2025年「2月の振り返りと3月の準備」

更新日

|

投稿日

北 光太郎

社会保険労務士の北光太郎です。

年度末を迎え、人事異動や制度改正の準備など慌ただしい時期になってまいりました。

社会保険・労働保険料については、3月に健康保険・介護保険料率が改定され、雇用保険料率も4月から改定される予定です。

また、2025年(令和7年)4月から施行される改正育児・介護休業法に対応するため、就業規則の変更や新たに創設される給付金の対応なども必要となるでしょう。

本記事では、皆様の業務に活用できるようなトピック6個をご紹介します。ご参考になれば幸いです。

2月の振り返り

【1】出生後休業支援給付金・育児時短就業給付金の創設について

参考ニュース:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-hellowork/list/shibuya/important_topics/070116_00001.html

2025年4月1日から、育児休業等給付に新たに「出生後休業支援給付金」と「育児時短就業給付金」が創設されます。これらの給付金は、子育てと仕事の両立を支援し、育児休業や短時間勤務を取得しやすくすることを目的としています。

出生後休業支援給付金

出生後休業支援給付金は、共働き・共育てを推進するため、両親ともに14日以上の育児休業を取得した場合に最大28日間、賃金の13%が育児休業給付金(出生時育児休業給付金)に上乗せして支給されるものです。ひとり親や配偶者が就労していない場合などは、配偶者要件は求められず本人が育児休業取得することで対象となります。

出生後休業支援給付金が加わることで、育児休業給付金(出生時育児休業給付金)の支給率(賃金の67%)と併せて、賃金の80%が給付金として支給されます。つまり、出生後休業支援給付金の対象となる期間は実質手取り相当の給付がされるということです。

また、事務手続きについては育児休業支給申請書の申請名が「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書」となり、従来の申請書が改定される形となります。

なお、ひとり親など配偶者の育児休業を要件としない場合は、その事実を確認できる書類の提出が求められます。

たとえば、戸籍謄(抄)本や住民票の写し、遺族基礎年金の国民年金証書など状況によって求められる書類はさまざまです。企業の労務担当者は出生後休業支援給付金の申請に必要な書類を十分確認してから申請しましょう。

(参考)厚生労働省「育児休業等給付の内容と支給申請手続

育児時短就業給付金

育児時短就業給付金は、2歳未満の子を養育するために育児時短就業をした場合に、原則として短時間就業時の賃金の10%が支給される給付金です。男女ともに育児時短就業を選択しやすくなるよう創設されます。

ここでいう育児時短就業とは、1週間あたりの所定労働時間を短縮した場合に該当します。たとえば、子どもを養育するために短時間正社員やパートタイム労働者に転換・転職したことに伴い、1週間あたりの所定労働時間が短縮されている場合も育児時短就業と取り扱います。加えて、フレックスタイム制で総労働時間を短縮して就業する場合や、変形労働時間制の総労働時間を短縮して就業するときも育児時短就業とします。

また、2025年4月1日より前に2歳未満の子を養育するために育児時短就業をしている従業員は、2025年4月1日から育児時短就業を開始したとみなして育児時短就業給付金の要件が確認されます。

(参考)厚生労働省「育児時短就業給付の内容と支給申請手続

※産後パパ育休など関連するテーマは、下記の記事でも紹介しています。

Thumbnail

産後パパ育休とは?2025年4月からスタートする「出生後休業支援給付金」も合わせて解説します

出生後休業支援給付金は、従来の育児休業給付金に加えて、2025年4月からスタートする新しい支援制度です。2022年から始まった出生時育児休業(産後パパ育休)の制度についても社労士が解説します。

【2】2025年度の雇用保険料率が公表

参考ニュース:厚生労働省「2025年度(令和7年度) 雇用保険料率のご案内」

厚生労働省は、2025年度(令和7年度)の雇用保険料率を公表しました。新しい料率は、労働者・事業主ともに0.5/1,000引き下げられ、2025年4月1日から2026年3月31日まで適用されます。

料率は以下のとおりです。

事業の種類労働者負担事業主負担雇用保険料率(合計)
一般の事業5.5/1,0009/1,00014.5/1,000
農林水産・清酒製造の事業6.5/1,00010/1,00016.5/1,000
建設の事業6.5/1,00011/1,00017.5/1,000

なお、雇用保険二事業の保険料率(事業主のみ負担)は、一般の事業および農林水産・清酒製造の事業では3.5/1,000、建設の事業では4.5/1,000で、料率に変更はありません。 

4月の給与計算の際には、新しい雇用保険料率で計算するため、料率の変更漏れにご注意ください。

【3】熱中症対策の義務化を検討

参考ニュース:https://www.rodo.co.jp/news/191897/

厚生労働省は、熱中症対策の義務化を進める方針を示しました。対策を怠った企業には指導や罰則が科される可能性があります。また、熱中症対策の規制は気温や湿度などから熱中症のリスクの高さを算出する暑さ指数(WBGT)が28以上か気温が31度以上の環境下で、連続1時間以上もしくは1日4時間以上の実施が見込まれる現場作業をする場合に、対策を義務付ける方向で調整中のようです。

この動きを受け、企業は社内規程を見直し、熱中症対策のルールを明文化することが求められるでしょう。

3月の準備

【4】2026年卒も「売り手市場」 就職説明会、3月1日に解禁

参考ニュース:https://news.yahoo.co.jp/articles/b1ee4b0c724fdf81cbe91af17b71929886b7bb41

近年の「売り手市場」の傾向により、人材確保を目的に待遇改善や働きやすい環境整備を進めている企業が増えています。また、インターンシップ(就業体験)も定着し、人材確保のため企業側が採用活動を前倒しする傾向も年々強まっています。

一方で、リクルーターには採用活動において適正な対応が求められています。企業側は採用活動の過程で、求職者に対して不適切な言動が行われないようリクルーターに対して研修を継続的に実施し、ハラスメント防止体制の整備をすることが大切です。また「リクルーター行動規範」を作成し、周知することも効果的でしょう。

【5】2025年4月1日に東京都で「カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行

参考ニュース:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC0141C0R01C24A0000000/

2025年4月1日から東京都で「カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されます。この条例は、顧客からの過度な要求や暴力的な行為から従業員を保護し、事業者に対して適切な対応を義務付けるものです。

条例では、「カスタマー・ハラスメント(カスハラ)」を「顧客等からの著しい迷惑行為」と定義し、一律に禁止しています。具体的な罰則は定められていませんが、企業は、従業員をカスハラから保護するため、以下の措置を講じる必要があります。

  • 方針の明確化と周知:カスハラ防止のための方針を明確化し、従業員に周知徹底する
  • 相談窓口の設置:従業員がカスハラに関する相談を行える窓口を設置し、適切な対応を行う
  • 研修の実施:従業員に対してカスハラ防止に関する研修を定期的に実施し、意識の向上を図る

なお、各業界団体がマニュアルの共通事項を定める「各団体共通マニュアル」が2025年3月4日にリリースされました。東京都内の企業はカスハラを防止するために就業規則の改定や体制整備、従業員への教育・研修など、マニュアルを参考にしながら自社の対応策を検討・実施していきましょう。 

(参考)東京都「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアルを作成しました

※カスハラ対策の「マニュアル作成」において重要な2つのトピックについて、下記の記事で紹介しています。

Thumbnail

カスハラ対策マニュアルの作成で意識すべき2つのポイントは!?【セミナーレポート】

成蹊大学 法学部 教授 原 昌登 氏が、カスハラ対策の「マニュアル作成」をする際に重要な、【1】判断基準の「具体性」と【2】カスハラの「類型化」について解説しています。

【6】退職者の手続き関係

参考ニュース:https://news.yahoo.co.jp/articles/405696d7b2bc3e61d204d8fa7e8181210465552a

3月は退職者が最も多くなる時期であり、企業にとっては多忙な季節となります。

退職者に関連する手続きは、社会保険の喪失届や離職証明書の作成をはじめ、住民税の手続きや源泉徴収票の発行、さらには退職金の計算といった内容まで多岐にわたります。これらの手続きは、いずれも法的な期限が定められており、遅延が発生すると従業員への不利益が生じる可能性があります。手続きは一度に集中すると膨大な作業となりますので、余裕を持って準備を始めることが大切です。

また、2024年(令和6年)12月2日から健康保険証の新規発行は廃止され、マイナ保険証による医療機関等の受診を基本とした仕組みに変わりました。健康保険を任意継続する場合は、従業員が資格確認書の発行を希望しない限りはマイナンバーカードを保険証として使用することになります。退職者予定者にはマイナンバーカードと保険証との関係について改めて周知する必要があるでしょう。

また、離職票はマイナポータルから受け取りが可能となっています。ただし、退職予定者がマイナポータルでの受け取りを希望する場合でも、マイナンバーが雇用保険被保険者番号に紐づけられてなければ受け取れません。登録には時間がかかる場合があるため、資格喪失届提出の2週間程度前までに登録を行う必要があることを伝えておきましょう。
(参考)厚生労働省「2025年1月から、希望する離職者のマイナポータルに「離職票」を直接送付するサービスを開始します!

※離職票の発行を求められた際のについては、下記の記事でも紹介しています。

Thumbnail

「離職票」の発行を求められたら?離職票発行までの流れや注意点を社労士が解説!

離職票を発行する場合には、助成金の受給や労使間トラブルにも発展する可能性があるため、注意すべきポイントがいくつもあります。「失業保険を受給できない離職者にも交付が必要?」「退職理由で労使の意見が合わな...

北 光太郎
きた社労士事務所 代表
TOP話題のコラム

2025年「2月の振り返りと3月の準備」