時間単位の年次有給休暇を検討してみませんか?メリットや導入方法を社労士が解説

更新日

|

投稿日

西岡 秀泰

社会保険労務士の西岡秀泰です。

働き方改革の一環で企業には年次有給休暇取得率のアップが求められていますが、対策として休暇を取りやすく時間単位の年次有給休暇が効果的です。

本記事では、時間単位の年次有給休暇の制度内容や導入方法について解説します。時間単位年休のQ&A10選も掲載しますので、制度導入を検討するときの参考にしてください。

時間単位の年次有給休暇とは

時間単位の年次有給休暇(以下、時間単位年休)とは、通常1日単位で取得する年休を1時間単位で取得できるようにする年休制度です。仕事と生活の両立を図るために年休を取得しやすくすることを目的に、2010年4月から施行されました。

平日の子どもの参観日参加や通院など、比較的短時間のお休みが欲しい場合、使いやすい制度です。労使協定の合意があれば、所定労働時間が8時間の人なら、1日分の年休で2時間の時間単位年休を4回取れます。

時間単位年休を導入するためには、次の項目について労使協定を締結し就業規則に記載しなければなりません。

  • 時間単位年休の対象労働者の範囲
  • 時間単位年休の日数
  • 時間単位年休1日の時間数
  • 1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数

また、時間単位年休にできるのは年5日までと制限があります。

※年次有給休暇の基礎知識については、下記の記事でまとめています。
(関連記事)年次有給休暇の基礎知識!取得推進のメリットや注意点を紹介

働き方改革で時間単位年休を導入する企業の割合

厚生労働省が「年次有給休暇の現状について」によると、時間単位年休制度を導入している企業の割合は22.0%でした。調査対象企業の5社に1社程度しか導入しておらず、制度が浸透しているとは言い難い状況です。

同調査によると、時間単位年休を導入していない主な理由は次の通りです。()内は複数回答で各理由を選択した企業の割合。

  • 勤怠管理が複雑になる(50.3%)
  • すでに半日単位の年休取得制度がある(46.8%)
  • 給与計算が複雑になる(39.3%)
  • 変形労働時間制等のため時間単位の代替要員確保困難(31.4%)

しかし、時間単位年休制度の対象となった従業員のうちの56.7%が「時間単位年休を取得したことがある」(2018年度)と回答しており、従業員のニーズは一定程度あることがわかります。また、制度を導入していない企業等の従業員の約半数が、制度導入を望んでいます。

(参考)厚生労働省「年次有給休暇の現状について」

時間単位年休を導入するメリット

時間単位年休の導入は、従業員と企業にさまざまなメリットをもたらします。従業員の主なメリットは次の通りです。

  • 年休を効果的に活用できる
  • 年休が取りやすくなる
  • ワークライフバランスの実現が可能になる

子どもの行事参加や親の介護など短時間の用事がある場合、時間単位年休があれば必要な時間だけ休めるので年休を効果的に活用できます。また、1日単位の休暇だと仕事が溜まったり、周囲に迷惑をかけたりすることが心配で休めない人でも、短時間の年休なら休みやすくなるでしょう。

時間単位年休を効率よく取得することで私生活での時間的余裕がうまれ、ワークライフバランスの実現が期待できます。

企業にとっての主なメリットは次の通りです。

  • 年休の取得率が上がる
  • 従業員の離職率が低下し生産効率がアップする
  • 企業イメージが良くなる

時間単位年休を導入すれば、従業員が年休を取得しやすくなり、年休の取得率が上がります。政府が推進する働き方改革では、企業に対して年休取得率の向上と従業員のワークライフバランスの実現を求めています。

また、従業員の年休取得が増えると肉体的にも精神的にも健康になり、ストレス軽減やモチベーションアップが期待できるでしょう。その結果、従業員の離職率が低下したり生産効率がアップすることもメリットです。

さらに、年休取得率がアップし働きやすい会社として認識されれば、企業イメージも良くなります。求人活動においても、働きやすさや多様な働き方を求める人材に対しアピールできるでしょう。


社労士・西岡秀泰のワンポイント
時間単位年休の導入には、年休の取得率アップやワークライフバランスの実現、従業員の離職率低下、企業イメージの向上など、多くのメリットがあります。一方、時間単位年休制度を導入している企業の割合は5社に1社程度と、導入が進んでいません。

原因の1つは、前述の通り多くの企業が「勤怠管理が複雑になる(50.3%)」「給与計算が複雑になる(39.3%)」と考えていることです。解決策の1つとして、勤怠管理システムの導入をおすすめします。

人手不足が深刻になり、企業には従業員の賃金アップやワークライフバランスの実現が求められています。これらの課題に対応するためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性の向上が必要です。

時間単位年休を導入する方法

時間単位年休は、次の手順で導入します。

  • 対象者の範囲を決める
  • 時間単位年休を取得できる「日数」を決める
  • 1日あたりの時間数を算出する
  • 取得単位を決める(1時間単位・2時間単位など)
  • 就業規則に記載する
  • 労使協定を締結する
  • 社内でルールを決めてスタートする

各手順について解説します。

【1】対象者の範囲を決める

最初に、時間単位年休の対象となる労働者の範囲を決めます。制度導入にあたって必要となる労使協定の内容の1つです。対象者の範囲は、次の通りです。

  • すべての労働者
  • 正規雇用されているフルタイムの労働者
  • フルタイムの労働時間に満たない時間働く労働者(パートなど)を除く
  • 〇〇業務に従事する労働者を除く など

事業の正常な運営を妨げる場合に限り、特定部署の労働者を対象外にすることも可能です。

【2】時間単位年休を取得できる「日数」を決める

次に、時間単位年休を取得できる日数を決めます。労働基準法では、時間単位年休にできるのは年5日までと決められているため、1日から5日の間で設定します。

前述の厚生労働省の「年次有給休暇の現状について」によると、時間単位年休を導入している大半の企業では、時間単位年休の日数を5日としています。

【3】1日あたりの時間数を算出する

対象となる労働者の所定労働時間が8時間の場合、年休1日あたりの時間数は8時間となるのが一般的です。しかし、所定労働時間が7時間30分の場合、1日あたりの時間数を7時間30分とすることはできません。たとえば、次の通り時間単位での設定が必要です。

  • 所定労働時間が5時間超6時間以下の場合:6時間
  • 所定労働時間が6時間超7時間以下の場合:7時間
  • 所定労働時間が7時間超8時間以下の場合:8時間

【4】取得単位を決める(1時間単位・2時間単位など)

時間単位年休の取得単位は1時間単位が一般的ですが、労使協定で合意すれば2時間単位や3時間単位とすることも可能です。1時間単位の場合、労使協定事項のうち「取得単位」の箇所は不要です。

ただし、2時間単位の場合、1時間の休みが必要なときは2時間の年休を、3時間必要なときには4時間の年休を取らなければなりません。年休時間を管理するうえでは長めの時間単位の方が都合のいいこともありますが、従業員の利便性を考えると1時間単位の方がいいでしょう。

【5】就業規則に記載する

時間単位年休の内容が決まったら、就業規則に記載しなければなりません。労働時間や休憩、休日に関する事項は、労働基準法の就業規則・絶対的必要記載事項に該当します。記載方法は、次の就業規則規定例を参考にしてください。

(就業規則規定例)

年次有給休暇の時間単位での付与に関する就業規則の規定(年次有給休暇の時間単位での付与)
第〇条 労働者代表との書面による協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲で次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。

(1)時間単位年休の対象者は、すべての労働者とする。

(2)時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は以下の通りとする。
①所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者・・・6時間
②所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者・・・7時間
③所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者・・・8時間

(3)時間単位年休は1時間単位で付与する。

(4)本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。

(5)上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。

就業規則は、従業員数(常時使用する労働者)が10名以上の場合、労働者代表の意見書を添付して管轄の労働基準監督署への届出が必要です。

【6】労使協定を締結する

前述の通り、次の項目について企業は労働組合(または労働者の過半数を代表する者)と労使協定を締結しなければなりません。

  • 時間単位年休の対象労働者の範囲
  • 時間単位年休の日数
  • 時間単位年休1日の時間数
  • 1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数

締結した労使協定の内容は、時間単位年休を導入する前に従業員に周知しなければなりません。

キテラボ編集部より
規程管理サービスKiteRa Bizでは、「年次有給休暇の時間単位付与に関する労使協定書」「フレックスタイム制に関する労使協定書」「一斉休憩の適用除外に関する労使協定書」などの協定書の雛形をご用意しています。
社労士の武久亮介先生がKIteRa Bizを紹介している動画もございます。「就業規則」の編集と「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」の作成を実演し、法改正反映機能や、編集機能などを説明しています。本記事と合わせて、ご参考になれば幸いです。

【7】社内でルールを決めてスタートする

時間単位年休について労使協定の締結など内容が確定すれば、制度の円滑な導入に向けて事前準備をすすめましょう。時間単位年休の申請方法や管理方法、従業員への周知方法など制度運営に関するルールを決め、人事・労務担当者や管理職に徹底しましょう。

制度の説明会を実施するなど、制度導入前に従業員全員に周知することも重要です。

社労士の西岡秀泰がお答えします。時間単位年休のQ&A10選

時間単位年休に関してよくある質問を、Q&A形式でお答えします。

Q1 時間単位年休に対して支払う賃金はどうやって計算する?

A.1日分の年次有給休暇の賃金を所定労働時間で割って算出します。

時間単位年休も通常の年次有給休暇も考え方は同じです。平均賃金または通常の賃金、標準報酬日額のいずれかを基準(年次有給休暇と同じ基準)をもとに、1時間あたりの賃金を計算します。

Q2 時間単位年休を使って中抜けはできる?

A.中抜けは可能です。

時間単位年休をどの時間帯で取得するかは労働者が任意に決定できます。始業時間や終業時間に合わせて取る必要はないため、中抜け可能です。

Q3 時間単位年休が残ったら繰り越しはできる?端数はどうなる?

A.時間単位年休が残ったら繰り越しできます。

時間単位年休も、残ったら翌年に繰り越しできます。次のケースで繰り越し方法を確認しましょう。

  • 年休1日あたりの時間数が8時間
  • 年次有給休暇基準日(年休を新規に付与する日)時点の休暇日数20日
  • 1日単位の年休を10日、時間単位年休を12時間(年休2日のうち4時間残り)取得

1日単位の年休は12日取得(時間単位年休を含む)で残りが8日、時間単位年休の残りが4時間となるため、8日と4時間の年休を翌年度に繰り越せます。

Q4 時間単位年休を取った場合、休憩時間はどうなる?

A.法律上は実際の労働時間で判定しますが、就業規定次第です。

企業に義務付けられた休憩時間は、「労働時間が6時間超8時間以下なら少なくとも45分」「8時間を超えるなら少なくとも1時間」です。時間単位年休の取得により労働時間が減少した場合、減少した労働時間で休憩時間の最低基準が決まります。

ただし、実際の休憩時間は就業規則の定めに従って決定するため、制度導入前に明確に決めておきましょう。

Q5 時間単位年休は10分、15分、30分など1時間未満で取得できる?

A.時間単位年休は1時間未満では取得できません。

時間単位年休は1時間を最低単位として設けられた制度であるため、10分、15分、30分など1時間未満では取得できません。1時間を超えて1時間10分、15分、30分などの場合も同様です。

Q6 半日単位年休と併用できる?

A.半日単位年休と併用できます。

年休1日あたりの時間数が8時間で半日単位年休の時間数が4時間の場合、6時間の休みを取りたければ、半日単位年休と2時間の時間単位年休を取得できます。また、半日単位年休を取得しても、時間単位年休は年5日間取れます。

Q7 フレックスタイム制の場合にはどうなる?

A.フレックスタイム制の場合でも時間単位年休の取得は可能です

フレックスタイム制は、1日の労働時間帯を必ず勤務すべき時間帯(コアタイム)といつ仕事をしてもよい時間帯(フレキシブルタイム)に分けています。コアタイム以外は仕事をしてもしなくてもいいため、年休は不要です。

コアタイムについては、労使協定を締結し就業規則に記載すれば時間単位年休を取得できます。

Q8 時間単位年休にも「時季変更権」は認められる?

A.時間単位年休にも「時季変更権」は認められます。

時季変更権とは、使用者が労働者の希望する年休取得日(または時間)を変更できる権利です。ただし、使用者が時季変更権を行使できるのは、「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。

業務の繁忙期などに年休取得を申請しても、1日単位の年休と同じように時間単位年休も時季変更を求められる可能性があります。

Q9 時短勤務者の時間単位年休の1日あたりの時間数はどうなる?

A.1日あたりの時間数は所定労働時間で決まります。

1日の所定労働時間が8時間のフルタイム勤務者は、時間単位年休の1日あたりの時間数は8時間です。同様に、1日の所定労働時間が6時間の時短勤務者は6時間です。

所定労働時間が5時間30分の場合もフルタイム勤務者と同様に、1時間単位で切り上げて6時間となります。

Q10 時間単位年休を「5日間の有給取得義務化」にカウントできる?

A.時間単位年休は「5日間の有給取得義務化」にカウントできません。

5日間の有給取得義務化とは、「年10日以上の年休が付与される労働者に対し時季を指定して年5日年休を取得させる」という企業に対する義務です。年休の取得推進を目的とした制度で、年5日の年休の対象は1日単位の年休だけです。

キテラボ編集部より
時間単位の年次有給休暇を導入する際には、就業規則や労使協定書などの準備が必要になってきます。
弊社の規程管理サービスKiteRa Bizでは「作成」「届出」「周知」を効率化することができます。詳細は下記リンクより、ご覧ください。

Thumbnail

社内規程をクラウド管理!簡単に運用できる

社内規程DXサービスとは、社内規程の作成・編集・管理・共有・申請の一連のプロセスを統合管理するシステムです。統合管理することで各プロセスの業務を効率化し、企業のガバナンス向上を実現します。

Thumbnail

規程管理システムとは!?社労士が人事労務担当者向けにメリットを解説します

規程管理システムとは、各企業が独自に定める社内ルール「社内規程」の作成・改定・管理を行うためのシステムのことです。専用のシステムを使うことで、効率的かつスムーズな作業が実現できます。

西岡 秀泰
西岡社会保険労務士事務所 代表
TOP実務の手引き

時間単位の年次有給休暇を検討してみませんか?メリットや導入方法を社労士が解説