2025年「12月の振り返りと1月の準備」

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松本 幸一

特定社会保険労務士の松本 幸一です。

2024年は短時間労働者への社会保険の適用拡大、マイナ保険証への移行に向けた健康保険証の発行終了など人事労務担当者の方にとって新たに対応すべき事項が多く慌ただしい1年だったのではないでしょうか。

2025年も高年齢雇用継続給付の支給率上限の低下、出生後休業支援給付金の創設などが控えています。

本記事では、2025年のスタートダッシュの助けとなるべく、12月の振り返り、1月の準備として皆様の業務に活用できるようなトピック5個をご紹介します。

12月の振り返り

【1】LINEヤフー、フルリモート廃止

参考ニュース:https://biz-journal.jp/company/post_385649.html#google_vignette

今や日常のコミュニケーションツールとしてはもちろん、ビジネスシーンにおいても欠かせない存在であるLINEを運営するLINEヤフー株式会社がこの度フルリモートワークを廃止することを発表しました。2025年4月以降、従来のフルリモートから事業部門の社員は原則週1日、その他開発部門や管理部門などの社員は原則月1日出社を義務付けるとのことです。

フルリモートワークの導入を機に地方へ移住した社員などへは通勤に要する費用を支給するとのことですが、コロナ禍以降急激に普及したリモートワークは賛否が分かれるところで、実際に自社で今後リモートワークの運用をどうすべきか、頭を抱えている経営者、人事労務担当者の方も少なからずいらっしゃるはずです。

あくまで私見ではありますが、リモートワークの運用を検討するにあたっては自社がこれまで歩んできた歴史、従業員の勤続年数や年齢分布、子育て・介護の状況、今後の目指す自社の姿やあり方などをベースにそのメリット・デメリットを比較すべきであり、「大手でもリモートワークを廃止したんだからうちも廃止!」と短絡的に判断するのは好ましくないと考えています。

ちなみに、リモートワークを廃止する際には、就業規則の変更も必要になってくる場合もあります。その際には、リモートワーク導入の背景や目的を改めて確認し、その変更が合理的であるかを慎重に検討することも重要です。

就業規則の不利益変更については、下記の記事も合わせてご確認ください。

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就業規則の不利益変更とは?要件や具体的な手順、注意点などを弁護士が解説!

就業規則の不利益変更の2つの要件は、【1】変更後の就業規則の周知と【2】就業規則の変更の合理性になります。後者の合理性については、不利益の程度や変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性などがポイン...

【2】過半数代表者の見直し議論が加熱

参考ニュース:https://roukijp.jp/?p=12740

36協定や就業規則の意見書に名前を書く人、というイメージが強いであろう過半数代表者についての課題や今後のあり方について労働基準関係法制研究会において議論が重ねられています。

本来、過半数労働者は労働組合がある事業所における代表者に近い役割を果たす立場にあることから、その選任は適正に行われるべきであり、選任後のトレーニングや負担軽減などフォローが必要なことは明らかです。しかしながら研究会では選任手続きの形骸化や代表者の交渉・意見集約スキルの不足など、過半数代表者に期待される役割を全うするためにはまだまだ課題が多いとされています。

労働組合の専従役員とは異なり、通常の業務に加えて意見集約などを行う必要があるため、労働者にとって過半数代表に選出されること、選任後の役割を全うすることについての動機が見いだしにくいのは当然のことです。そのため、研究会では過半数代表者に任期を設ける、過半数代表者を複数名選任し負担軽減とより広範な意見集約を目指すなど、過半数代表者としての自覚を強める必要があることも意見に上がっています。

リモートワークやフリーランスとの掛け持ちなど、働き方がより一層多様化する中で、使用者と労働者が向き合って労働環境を整備していくためにも、より実態に即した労使コミュニケーションに向かって議論が収束することに期待したいところです。

過半数代表者について、研究会での議論を含めて、下記の記事にて詳しく解説していますので是非併せてご覧ください。

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過半数代表者とは?厚生労働省が見直しを検討中の内容も紹介

過半数代表者は36協定だけでなく、50以上の制度に関与してきます。非常に重要な役割をになっています。そのような過半数代表者のあり方について、2024年12月時点で、厚生労働省は見直しを検討しているよう...

【3】厚労省がカスハラ対策を義務化する方針

参考ニュース:https://nordot.app/1244940112073736904

2024年12月、厚生労働省はカスタマーハラスメント(カスハラ)から従業員を保護する対策を「全企業に義務付ける」とした報告書をまとめ、本年の通常国会で関連法案提出を目指しています。

報告書ではカスハラを次のように定義しています。

(1)顧客や取引先、施設利用者らが行う

(2)言動が社会通念上相当な範囲を超える

(3)就業環境が害される

既に2023(令和5)年に心理的負荷による精神障害の労災認定基準にカスハラが新たに追加されたことからも、厚労省がカスハラ防止を重要視していることが分かります。

消費者向け製品・サービスにおける理不尽なクレームは以前から問題視されていましたが、特に近年ではSNS等での動画配信によるいわゆる「晒し」行為が多くみられます。従業員の顔が映ったものがそのまま配信される場合や、顔が映っていなくても名札などから個人を特定されるなど、新たなハラスメントと常に隣り合わせの状況で働くことは想像以上に大きなストレスになります。

もちろん、ケースによっては従業員として改めるべき点があるのも否定できませんが、まず使用者サイドが指導等を行い改善すべきであって、消費者による晒し行為に大義はない、というのが個人的な考えです。

こういったことから一部の小売店、飲食業等では名札をイニシャルにする、そもそも名札を着用しないといった対策を講じているところもあります。カスハラ対策が法律で義務付けられることになってから慌てないよう、社外にも目を向けたハラスメント対策の準備を進めていきましょう。

下記の記事は、社労士向けに顧問先を守るための対処法を紹介したセミナーの内容を紹介しています。人事労務や総務などの担当者の方も、マニュアル作成の際にご参考になれば幸いです。録画セミナーの視聴はこちらからお申し込みできます。

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カスハラ対策マニュアルの作成で意識すべき2つのポイントは!?【セミナーレポート】

成蹊大学 法学部 教授 原 昌登 氏が、カスハラ対策の「マニュアル作成」をする際に重要な、【1】判断基準の「具体性」と【2】カスハラの「類型化」について解説しています。

1月の準備

【4】マイナポータルで離職票の受取可能

参考ニュース:https://roumu.com/archives/125232.html

2025年1月20日より、離職者が希望する場合にマイナポータルから離職票を受け取れるようになります。この新サービスは人事労務担当者のペーパーレス化をさらに後押ししてくれる画期的なものとなっています。

退職した従業員へ渡す書類の代表格は次の3つです。

①給与明細・源泉徴収票
②退職証明書
③離職用

これら退職時の書類発行はリモートワークの普及によって以前にも増してペーパーレス化が進む中、人事労務担当者のペーパーレス化に待ったをかける存在でした。これらの書類を渡すときには既に従業員は退職しているわけですから、郵送が一般的で、なかには退職後に従業員が受け取りに来るケースもあるでしょう。いずれにしても人事労務担当者の方が書面で用意する必要があることに変わりはありません。また、先日郵送料金が改定されたことで、従業員の入退社が多い会社ほど、退職時の書類発行のペーパーレス化に試行錯誤していることかと思います。

①給与明細・源泉徴収票

クラウド明細やメール・チャットツールなどを通じて渡すことが可能ですのでペーパーレス化のハードルは比較的低いと言えます。

②退職証明書

一方で、国民健康保険への切り替え、家族の扶養親族となる場合に必要な退職証明書は事業主印の押印が必要です。マイナ保険証が導入され、昨年12月には保険証の発行が廃止されたものの、国民健康保険への切り替えの際は従来と変わらず原則として退職証明書が必要で、家族の扶養親族となる場合にも、重複加入を避けるため引き続き退職証明書を求めることになります。

この点、市区町村の国民健康保険担当課、年金事務所でもマイナンバーから健康保険の加入状況を確認できる仕組みが整い、退職証明書が不要となることに期待したいところです。

③離職票

失業保険を受給するために必要な離職票ですが、電子申請を導入していない場合は様式が複写式となっているため書面での発行が大前提となっており、電子申請を導入している場合でも手続き完了後に印刷し書面で渡しているケースが大半です。

そんな中、離職票についても郵送以外の選択肢が出来たことは非常に画期的なことであると感じています。電子申請の導入が前提にはなりますが、これまで電子申請完了後の離職票を印刷して郵送する、もしくは離職票の電子データをメールなどで送付する、いずれにしても社内の担当者の作業はゼロではなかったはずです。あくまで退職する従業員の希望に応じてではありますが、郵送や手続き担当者による電子申請完了確認の時間をショートカットできるわけですから、会社・従業員の双方にメリットがあります。そのため、強制するのは望ましくありませんが、社内で時期を見てマイナ保険証の利用促進と併せて退職時のマイナポータルでの離職票受け取りの普及も進めていくことをおすすめします。

従業員から離職票の発行を求められたときの手続きについては、下記の記事で詳しく解説しています。

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「離職票」の発行を求められたら?離職票発行までの流れや注意点を社労士が解説!

離職票を発行する場合には、助成金の受給や労使間トラブルにも発展する可能性があるため、注意すべきポイントがいくつもあります。「失業保険を受給できない離職者にも交付が必要?」「退職理由で労使の意見が合わな...

【5】労働者死傷病報告の電子申請が義務化

参考ニュース:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/denshishinsei_00002.html

2025年1月より、労災事故で労働者が死亡もしくは休業した際に労働基準監督署に提出する労働者死傷病報告書を電子申請にて提出することが原則となりました。

(引用)労働者死傷病報告の報告事項が改正され、電子申請が義務化されます|厚生労働省

また、労働者死傷病報告のほか、以下の報告についても電子申請が義務化されました。

・総括安全衛生管理者/安全管理者/衛生管理者/産業医の選任報告
・定期健康診断結果報告
・心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)結果等報告
・有害な業務に係る歯科健康診断結果報告
・有機溶剤等健康診断結果報告
・じん肺健康管理実施状況報告

当面の間、電子申請が困難な場合には書面での提出も受け付ける経過措置が設けられていますが、先の退職時の書類同様郵送コストが従来に比べよりシビアになったこともふまえると、このタイミングで電子申請を検討するのがおすすめです。

電子申請にあたっては、厚生労働省より入力支援サービスが提供されており、電子申請が困難な場合も作成した書面を印刷できますので、まずはこちらを活用して電子申請に挑戦してみましょう。

(参照)労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス|厚生労働省

松本 幸一
さいわい人事労務事務所 特定社会保険労務士
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