【最新版】労働者派遣法の改正情報のポイントは?企業に必要な対応を解説
更新日:2021年9月1日
この記事では、同一労働同一賃金で注目度が高まる労働者派遣法について概要や、注意点、改正情報などを網羅的にまとめてご紹介していきます。
1.労働者派遣法の概要
労働者派遣法は派遣先の職場で不利益が生じやすい派遣労働者を守る目的で、1986年に施行された法律です。
労働派遣者とは(特定派遣/一般派遣)
労働派遣者とは、派遣先企業に正規雇用されているのではなく、派遣元企業と労働契約を結んでいる労働者の総称です。ちなみに派遣の形態は、以下の2つに区分されます。
- 特定派遣
派遣労働者が派遣元企業と正社員雇用契約を締結した上で、派遣先企業で派遣社員として勤務する形態です。専門知識や技術が求められる業種で積極的に行われ、派遣期間が無期限という特徴がありましたが、2015年の同法改正で廃止されました。 - 一般派遣
派遣労働者が派遣先企業に登録することで仕事の紹介を受け、派遣先企業と双方合意のうえで雇用契約を締結して、派遣社員として勤務する形態です。派遣期間は上限3年に制限されており、幅広い業種に対応しています。
労働者派遣法が制定された背景と目的
派遣という労働形態は同一労働条件下にもかかわらず、正社員と比較して賃金水準が低く、教育訓練が十分に受けられないなど、要改善点が少なくありませんでした。さらにはいわゆる「派遣切り」といわれる、契約期間半ばでの一方的な雇用契約解除など、突然収入が途絶えてしまうリスクも、労働者にとって大きな不安材料でした。
また雇用主(派遣元)と業務内容を指揮指示する派遣先が異なるため、雇用主責任の所在が不明瞭になりがちであるなど、システム上の課題もみられました。労働者派遣法はこうした派遣労働者の不利益という問題点を改善するとともに、派遣元・派遣先企業の責務を明確に定める目的で施行されました。
1986年に施行された労働者派遣法は、より的確な効果が期待される法として機能させるべく、その後複数回の改正を重ね、現在に至っています。
2.労働者派遣法改正の概要
1986年に施行された労働者派遣法は、より的確な効果が期待される法として機能させるべく、その後複数回の改正を重ね、現在に至っています。
【2021年】の労働者派遣法改正のポイント
教育訓練に関する事前説明を義務化
派遣先企業は派遣社員に対し、自社で実施する教育訓練に関し、あらかじめ説明しなくてはならなくなりました。在職期間が限られる派遣労働者のキャリア形成を、受入先となる企業が責任を持って積極的に進めることを義務化する、人材育成を重視した改正でした。
日雇派遣契約解除時の休業手当支払いを義務化
いわゆる派遣切りといわれる、派遣労働者側に責任が見当たらない理由での一方的な契約解除については、派遣元が休業手当を支払わねばなりません。同改正では、労働者派遣法施行当初は明確にされていなかった日雇派遣契約に関しても、同様に派遣元が休業補償を行わねばならないと定められました。
派遣労働者からの苦情処理対応を派遣先にも義務化
従来の労働者派遣法では派遣先で遭遇した法令違反や不合理に対し、派遣社員が派遣先にも苦情を伝え、派遣先がそれに誠実に対応すべきであると定められましt。当初は派遣元に限定されていた窓口を広げることで、派遣労働者の労働環境を改善を図る目的での改正でした。
その他改正点
その他同年の注目すべき改正点は、次の通りでした。
- 派遣契約書の電磁的記録すなわちペーパーレス化を容認しました。
- 派遣労働者が自身に適用される雇用安定措置に関して希望を述べられるようにしました。
- 派遣先企業が派遣元企業に対し、マージン率などの自社情報を開示する義務を負うことになりました。
【2012年】の労働者派遣法改正のポイント
日雇派遣を一部の例外を除いて原則禁止
以下にあげる例外を除き、日雇派遣(※1日単位もしくは30日以内の短期間派遣)を原則禁止と定めました。
- ソフトウエア開発
- 調査
- 研究開発
- 機械設計
- 財務処理
- 事業の実施体制の企画・立案
- 広告デザイン
- 秘書
- 添乗
- OAインストラクション
- 60歳以上の人
- 雇用保険適用外の学生
- 副業として日雇派遣に従事する生業収入500万円以上の人
- 世帯収入500万円以上の主たる生計者以外の人
グループ企業派遣の上限を8割以下に規制
派遣元が自社のグループ企業(※)に派遣する場合、60歳以上の定年退職者を除き、その割合の上限が8割以下でなければならないと定められました。
(※派遣元の親会社が議決権や資本金の過半数を有する子会社と親会社をグループ企業と称し、両者間での派遣に関する規制措置)
派遣契約解除に際し派遣先が講ずべき措置を義務化
派遣先の都合による派遣契約の解除に際し、派遣先は次の措置を講じねばならず、契約締結時にその旨を明記することが義務化されました。
- 対象となる派遣労働者の新たな就業先の確保
- 休業手当等の支払いに要する費用の確保
- 派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
その他改正
その他同年の注目すべき改正点は、次の通りでした。
- 26業務に関する派遣先の労働契約申込義務
- 待遇に関する事項の説明
- マージン率等の情報公開
- 離職後1年以内の労働者の派遣の禁止
- 有期雇用派遣労働者等の雇用の安定
- 均衡待遇の確保
- 労働契約申込みみなし制度(2015年10月施行予定)
【2015年】の労働者派遣法改正のポイント
派遣業界全体の健全化を図る目的での改正
悪質な派遣業者の横行を阻止すべく、すべての派遣業者を許可制と定め、悪質な業者には監督・指導・許可の取り消しができる、とされました。さらに許可の更新要件に、キャリア形成支援制度を有することが追加されました。
派遣元に対し雇用安定措置の実行を義務化
不安定な雇用形態の安定化を目的に、派遣期間満了の派遣労働者の希望があった場合、派遣元は下記(※)いずれかの措置を講じる義務を負う、と定めました。
(※1.派遣先に直接雇用を依頼する 2.新たな派遣先を準備提供する 3.派遣元での無期雇用とする)
派遣期間制限を個人/事業所単位に改定
従来の「26業務とそれ以外」と分けられていた期間制限を廃止し、すべての業種に関するルールが一元化されました。派遣労働者が1つの企業に派遣する期間の上限は3年で、配属先を別の課に変えた場合も同様です。
(※3年後の期間延長に際しては、過半数労働組合の意見を聞き、派遣先企業が求める所定の手続きを踏まねばなりません)
正社員雇用と派遣希望者の待遇改善を後押し
正社員登用を希望する派遣労働者のキャリアアップをサポート、正社員募集情報を提供するなど、可能性を模索する旨が盛り込まれました。また派遣労働を希望する人に対しては、賃金・教育訓練・福利厚生面でみられる待遇差を改善すべく、均衡待遇を強化する旨が記されました。
【2020年】の労働者派遣法改正のポイント
派遣先から派遣元への情報提供を義務化
派遣元が派遣労働者の賃金や待遇面を把握できるよう、派遣先が派遣元に関連情報を提供することが義務化されました。これは労働者派遣契約締結前に提供すべきものであり、情報提供が完了しない限り、同契約の締結は有効とならない、とされました。
派遣先・派遣元双方に対し、派遣労働者への情報提供を義務化
派遣労働者が派遣先での待遇などに納得したうえで働ける環境を整える目的で、派遣先と派遣元双方に対し、情報提供と説明を義務付けました。派遣労働者から情報の開示と説明を求められた場合、派遣先・派遣元双方は、これに誠意を持って対応しなければならない、とされました。
3.企業側に求められる措置、対応
労働者派遣法で定められた、派遣元・派遣先それぞれの企業側に求められる措置や対応は、次の通りです。
説明義務について
派遣先が派遣労働者を新たに迎え入れる際には、職業訓練内容やキャリア形成に関する自社の姿勢や考え方を説明しなければなりません。既存の制度の内容変更は必要ありませんが、この説明義務を満たすためには、現場でのオペレーションを改善する対応が望まれます。
苦情対応について
派遣先企業にとって派遣労働者からの苦情対応は重要な責務あり、労働者派遣法の以下の大まかな規定に対応できる態勢を整えておく必要があります。
- 苦情処理実施責任者を選出しておく。
- 派遣先だけで解決できると判断した苦情内容であれば、派遣元に報告の義務はなく、派遣先単独で対応してかまわない。
- 苦情の解決に派遣元との協力が必要と判断した場合は、双方が連携して解決に努める。
- 苦情を受けた内容は派遣元・派遣先それぞれの台帳に記録する。
雇用安定化措置について
雇用安定化措置とは、派遣期間が最長の3年間となる見込みの派遣労働者に対し、派遣期間終了後の雇用を視野に入れ、企業側が講じるべき措置を指しています。見込派遣期間が1~3年未満の労働者に対しては、同措置は努力義務とされています。
派遣元は派遣労働者に対し、以下の中から最も望ましい選択肢を直接確認し、聴取内容は派遣元管理台帳に記録しなければなりません。
(※労働者が無期雇用者である場合は、この対応は必要ありません)
- 派遣先での直接雇用
- 別の合理的な派遣先の紹介
- 派遣元での無期雇用
- その他の雇用継続を図るための措置
情報開示について
派遣業者が労働者派遣事業を営むに際し、開示の必要があるとされる以下の情報は、自社のホームページなどで、もれなく配信する対応が望まれます。
- 自社に登録している派遣労働者の数
- 派遣先企業の数
- マージン率
- 教育訓練や業務に関して特記すべき事項
日雇いについて
日雇い派遣の不安定な雇用環境を改善すべく、同改定では日雇い派遣の派遣元事業者に対し、十分な休業補償を行う重要性にも触れました。派遣労働者本人の責ではない一方的な休業や契約解除は「やむを得ない」とする風潮が根強かったこの時期、非情に意義のある提言でした。
4.労働者派遣法に違反した場合
ここでは労働者派遣法に違反した業者が受けた処罰(対応)の事例を、2件ご紹介します。
違反事例
許可の取消し事例
2015年8月21日 株式会社キヨウシステム
事業停止期間中に以下の法違反が確認されたことにより、労働者派遣法第14条第1項第2号の取消事由に該当し、取り消し処分が科されました。
- 法定の除外自由がない労働者を、派遣可能期間を超過して派遣。
- 同社代表取締役の指示により、労働局職員の立入検査を拒絶妨害。
事業廃止命令事例
2015年8月22日 株式会社Remix
中小企業緊急雇用安定助成金の不正受給が確認されたことにより、同社代表取締役が刑法第246条第1項(詐欺)に違反し、有罪判決を受けました。
同時に労働者派遣法に規定される欠落事由に該当したことで、事業廃止命令が下されました。
事業停止命令事例
2015年7月12日 株式会社イージーエス
派遣元事業所計7社から派遣労働者を出向と称して受入れ、この派遣労働者を他の派遣先に派遣労働者として派遣する、二重派遣の事実が確認されました。労働者派遣法に違反するこの労働者供給事業に対し、業務停止命令が下されました。
裁判外紛争解決手続(行政ADR)を活用する
行政ADR(裁判外紛争解決手続)とは、労働者と事業主間で生じた紛争を、裁判を回避して他の方法で解決する手続きを指しています。これは派遣労働者・派遣元・派遣先それぞれにとって心強い行政の援助であり、当事者の一方もしくは双方が申し出ることで活用できます。
ちなみに窓口となるのは都道府県労働局で、現時点では以下それぞれに関する職場のトラブルが対象です。
- 男女雇用機会均等法
- 育児・介護休業法
- パートタイム・有期雇用労働法(※旧・パートタイム労働法)
- 均衡待遇・待遇差の内容および理由に関する説明
5.労働者派遣法 3年ルール
ここでは度重なる法改正で想定されることとなった、2018年問題とは切り離せない、3年ルールについて補足説明します。
2018年問題
2012年の労働契約法改正に続く、2015年の労働者派遣法改正により、2018年頃に大量の雇い止めが生じ、失業者が増加する可能性が懸念され、これを「2018年問題」と称しています。
多数の企業が2018年前後に「とある問題」に直面することが予想されています。先に述べた通り、派遣労働者が同じ職場・部署で勤務可能な期間は上限3年に制限されており、これがいわゆる「3年ルール」です。労働者は期間を過ぎた場合、無期雇用の派遣社員になるか、別の新たな派遣先に移るかの二択を迫られます。
自社の有期雇用契約者に対し、企業が法に沿って対処する場合、負担せねばならない費用の増大は避けられず、2018年問題が現実となる展開が懸念されています。
6.まとめ
近年の労働者派遣法の改正では、派遣元・派遣先双方が派遣労働者を扱う際に、細やかな注意を払わねばならない内容が織り込まれています。非正規労働者の労働環境と待遇改善を後押しする世の中の流れもあり、今後とりわけ各企業の人事担当者には、より一層深い知見が求められると思われます。
今後も推し進められるであろう「働き方改革」に対応すべく、派遣労働者の労務環境と自社の制度の見直し作業は、多くの企業とって急務に違いありません。最新の労働者派遣法を正しく理解するために専門家の助言を仰ぐことも、この先想定されるリスクを回避するうえで、有効な選択肢の1つであると思われます。