就業規則を定期的に見直してますか?弁護士が5つのポイントを解説
弁護士法人恵比寿パートナーズ法律事務所の代表弁護士の下平学です。
今回のテーマは就業規則です。
皆さんは、就業規則を定期的に見直していますか?
労働関連法規は毎年のように改正があります。
定期的な見直しを行わず古い就業規則のままでは、法令違反を引き起こすだけではなく、法令遵守をしない会社の風土から従業員のモチベーション低下が発生してしまいます。さらに、万が一トラブルとなった場合には、無駄な費用が発生してしまうなどのリスクもあります。
私の経験上、10年以上前の法改正を就業規則に反映していない企業も相当数あると思います。
この記事では、近年の労働関連法規の改正のうち特に重要なものを踏まえて、人事担当者として押さえておくべき就業規則の見直しの5つのポイントを紹介します。
【就業規則見直しポイント①】無期転換ルール
<法改正の内容>
「無期転換ルール」が、2013年4月に施行された改正労働契約法18条で定められました。「無期転換ルール」とは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えた場合に、労働者の申込みによって使用者は無期労働契約に転換しなればならないルールです。
例えば、契約期間が1年間の有期契約社員について、5回の契約更新をした場合(通算5年を超えた場合)に、有期契約社員には無期転換申込権が発生し、それを行使した場合には当該社員は、無期労働契約になるというものです。有期契約社員の更なる活用を目指して法改正されました。
無期転換後の雇用契約は、有期雇用社員の労働条件が引き継がれます。
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換) 第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。 2(省略) |
<人事労務担当者が押さえるポイント>
①無期転換社員用の就業規則の作成
これまでは、無期契約=正社員という考え方が一般的でしたので、正社員とその他の社員で業務の内容や責任の範囲などが異なることが多かったのです。しかし、有期契約社員が無期契約となった場合に、契約期間を除いて、労働条件は有期契約のときの労働条件と同一になります。
そのため、無期転換社員のうち優秀な人材を正社員同様に活用した場合には、無期転換社員用の就業規則の作成が必要となります。
無期転換社員用の就業規則の作成例として、厚生労働省の「多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」が参考になります。
②定年制の制定
これまで、有期契約社員は雇用契約期間が満了された時点で退職となっていたため、定年の必要性があまり想定されていませんでした。
しかし、無期転換後は定年がなくなってしまいます。そのため、就業規則で無期転換社員のための定年を導入する必要があります。
正社員と同様に、以下のような定年に関する規定を設けることが考えられます。
第◯条(退職) 労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。 2 前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用(有期契約)する。 3 前項に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは退職とする。 (以下略) |
③無期転換申込権の通知義務に関する改正
無期転換ルールが2013年に導入されましたが、まだまだ無期転換ルール自体の認知度が低いため、これまであまり無期転換権を行使されてこなかったという実情があります。
それを踏まえて、2024年4月に改正労働基準施行規則が施行されました。これによって、使用者は、無期転換権が発生する有期契約社員に対して、「無期転換申込機会の明示」と「無期転換後の労働条件の明示」を行うことが義務付けられました。
この改正によって、今後、無期転換社員が増えていくことが予想されますので、改めて無期転換社員用の就業規則の見直しを行いましょう。
【就業規則見直しポイント②】年5日以上の有給休暇取得義務
<法改正の内容>
2019年4月から、改正労働基準法第39条が施行されました。年次有給休暇10日以上を有する労働者に対して、使用者は年5日以上の取得時季を指定して年次有給休暇を取得させる義務を負うこととなりました。これに違反した場合には、30万円以下の罰金が科せられることがあります(労働基準法第120条)。
また、使用者は、時季指定するには、労働者の意見を聴取しなければならず、できる限り労働者の希望に沿った取得時期になるように聴取した意見を尊重するように努めなければなりません。ただし、すでに5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対して、使用者は時季指定をする必要はありません。
使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成して、3年間保存しなければなりません。
(関連記事)年次有給休暇の基礎知識!取得推進のメリットや注意点を紹介
<人事労務担当者が押さえるポイント>
年次有給休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項です。そのため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合には、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法などを、就業規則に記載しなければなりません。以下の就業規則案をご参照ください。
第○条(年次有給休暇) 1項〜4項(省略) 5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。 |
なお、年次有給休暇の発生日が労働者ごとに異なり、年次有給休暇の管理が大変である場合には、基準日を年始や年度始めに統一した上で、全労働者の有給を管理するという方法があります。
【就業規則見直しポイント③】ハラスメント
<パワハラ防止法の内容>
改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が施行され、2022年4月から中小企業も適用対象となりました。
パワハラとは、「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの」と定義されております(厚生労働省のパワハラ防止指針(事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針))。
そして、パワハラを防止するために、次の4点が使用者に義務付けられました。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発 (2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 (3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応 (4)(1)~(3)までの措置と合わせて、相談者・行為者等のプライバシーを保護すること、その旨を労働者に対して周知すること、パワハラの相談を理由とする不利益取扱いの禁止 |
<人事労務担当者が押さえるポイント>
(1)〜(4)のいずれについても、就業規則(またはハラスメント防止規程)にルールを設けて、労働者に周知していくことが必要です。
就業規則(またはハラスメント防止規程)では、パワハラ(およびハラスメント)が服務規律違反となり、それに紐づく懲戒事由になることを明示しましょう。また、ハラスメントの相談や苦情に対して、誰が、どのように対応するのか、どのように措置を講じるのか、再発防止のために何をするのか、プライバシーをどう保護するのか、などを明記するようにしましょう。
就業規則に以下のような委任規定を設けた上で、詳細な規定をハラスメント防止規程に定めるという方法もあります。
第◯条(職場におけるハラスメントの禁止) パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、第◯条(服務規律)及び第◯条(懲戒)のほか、詳細は「職場におけるハラスメントの防止に関する規程」により別に定める。 |
【就業規則見直しポイント④】育児・介護
<法改正の内容>
2022年4月から、男女関係なく仕事と育児を両立させることができるようにするために、育児・介護休業法が3つの段階で施行されました。
【2022年4月1日施行】
①雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化
育休を取得しやすい雇用環境の整備と、育児休業制度の周知や意向確認を行うことが義務付けられました。雇用環境の整備としては、研修を実施したり、相談窓口の設置、育休取得事例の収集・提供などの措置を講じることが求められます。また、周知の方法として、個別的に各労働者に周知する方法を取る必要があります。
(関連記事)2022年4月1日から義務化される「個別の周知・意向確認の措置」とは?
②有期雇用労働者の育児・介護休業の取得要件緩和
改正前の育児・介護休業の取得では、(ア)引き続き雇用された期間が1年以上、かつ、(イ)1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない、ことが要件となっていました。改正後は、取得要件が緩和され、(イ)の要件のみで取得が可能となりました。
【2022年10月1日施行】
③産後パパ育休(出生児育児休業)の創設
父親が子供の出生後8週間以内に最大4週間の育児休業を取得できる制度が新設されました。
④育児休業の分割取得
改正前は育児休業の分割取得が原則できませんでしたが、改正後は育児休業を分割して2回取得できるようになりました。
【2023年4月1日施行】
⑤育児休業取得状況の公表義務化
従業員数1000人超の企業では、育児休業取得の状況を年1回公表することが義務付けられました。
(関連記事)育児休業とは!?対象者や期間、給付金など人事労務担当者が押さえておきたいポイントを解説
(関連記事)男性の育児休業について。2025年4月の法改正前に人事労務担当者が押さえておきたいポイントを解説
<人事労務担当者が押さえるポイント>
上記②との関係では、就業規則に「雇用された期間が1年以上」などの要件が記載されている場合には削除が必要です。
また、上記③④との関係では、就業規則に産後パパ育休(出生児育児休業)の取得に関する規定や、取得の適用除外の条件(労使協定がある場合に限る)、育児休業取得の申出に関する規定、分割取得に関する規定、出生時育児休業の申請があった場合の会社の対応規定などを新設する必要があります。
【就業規則見直しポイント⑤】月60時間以上の時間外労働に対する割増賃金率
<法改正の内容>
改正労働基準法により、月60時間を超える時間外労働について50%以上の割増賃金を支払うことが定められ、中小企業にも2023年4月から適用されることになりました(大企業は2010年4月から適用)。
<人事労務担当者が押さえるポイント>
上記の改正のため、就業規則において、時間外労働に対する割増賃金の割増賃金率を変更する必要があります。
例えば、以下のような就業規則の規定が考えられます。
第◯条(割増賃金) 時間外労働に対する割増賃金は次の割増賃金率に基づき、次の計算方法により支給する。 1 1か月の時間外労働時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。なお、この場合の 1か月は毎月1日を起算日とする。 ①時間外労働45時間以下・・・25% ②時間外労働45時間超〜60時間以・・・35% ③時間外労働60時間超・・・50% ④ ③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間・・・35%(残り15%の割増賃金分は代替休暇に充当) 2 1年間の時間外労働時間数が360時間を超えた部分については、40%とする。なお、この場合の1年は毎年4月1日を起算日とする。 |
まとめ
以上のように、近年の労働関連法規にはさまざまな改正がされております。法令違反とならないように、定期的に就業規則を見直して、就業規則をきちんと整備しましょう。就業規則の見直しには弁護士や社労士などの専門家に相談したり、規程例をもとに法改正に対応できるKiteRaなどの活用をご検討されてみてはいかがでしょうか。
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