生成AIを人事労務の現場でどう使う!?岩﨑 仁弥氏が活用方法を解説

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岩崎仁弥

特定社会保険労務士の岩﨑 仁弥(株式会社リーガル・ステーション代表取締役)です。

人事労務の世界に革命を起こしつつある生成AI。
その可能性に気づきながらも、まだ本格的に活用できていないという方も多いのではないでしょうか? 「生成AIに興味はあるけど、使い方がよく分からない」「試してみたものの、精度に不安を感じている」「アイディア出し程度にしか使えていない」。こんな声をよく耳にします。

しかし、適切に活用すれば、生成AIは人事労務の現場を劇的に変える力を秘めています。私自身、生成AIを活用することで業務効率を飛躍的に向上させた経験があります。
今回は、その経験を基に、人事労務担当者が生成AIを効果的に活用するためのガイドをお届けします。
ChatGPT-4、Claude 3、Perplexityの3つの生成AIを取り上げ、それぞれが向いている作業や、具体的なプロンプトなどを紹介していきます。

岩﨑 仁弥が活用する3つの生成AIツール


生成AIツールは日々進化しており、それぞれに特徴があります。
私が実際に活用している3つの主要なツールについて、その特徴と適した用途を紹介します。

まず、ChatGPT-4は幅広い知識ベースと柔軟な対話能力を持ち、複雑な人事施策の立案や多角的な視点からの問題分析、クリエイティブな企画立案に適しています。

次に、Claude 3は論理的思考力と高度な文章生成能力が特徴で、詳細な社内規程の作成や法的観点を含む文書のレビュー、複雑なデータ分析レポートの作成に向いています。

最後に、Perplexityは最新情報へのアクセスと高速な情報統合能力が強みで、最新の労働法改正情報の収集や業界動向、競合他社の人事施策のリサーチ、迅速な情報要約と報告書作成に適しています。

これらのツールを使い分けることで、より効果的に業務を遂行できます。例えば、Perplexityで最新情報を収集し、その情報を基にChatGPT-4で戦略を立案、最後にClaude 3で詳細な実施計画や規程を作成する、といった具合です。

適切なプロンプト(指示)が鍵


生成AIの真価を引き出すには、適切なプロンプト(指示)が鍵となります。

例えば、採用面接の質問作成では、応募者のスキルや求める人物像、質問の種類などを具体的に指定することで、より的確な質問リストを得ることができます。

社内規程の文言チェックでは、レビューしたい就業規則の条項を提示し、法的観点や明確性の観点からの改善点と改善案を求めることで、より実用的な結果を得られます。

賃金分析においては、分析したい賃金データを提供し、同業他社との比較、社内での賃金格差、改善が必要な点とその具体的な改善案について報告を求めることで、詳細な分析結果を得ることができます。

これらのプロンプトは、それぞれの目的に応じてカスタマイズし、より具体的な指示を加えることで、さらに精度の高い結果を得ることができます。

岩﨑 仁弥よりワンポイント
生成AIは、単なる便利ツールではありません。適切に使いこなせば、多岐にわたる業務で革新的な成果をもたらします。例えば、採用面接の質問作成では、応募者の経歴や求める人材像に合わせた、的確な質問リストを短時間で作成できます。

社内規程の文言チェックにおいては、法令遵守や明確性の観点から、規程の文言を精査し改善案を提示することが可能です。また、顧問先からのヒアリングで聞き取った企業ポリシーなどを規程の中に盛り込むことなども可能です。さらに各種ガイドラインやマニュアルなどから規程をゼロから作り上げることまでできます。

そのほか、メールマガジンの作成、顧問先の賃金分析、各種情報収集など、幅広い業務で活用できます。これらの業務において、生成AIを活用することで、作業時間の大幅な削減と品質の向上を同時に実現できるのです。

【1】ChatGPT-4oの場合

<得意な作業>

  • 文章作成:レポート、メール、プレゼンテーション資料などの下書き
  • データ分析:数値データの解釈や傾向分析
  • プログラミング:コードの生成、デバッグ、最適化
  • 多言語対応:翻訳や異文化コミュニケーションのサポート
  • 創造的タスク:ブレインストーミング、アイデア出し、データ分析能力に優れており、また、それを分かりやすく表現する能力も高いのでので、私は提案書作りによく活用しています。

<具体的なプロンプト>

あなたは優秀な人事コンサルタントです。 このExcelシートのD列に入力されている賃金総額の男女別、年齢階層別の分布を分析してこの会社の賃金構造の問題点を指摘して、人事評価制度の導入が必要であるという提案書を600字で作成してください。提案書は社長に提出します。 性別はA列、年齢はC列に入力されています。

<出力結果>

提案書:賃金構造の問題点と人事評価制度導入の必要性

株式会社〇〇〇〇 代表取締役社長 〇〇 〇〇 様


拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。この度は、当社の賃金総額の男女別、年齢階層別の分布を分析いたしました結果、以下のような問題点が明らかになりましたので、ご報告申し上げるとともに、改善策として人事評価制度の導入を提案させていただきます。

分析結果の概要

1男女間の賃金格差
女性の賃金は男性と比較して全体的に低く、特に30-40歳、40-50歳、50-60歳の年齢層において顕著です。例えば、30-40歳の女性の平均賃金は198,639円に対し、同年齢層の男性は294,920円であり、約1.5倍の差があります。

2年齢階層別の賃金分布
男性の賃金は年齢と共に上昇し、50-60歳で平均398,289円に達しています。一方、女性は50-60歳で300,505円と男性に比べて低い水準にとどまっています。

賃金構造の問題点

1性別による賃金格差
性別による賃金格差は、企業のダイバーシティ推進や公平な職場環境の実現に逆行するものであり、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇を招く恐れがあります。

2年齢による賃金の停滞
女性の賃金が年齢と共に停滞する現象は、キャリアパスの不明確さや昇進・昇格機会の不平等を示唆しています。

人事評価制度の導入の必要性

1公平な評価基準の確立
性別や年齢に関わらず、全従業員が公平に評価される制度を導入することで、賃金格差の是正が期待されます。業績や貢献度に基づく明確な評価基準を設けることで、透明性を高め、社員の納得感を向上させることができます。

2キャリア開発の支援
人事評価制度は、個々の従業員のキャリア開発を支援するツールとしても機能します。定期的なフィードバックを通じて、スキルアップや目標達成のための具体的なアクションプランを提供することが可能です。

3モチベーションの向上
公正な評価と適正な報酬がリンクすることで、従業員のモチベーションを向上させ、生産性の向上や離職率の低下を実現します。
以上の分析結果と提案を踏まえ、当社の持続的な成長と従業員満足度の向上を図るため、是非とも人事評価制度の導入をご検討いただきたく存じます。何卒、宜しくお願い申し上げます。


敬具
令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇〇〇 人事コンサルタント 〇〇 〇〇

※同じプロンプトを入力しても、入力するデータなどによって、同一の結果にならない場合があります。ご了承ください。

<その他のプロンプトの例>

  • 「[業界名]における最新のHRトレンドについて、500文字程度でまとめてください。」
  • 「従業員満足度調査の結果を分析し、主要な課題と改善策を3つずつ提案してください。」
  • 「新入社員向けオンボーディングプログラムの1週間のスケジュールを作成してください。各日の主要なアクティビティを含めてください。」

【2】Claude 3 (クロード)の場合

<得意な作業>

  • 長文の要約と分析:長い文書や報告書の要点抽出
  • 論理的な推論:複雑な問題の分析や解決策の提案
  • 文章校正:文法、スタイル、一貫性のチェック
  • 倫理的考察:人事施策の倫理的側面の検討
  • マルチモーダルタスク:画像と文章の統合分析
    日本語が大変美しい生成AIです。また、規定文の作成能力に優れており、規定作成や校正には手放せません。

<具体的なプロンプト>

あなたは優秀な社会保険労務士です。
次のpolicyを含めた日本の就業規則の目的条文を作成してください。
目的条文は一文で、250文字程度でお願いします。

<policy>
透明性が高く風通しのよい職場 明るい職場 生産性高く無駄な残業のない職場 ワークライフバランスの確立 多様性の尊重と差別のない職場環境 公正な評価制度 従業員自らが能力開発を行うための機会の付与と促進 ハラスメントの防止
</policy>

<書式> 第1条(目的) 〇〇
</書式>

<出力結果>

承知いたしました。ご要望に沿って、指定されたポリシーを含む就業規則の目的条文を作成いたします。以下が250文字程度の一文で構成された目的条文です:

第1条(目的) 本規則は、透明性が高く風通しのよい明るい職場環境を整備し、生産性を高めつつ無駄な残業を削減してワークライフバランスを確立するとともに、多様性を尊重し差別のない公正な評価制度を構築し、従業員の自主的な能力開発を促進する機会を提供し、あらゆるハラスメントを防止することで、従業員の権利と義務を明確にし、会社の秩序を維持しつつ業務の円滑な運営を図ることを目的とする。

※キテラボ編集部がclaude より入力し、実際に試した画像のスクリーンショットです。同じプロンプトを入力しても、同一の結果にならない場合があります。ご了承ください。

<その他のプロンプトの例>

  • 「添付の就業規則を分析し、現代の働き方に合わなくなっている箇所を指摘し、改善案を提示してください。」
  • 「最近の労働法改正について、人事部が対応すべき主要なポイントを5つ挙げ、各ポイントについて100文字程度で説明してください。」
  • 「ダイバーシティ&インクルージョンを促進するための社内トレーニングプログラムの概要を作成してください。対象者、目的、主要なトピック、期待される成果を含めてください。」

【3】Perplexity (パープレキシティ)の場合

<得意な作業>

  • 最新情報の収集:HR業界の最新ニュースやトレンドの調査
  • ファクトチェック:統計データや法律情報の確認
  • 比較分析:異なる人事施策や制度の比較
  • リサーチサポート:特定のトピックに関する幅広い情報収集
  • クイックアンサー:簡単な質問への迅速な回答

<具体的なプロンプト>

今年11月に施行されるフリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく業務委託契約書の作成に当たり留意すべき項目を8項目、箇条書きで挙げてください。

<出力例>

フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく業務委託契約書の作成に当たり、以下の8項目に留意すべきです:
・給付の内容(業務内容)を明確に記載すること
・報酬の額、支払期日、支払方法を明示すること
・報酬とは別に支払われる経費の有無と内容を明確にすること
・業務の完了予定日または契約期間を明記すること
・契約の解除・更新に関する事項(30日前までの予告等)を記載すること
・損害賠償責任の範囲や条件を明確にすること
・ハラスメント防止のための体制整備について言及すること
・知的財産権の帰属や秘密保持に関する取り決めを含めること
これらの項目を適切に契約書に盛り込むことで、フリーランスと発注事業者の間の取引の適正化を図り、トラブルを未然に防ぐことができます。また、法律の要件を満たすだけでなく、双方の権利と義務を明確にし、良好な取引関係を構築するための基盤となります。

※キテラボ編集部が perplexityより入力し、実際に試した画像のスクリーンショットです。同じプロンプトを入力しても、同一の結果にならない場合があります。ご了承ください。

<その他のプロンプトの例>

  • 「日本における2024年の最低賃金の変更点と、企業への影響について教えてください。」
  • 「テレワークが従業員のメンタルヘルスに与える影響に関する最新の研究結果を3つ紹介してください。」
  • 「グローバル企業における効果的な人材育成プログラムの事例を2つ挙げ、その特徴と成功要因を説明してください。」

生成AIは、人事労務担当者の業務を根本から変革する可能性を秘めています。適切に活用することで、業務効率の大幅な向上、意思決定の質の向上、創造的な問題解決、最新情報への迅速なアクセスといったメリットを得ることができます。

各AIツールの特徴を理解し、適切に使い分けることで、業務効率の向上と質の高い人事施策の立案・実行が可能になります。例えば、Perplexityで最新情報を収集し、その情報を基にChatGPT-4で戦略を立案、最後にClaude 3で詳細な実施計画や規程を作成する、といった具合です。

ただし、生成AIはあくまでもツールであり、人事労務の専門知識や経験に基づく判断を置き換えるものではありません。生成AIの出力を鵜呑みにせず、常に専門家としての視点でチェックし、必要に応じて修正を加えることが重要です。

AIを賢く活用し、人事業務の質と効率を高めていきましょう。皆さんの業務が、生成AIの力を借りてさらに進化することを願っています。

生成AIを利用するにあたっての注意点

生成AIの活用には大きな可能性がありますが、同時に以下の点に注意が必要です:
データの機密性と個人情報保護: 個人情報や機密情報の取り扱いには細心の注意を払いましょう。

①法的・倫理的配慮: AIの出力が労働法規や企業倫理に抵触していないか、必ず確認してください。

②バイアスと公平性: AIの提案にバイアスがないか、特に採用や評価の場面では注意深く検討しましょう。

③出力の検証: AIが生成した情報、特に法改正や統計データは、必ず公式情報源で確認してください。

社内ガイドラインの策定: AIの利用に関する明確なルールを設け、適切な使用を促進しましょう。
従業員への説明責任: AI活用の透明性を確保し、従業員の理解と信頼を得るよう努めてください。


これらの点に留意しながら生成AIを活用することで、より安全で効果的な人事労務業務の遂行が可能となります。生成AIと人間の専門性を適切に組み合わせ、常に従業員と組織の最善の利益を追求する姿勢を持ち続けることが、これからの人事労務担当者には求められています。生成AIを味方につけ、より戦略的かつ創造的な人事労務業務を展開していきましょう。皆さんの業務が、生成AIの力を借りてさらに進化することを願っています。

キテラボ編集部より
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岩崎仁弥
株式会社リーガル・ステーション代表取締役、特定社会保険労務⼠
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