試用期間の解雇は有効?無効?社労士と弁護士が解説【セミナーレポート】

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佐藤 大樹

株式会社 KiteRaは2024年7月30日に「試用期間と解雇」をテーマにしたWebセミナーを開催しました。HRbase PRO労務開発担当 特定社会保険労務士の今堀祐介氏と、杜若経営法律事務所の向井蘭弁護士が登壇しました。

本記事ではセミナー内で紹介された3つの事案から、「本採用見送りが有効」の事案をご紹介いたします。録画セミナーの視聴はこちらからお申し込みできます。

<全体のプログラム>
試用期間の概要
ケース① 本採用見送りが 無効の事案
ケース② 本採用見送りが 有効の事案
ケース③    試用期間的な有期契約 の事案
まとめ

本採用見送りが有効の事案について

概要

【1】ある出版社において、出版社での営業経験がある者を1年間の有期雇用契約で雇い入れた。 この際、3か月間の試用期間を設けた。

【2】経験者として採用されたにもかかわらず、適性を欠く言動が目立ち、売上の目標に達しない 日が多数あった。

(ア)書店の担当者が店舗に不在かどうかを確認せずに、店舗に向かう。
(イ)電話営業を行った際にも、不在のために担当者に電話がかからなかった場合に再度電話をかけない。

【3】また、会社の命令にも従わないような場面も目立った。
(ア)社長や営業部会の決定に反して書籍に巻く帯の制作を止めなかったうえ、使用する場合に備えて制作をするよう独断での判断をした。
(イ)無断で書店に帯を送付したうえで、営業部会で帯の活用を提案し、却下されたにも関わらず引き続き書店に帯を送付し、さらにそのことを営業部会に報告をしなかった。
(ウ)業務命令に違反し、注意や叱責を受けても、これを不当と捉えて反省をしなかった。

【4】当従業員の妻と思われる人物による誹謗中傷や抗議の電話があった。
【5】 誹謗中傷などが始まった時期から、体調不良を理由に出社しなくなった。
【6】会社は、②~⑤の事情を踏まえて解雇通知を送付し、出社は不要だと伝えた。
【7】その後、当従業員からは欠勤の連絡がなくなった。

裁判所の判断

本採用見送りは有効である

判旨

勤務態度、業務成績、勤怠等を踏まえれば、小規模出版社である被告の営業職としての適性を有するとは認め難いとし、被告が原告について本採用を拒絶し、試用期間満了をもって契約を終了させることについてやむを得ない事由に該当する、としました。

※概要、裁判所の判断、判旨はセミナー資料より抜粋し、キテラボ編集部が作成

セミナー内容の一部を抜粋

今堀祐介氏
「今回の事案は、有期雇用契約かつ試用期間もありました。仮に試用期間は設けていなかった場合本採用見送りということは観念できませんが、この従業員の勤務態度などを考慮すれば「解雇」にしても認められたでしょうか?」

向井蘭氏
「仮に試用期間がない場合でも、解雇は有効になってる可能性はあると思いますけど、試用期間があったからこそ有効になった可能性もありそうです。ちょっと何とも言いづらいですね」

今堀祐介氏
「では、今回のケースで本採用見送りが有効になった決め手は何でしょうか?もしくは総合的に斟酌された判断でしょうか?」

向井蘭氏
本採用見送りが有効になった決め手は、従業員の「態度が悪い」っていうことでしょうね。
従業員が徹底して会社の方針に従うつもりがないことが読み取れますよね。
一個一個はありえるようなトラブルですけど、短い期間で一貫して会社の方針、経営者の方に従う気はないっていうのが分かります」

今堀祐介氏
「反抗的な態度が多かったという理解で良いでしょうか?」

向井蘭氏
「反抗的な態度は多かったんですけど、要するに経営方針に関する本の帯とか、営業担当者として基本的な仕事のやり方とか、注意を受けてるのに直さないことがありました。単に態度が悪いというよりも、もう一貫して会社の方針にこの人は従うつもりはないっていうことだったからという気がします」

「私も本を出版しているから分かるのですが、本の帯で売上が変わります。本の帯は当然コストになります。本に帯を着ける、着けないは、ものすごい経営方針に直結するわけです。たかが、帯じゃないんですよ。そう考えると、この従業員は経営方針に従う気はないように感じました。言うことを聞かない、わがままな人というだけじゃないんです。全く無視してるっていう事になるんです」

「加えて、従業員の奥さんらしい人が文句を言って、従業員は出社しなくなりました。普通は病気休暇とか出して、休んだりするじゃないですか?それすらもしないっていうのは会社の方針に従う気が感じられません。しかも、該当の従業員は、経験者なんですよね。出版業界に長くいて、これであれば、解雇になっても仕方なし、ということになります」

今堀祐介氏
「この事例はどの程度、参考にすべきでしょうか?」

向井蘭氏
「今回間に合わなかったんですけど、他にも試用期間解雇の有効(の判例)が続出しているんですよ。裁判所もかなりドライに判断しているようです。私は解雇はおすすめしないんだけど、本採用するんだったらリスクをとって解雇するっていうのも選択肢としては、あり得ると思います。もちろん、今回の事例の通り真似して、解雇できるとは限りません」

「ベテラン社員は退職していき、その人員を補充するように、中途採用は増えています。中途入社者は即戦力を期待されているが、今回の事例のように、本の帯を勝手につけるような行動をするのであれば、「退職勧奨」はするけど、「解雇」も視野に入れる必要があるということになりますよね。私の肌感として、試用期間解雇が有効な事例が増えているように感じます」

今堀祐介氏
「なるほど、まさに試用期間解雇についての潮目とも考えられますね」

向井蘭氏
「はい。最近の裁判は、ドライなんですよね。試用期間の解雇について、判断が変わってきてる気がします。今回の事例は、最近のトレンドとして、覚えておいて損はない事案かもしれません」

キテラボ編集部より
続きを知りたい方は、録画セミナーからご視聴ください。
録画セミナーの視聴はこちらからお申し込みできます。
「本採用見送りが 無効の事案」「試用期間的な有期契約 の事案」についても詳しく解説しています。

また、試用期間中に本採用を見送りたい場合の退職勧奨について、社労士が下記の記事で解説しています。合わせて、ご参考になれば幸いです。

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佐藤 大樹
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