、未定事項の内容を定めることとなる予定期日を明示する必要があります。

なお、委託者とフリーランスとで十分に協議をし、速やかに定めなければならず、定めた場合はただちに補充の明示を行うこととされています。

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

注意点3:委託事業者、フリーランスを識別できる情報について

委託事業者の明示事項の「業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できる情報」は氏名等には限られないとされています。これは、検討会において実際の氏名を開示せずに取引する例(HN等を利用するなど)が多いこと、フリーランス自身の氏名を明らかにすることは個人情報の観点から非常に摘用抵抗があるとの意見もあったことからフリーランスに係る取引の機会に影響が及ぶことを考え、このような定めになっていると考えられます。この点について、後日、Q&A等により詳細な説明がある可能性があるため、公正取引委員会の発表を漏らさずキャッチした方が良いでしょう。

注意点4:給付内容について

給付の内容とは、委託事業者がフリーランスに委託した業務が遂行された結果、フリーランスから提供されるべき物品及び情報成果物等です。法三条で定める通知において「品目」、「品種」、「数量」、「規格」、「仕様」等を明確に記載する必要があります。

注意点5:給付を受領し、又は役務の提供を受ける場所について

役務の提供委託において、委託内容に給付を受領する場所等が明示されている場合や給付を受領する場所などの特定が不可能な委託内容の場合には、場所の明示は不要であるとされています。

また、情報成果物の作成委託の場合で電子メール等を用いて給付を受領する場合には、情報成果物の提出先として電子メールアドレス等を明示すれば良いとされています。

②報酬の支払期日等(法第四条)

第二章 特定受託事業者に係る取引の適正化

(報酬の支払期日等)
第四条 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

2 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

3 前二項の規定にかかわらず、他の事業者(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合(前条第一項の規定により再委託である旨、元委託者の氏名又は名称、元委託業務の対価の支払期日(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合に限る。)には、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

4 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは元委託支払期日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは元委託支払期日から起算して三十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

5 特定業務委託事業者は、第一項若しくは第三項の規定により定められた支払期日又は第二項若しくは前項の支払期日までに報酬を支払わなければならない。ただし、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して六十日(第三項の場合にあっては、三十日)以内に報酬を支払わなければならない。

6 第三項の場合において、特定業務委託事業者は、元委託者から前払金の支払を受けたときは、元委託業務の全部又は一部について再委託をした特定受託事業者に対して、資材の調達その他の業務委託に係る業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない。

委託事業者がフリーランスに対し業務委託をした場合の報酬の支払期日は、委託事業者がフリーランスの成果物の内容について検査をするかどうかにかかわらず、委託事業者が成果物を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に定めなければならないとされています。なお、60日を超えた期日を定めた場合は「成果物受領日から起算して60日を経過した日の前日」となる点に注意が必要です。

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

また、当事者間で支払期日を定めなかった場合は「物品等を実際に受領した日」が支払期日となるので、確実に法律で要求される基準を満たした支払期日を設定すべきでしょう。

再委託が発生する場合は、原則として元委託支払日から30日以内のできる限り短い期間内に支払うこととされています。 

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

フリーランスが給付を行った日から60日以内に報酬を支払うことが原則ですが、再委託の場合、元請けかつ発注者が注文主に成果物を納品するより先にフリーランスへの支払期日が来る可能性があります。この様な場合、元委託支払期日から30日以内に支払うことができるという定めとなっています。

なお、再委託の場合、報酬の支払期日を定めないときは次に定める日が報酬の支払期日となります。

(ⅰ)報酬の支払期日が定められなかったとき・・・元委託支払期日

(ⅱ)30日を超えた期日を定めたとき・・・元委託支払期日から起算し30日を経過する日

ただし、フリーランスの責めに帰すべき事由により支払う事ができなかった場合は、支払えるようになった日から起算して60日((ⅰ)の場合は30日)以内に支払うこととされています。

注意点1 再委託の該当性

 第4条の再委託に該当するためには業務委託をする際に次の事項を明示する必要があります。

 (ⅰ)再委託である旨

 (ⅱ)元委託者の氏名又は名称

 (ⅲ)元委託業務の対価の支払期日

 (ⅳ)その他の公正取引委員会規則で定める事項(現状、特に定められてはいません)

注意点2 元委託者から前払金を受けた場合

再委託をする場合、元委託者からの前払金の支払を委託事業者が受けた場合、元委託業務の全部又は一部について再委託をしたフリーランスに対して資材の調達その他の業務委託に係る業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう、適切な配慮をしなければならないとされています。

③委託事業者の遵守事項(法第五条)

第二章 特定受託事業者に係る取引の適正化

(特定業務委託事業者の遵守事項)
第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。一 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと。
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
四 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること。
五 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること。

2 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、次に掲げる行為をすることによって、特定受託事業者の利益を不当に害してはならない。
一 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた後)に給付をやり直させること。

委託事業者はフリーランスに対し1か月以上継続して業務委託をする場合は次の禁止行為を行ってはならないとされています。この禁止行為はフリーランスの了解を得ていたとしても本条に違反することになります。また、1か月以上と、ある程度継続性がある業務委託について適用定めですので、全ての業務委託ではない点を確認しておきましょう。

禁止規定概要
①受領拒否注文した物品又は情報成果物の受領を拒むこと
②報酬の減額予め定めた報酬を減額すること
③返品受け取ったものを返品すること
④買い叩き類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること
⑤購入・利用強制フリーランスが指定する物・役務を強制的に購入・利用させること
⑥不当な経済上の利益の提供要請フリーランスに金銭、労務の提供等をさせること
⑦不当な給付内容の変更、不当なやり直し費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること

おおむね下請法4条の定めと同様となっていますが、フリーランス新法には「有償支給材の早期決済の禁止」、「割引困難な手形の公布の禁止」の定めは設けられていません(下請法の親事業者の禁止行為の詳しいかいせつは公正取引委員会 親事業者の禁止行為で確認することができます)。

注意点1 受領拒否の禁止について

受領を拒むという行為は「業務委託を取消すこと」や「納期を延期すること」によりフリーランスの給付を受け取らないことも含まれます。

注意点2 報酬減額の禁止について

報酬減額の具体例は次のようなものであるとされています。

・合意により単価を改定した後、合意日前の発注分についても引き下げ後の単価を適用し、新旧の差額を報酬額から差し引くこと

・消費税や地方消費税額相当分を支払わないこと

・書面又は電磁的方法による合意なく報酬支払時に振込手数料をフリーランスに負担させ、報酬額から振込手数料相当額を差し引くこと

・報酬支払に際し、端数が生じた場合、端数を1円以上切り捨てて支払うこと

・報酬総額をそのままに、発注数量を増加させる

なお、フリーランスへの報酬振込の際に振込手数料の負担者について合意していた場合は報酬額を減じることとはされません。あくまでフリーランスの責めに帰すべき事由なく業務委託時に定めた報酬を減じることが禁止されています。

第三章より:特定受託業務従事者の就業環境の整備

フリーランス新法では取引上の力関係を考え、フリーランスが安心して働くことができるよう就業環境の整備の定めが設けられました。育児介護などライフイベントへの配慮やハラスメントへの対応など労働関係法令に類似した定めが設けられていますが、フリーランスは労働者ではないことから労働関係法令の定めと全く同じものではありません。この章では就業環境整備の概要について解説します。

なお、フリーランス新法第15条では、12条から14条に関して必要な指針を公表することと定められているため、厚労省からの指針が公表された際はその指針を速やかに確認する必要があります。

①募集情報の的確な表示(法第十二条)

第三章 特定受託業務従事者の就業環境の整備

(募集情報の的確な表示)
第十二条 特定業務委託事業者は、新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法(次項において「広告等」という。)により、その行う業務委託に係る特定受託事業者の募集に関する情報(業務の内容その他の就業に関する事項として政令で定める事項に係るものに限る。)を提供するときは、当該情報について虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならない。

2 特定業務委託事業者は、広告等により前項の情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない。

 委託事業者は、新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告等についてフリーランスの募集に関する情報を提供するときは、その募集情報について虚偽表示や誤解を生じさせる表示をしてはなりません。また、募集情報は正確かつ最新の内容に保つ必要があります。

この定めは委託事業者とフリーランスとの間で取引条件にトラブルが生じたり、フリーランスが、より希望に沿った別の取引をするチャンスを失ってしまうことを防ぐことを目的とする定めです。労働関係法令では職業安定法5条の4に同様の定めが設けられています。

違反例

  • 意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示すること
  • 実際に募集を行う企業と別の企業名で募集を行うこと
  • 報酬額の表示があくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示すること
  • 既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続ける

違反例にあるように、虚偽や誤解を生じさせる表示、古い情報の表示などが違反例として挙げられています。なお、委託事業者とフリーランスとの間での合意に基づいて広告等に掲載した募集情報から実際に契約する際の取引条件を変更することは規制されていません。

注意点1 「広告等を活用」について

法第12条は広告等による不特定多数に対した募集情報の提供についての規制です。委託事業者がフリーランス特定個人に対して交渉において募集情報を提示するような場合は本条の規制の対象外となります。

注意点2 対象となる「募集に関する情報」の具体例について

法12条では提供する募集に関する情報について業務の内容その他就業に関する事項として厚生労働省令では次のように定められています。

  1. 業務の内容
  2. 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項
  3. 報酬に関する事項
  4. 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項
  5. 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項

②妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(法第十三条)

第三章 特定受託業務従事者の就業環境の整備

(妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮)
第十三条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条及び第十六条第一項において「継続的業務委託」という。)の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(当該特定受託事業者が第二条第一項第二号に掲げる法人である場合にあっては、その代表者)が妊娠、出産若しくは育児又は介護(以下この条において「育児介護等」という。)と両立しつつ当該継続的業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければならない。

2 特定業務委託事業者は、その行う継続的業務委託以外の業務委託の相手方である特定受託事業者からの申出に応じて、当該特定受託事業者(当該特定受託事業者が第二条第一項第二号に掲げる法人である場合にあっては、その代表者)が育児介護等と両立しつつ当該業務委託に係る業務に従事することができるよう、その者の育児介護等の状況に応じた必要な配慮をするよう努めなければならない。

委託事業者は、6か月以上継続して行う委託業務を行うフリーランスの申出に応じてそのフリーランスの「妊娠」、「出産」、「育児」、「介護」(以下「育児介護等」という。)と両立しつつ業務に従事することができるよう、そのフリーランスの育児介護等の状況に応じた必要な配慮をしなければなりません。この定めはフリーランスが業務と育児介護等とを両立し、その業務を継続できる環境を整備することが目的となっています。

 対象となる業務委託については6か月と、5条禁止行為の1か月と比べ長い期間が設定されています。これは、育児介護等への配慮は、委託事業者とフリーランスとの間に一定期間以上の取引関係があることで、両当事者間で調整できる関係性が発生するという理由から設定されたと考えられます。

③業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(法第十四条)

第三章 特定受託業務従事者の就業環境の整備

(業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等)
第十四条 特定業務委託事業者は、その行う業務委託に係る特定受託業務従事者に対し当該業務委託に関して行われる次の各号に規定する言動により、当該各号に掲げる状況に至ることのないよう、その者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない。
 性的な言動に対する特定受託業務従事者の対応によりその者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に係る業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動により特定受託業務従事者の就業環境を害すること。
 特定受託業務従事者の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものに関する言動によりその者の就業環境を害すること。
 取引上の優越的な関係を背景とした言動であって業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより特定受託業務従事者の就業環境を害すること。

 特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者が前項の相談を行ったこと又は特定業務委託事業者による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その者(その者が第二条第一項第二号に掲げる法人の代表者である場合にあっては、当該法人)に対し、業務委託に係る契約の解除その他の不利益な取扱いをしてはならない。

委託事業者はフリーランスに対し、その業務委託に関して行われる次のハラスメント行為により就業環境を害する事等が無いよう、フリーランスからの相談に応じて適切に対応するための体勢整備その他必要な措置を講じなければならないとされています。

  1. [セクハラ行為]性的な言動に対するフリーランスの対応により、フリーランスの業務委託の条件について不利益を与え、又は性的な言動によりフリーランスの就業環境を害すること
  2. [マタハラ行為]フリーランスの妊娠又は出産に関する事由で、次の事項に関する言動によりフリーランスの就業環境を害すること
    1. 妊娠したこと
    2. 出産したこと
    3. 妊娠又は出産に起因する症状により業務委託に係る業務を行えないこと若しくは行えなかった又は当該業務の能率が低下したこと
    4. 妊娠又は出産に関して法第十三条第一項若しくは第二項の規定による配慮の申出をし、又はこれらの規定による配慮を受けたこと
  3. [パワハラ行為]取引上の優越的な関係を背景とした言動で、業務委託に係る業務を遂行する上で必要かつ相当な範囲を超えたものにより、フリーランスの就業環境を害すること

ここでいうセクハラ・マタハラ・パワハラの定義は基本的には労働関係法令と同様となります。フリーランスに対して行われるこれらの行為によってフリーランスの就業環境を害することが無いよう、労働関係法令の場合と同様に,これらのハラスメントに関し,①方針の明確化とその周知・啓発,②相談・苦情に応じ適切に対応するための体制整備,③相談への迅速・適切な対応,再発防止措置,④プライバシー保護,不利益取扱禁止等の措置を行う必要があります。

また、「上記のハラスメント行為に関する相談を行った事」や「委託事業者によるその相談への対応に協力した際に事実を述べたこと」を理由として、業務委託に係る契約解除その他の不利益な取扱いをしてはならないこととなっています。

本規定は、フリーランスの尊厳や人格を傷つける行為として許されず、これにより引き起こされるフリーランスの就業環境の悪化・心身の不調・事業活動の中断や撤退を防止することを目的とする以下ことが目的です。

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

注意点1 対象となる業務委託について

ハラスメント行為に対する体制整備等の定めは、妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮のように6か月以上の継続的な業務委託である必要はありません。短期間の業務委託であったとしても適切な体勢を整備する必要があります。

④解除等の予告(法第十六条)

第三章 特定受託業務従事者の就業環境の整備

(解除等の予告)
第十六条 特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。次項において同じ。)をしようとする場合には、当該契約の相手方である特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、少なくとも三十日前までに、その予告をしなければならない。ただし、災害その他やむを得ない事由により予告することが困難な場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。

2 特定受託事業者が、前項の予告がされた日から同項の契約が満了する日までの間において、契約の解除の理由の開示を特定業務委託事業者に請求した場合には、当該特定業務委託事業者は、当該特定受託事業者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、遅滞なくこれを開示しなければならない。ただし、第三者の利益を害するおそれがある場合その他の厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。

委託事業者は、6か月以上の継続的業務委託に係る契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)をしようとする場合には、少なくとも30日前までにその予告をしなければなりません。なお、次に定める場合には予告を要しないとされています。

  1. 災害などのやむを得ない事由により予告が困難な場合
  2. フリーランスに再委託をした場合で、上流の事業者の契約解除などにより直ちに解除せざるを得ない場合
  3. 業務委託の期間が30日以下など短期間である場合、
  4. 基本契約を締結している場合で、フリーランスの事情で相当な期間、個別契約が締結されていない場合
  5. フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合

この定めは、一定期間継続する取引において、委託事業者からの契約の中途解除や不更新を不利ランスに予め知らせ、フリーランスが次の取引に円滑に移行できるようにすることを目的としています。予告の日から契約満了までの間にフリーランスが契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求した場合には開示する義務も課せられています。この開示は「書面交付」、「ファクシミリを利用して送信」、「電子メール等による送信」などが認められています。

労働関係法令の類似規定としては解雇の予告(労働基準法第20条1項)、退職時等の証明(労働基準法22条)があります。労働基準法では解雇する場合に解雇予告手当の支払を義務付けていますが、フリーランス新法にはそのような定めはありません。また、フリーランス新法の場合、第三者の利益を害する恐れがある場合等には証明書の交付を行わなくて良いという定めがありますが、労働基準法にはこの様な定めはありません。

(出典)内閣官房 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)

第五章より:罰則等

第五章 罰則

第二十四条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。一 第九条第一項又は第十九条第一項の規定による命令に違反したとき。
二 第十一条第一項若しくは第二項又は第二十条第一項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。

第二十五条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。

第二十六条 第二十条第二項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

フリーランスは、フリーランス新法に違反する事実がある場合、本法律の所管省庁(公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)に対して、その旨を申出ることが出来ます。なお、フリーランスが所管省庁に対し申出をしたとしても、不利益な取扱いをしてはならないとされています。この申出があった場合、所管省庁は、立ち入り検査等の必要な調査を行い「助言」、「指導」、「勧告」を行い、従わない場合は「命令」や「公表」を行うこととなっています。命令違反には50万円の罰金という罰則も用意されているので、委託事業者は必ずフリーランス新法を遵守する必要があります。

確認総まとめ

義務項目義務者(※)契約期間内容
①書面等による取引条件 の明示全ての委託事業者(従業員の使用の有無を問わない)業務委託をした場合、書面等により、直ちに、次の取引条件を明示すること
②報酬支払期日の設定・ 期日内の支払 特定業務委託事業者発注した物品等を受け取った日から数えて60日以内のできる限り早い日に報酬支払期日を設定し、期日内に報酬を支払うこと
③禁止行為 特定業務委託事業者1か月以上の業務委託フリーランスに対し、1か月以上の業務委託をした場合、法で定められた禁止行為をしてはならないこと
④募集情報の的確表示特定業務委託事業者広告などにフリーランスの募集に関する情報を掲載する際に、法で定められた要件を満たすこと
⑤育児介護等と業務の 両立に対する配慮特定業務委託事業者6か月以上の業務委託6か月以上の業務委託について、フリーランスが育児や介護などと業務を両立できるよう、フリーランスの申出に応じて必要な配慮をしなければならないこと
⑥ハラスメント対策に 係る体制整備 特定業務委託事業者フリーランスに対するハラスメント行為に関し、必要な措置を講じなければならないこと
⑦中途解除等の 事前予告・理由開示特定業務委託事業者6か月以上の業務委託6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しないこととしたりする場合は、原則として30日前までに予告すること

※本記事では簡潔に表示するために原則「委託事業者」「フリーランス」と表記していましたが、この表内では委託事業者、特定業務委託事業者(フリーランス新法の定義と同様)と分けております。

上図では、ここまでで解説した内容を表形式に纏めています。フリーランスに対し誰が委託したとしても①書面等による取引条件の明示義務は発生しますので、フリーランスに業務を委託しようと考えている場合は発注のための明示書面の雛形を用意しておく必要があります。また、継続的な取引を行うつもりであれば、取引上の禁止行為だけではなく労働関係諸法令の定められるような育児介護等への配慮、ハラスメントに関する窓口の設置などの義務も発生します。

フリーランス新法施行前までに会社がやるべき対応5選

法施行前にやっておくべきことを次のとおり纏めております。今のうちにできるところから進めておくことが、スムーズな法令対応に繋がるでしょう。

最後に、フリーランス新法施行前までに会社がやるべきことを纏めました。社内のフローの変更や相手方となるフリーランスとのやり取りの手順など、一定程度変更が必要になりますので、今のうちにできることから準備することがスムーズな法令対応に繋がるでしょう。

  1. フリーランス用の業務委託契約書の見直し、作成
    フリーランスへの業務委託は簡易な注文書を使用している企業も多いと思いますが、フリーランス新法に即した契約書を用意しておきましょう。
  2. フリーランス用の業務委託募集の内容、文言を見直す、又は媒体を精査する
    募集についても要件が決められています。事前にフリーランス新法に従った募集文言を作成しておきましょう。
  3. 対応マニュアル、フリーランス管理規程などを作成する
    下請法が適用される企業の場合、外注管理ルールや規程を用意している場合もあるでしょう。そこにフリーランス新法に関する業務委託の場合のルールを盛り込むことが考えられます。
  4. 社内体制を整備し、整備していることを対内的・対外的に周知する
    既に労働関係諸法令による育児介護等・ハラスメント等に関する措置義務に対応済の会社がほとんどだと考えられます。既にある社内の対応フローなどを利用し、フリーランスからの申出に円滑に対応できるようにしましょう。
  5. フリーランス新法の動向を確認し続ける
    今後、政府・公正取引委員会・厚生労働省などから指針、ガイドライン、Q&Aが発表されることが考えられます。定期的にフリーランス新法に関する情報を取得するようにしましょう。

※本記事は2024年6月13日現在の内容で記載しております。

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この記事を書いた人

佐々木 光成
社会保険労務士

株式会社KiteRa エキスパートグループの社会保険労務士。