裁量労働制とは?実務上のポイントも解説します

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KiteLab 編集部

「働き方改革」の流れから、柔軟な働き方を希望する人が増えています。柔軟な働き方を実現する制度の一つに「裁量労働制」があります。本記事では、企業が「裁量労働制」を導入する際のメリットや注意点について解説いたします。

裁量労働制とは

裁量労働制とは

労働基準法(以下、「労基法」という。)では、労働時間や休憩、休日、深夜業などについてのルールを定めており、会社や事業主(以下、「使用者」という。)は従業員の労働時間を適正に管理する必要があります。しかし、業務の性質等によっては実労働時間の算定が難しい場合があり、そこで実際に何時間労働したかにかかわらず一定時間労働したものとみなす制度(※1)を設けています。この労働時間のみなし制には「事業場外みなし労働時間制」と「裁量労働制」の2つがあります。

※1 労働時間のみなし効果が発生するのみであり、みなし時間が法定労働時間を超える場合には時間外労働に関する規制にかかることになります。実務上、みなし労働時間を9時間とした場合は1時間分の残業代を支給することになります。また、休憩や休日労働、深夜労働に関する規制から逃れることも出来ません。

①裁量労働制

裁量労働制は、業務の性質上、その遂行方法を大幅に従業員の裁量に委ねる必要がある業務について定められた制度です。労働者の健康確保と能力や成果に応じた処遇を可能としながら、業務の遂行手段や時間配分等を従業員の裁量に委ね、従業員が自律的・主体的に働くことを可能にすることを目的としています。従業員が自らの知識や技術を活かし、創造的な能力を発揮することを実現するための制度となっています。
裁量労働制は専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の二つの制度が用意されています。
1987年(昭和62年)の労基法改正で研究開発やシステムエンジニアなどの専門職について専門業務型裁量労働制が導入され、その後1998年(平成10年)の労基法改正により事業の運営に関する企画・立案・調査・分析を行う企画業務型裁量労働制が導入されました。

(ⅰ)専門業務型裁量労働制(労基法第38条の3)

使用者が事業場の過半数を代表する従業員と協定(以下、「労使協定」という。)を締結した場合、ある一定の業務についてその労使協定で定めた時間働いたとみなすことが出来る制度(労基法38条の3)です。また、この制度を開始・継続する場合は、労使協定で定めた内容について行政官庁に届け出る必要があります。
専門業務型裁量労働制の適用対象となるのは研究開発、情報処理システムの分析・設計、取材・編集、デザイナー、プロデューサー、ディレクターなど(※2)、具体的に定められています。


※2 「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」と定められています。

(ⅱ)企画業務型裁量労働制(労基法第38条の4)

事業場における労働条件に関する事項を調査審議することを目的とする委員会(以下、「労使委員会」という。)が法律等に定められた事項について決議し、使用者がその内容について届け出た場合に適用することが出来る制度です。
この制度の適用対象となるのは以下の条件を満たすものに限られます。
・対象となる業務が、事業の運営に関する事項についての企画・立案・調査・分析の業務であること
・業務の性質上、その業務を適切に遂行するには、その遂行方法を大幅に従業員に委ねる必要があること
・業務の遂行手段と時間配分の決定に関し、使用者が具体的指示を行わないこと
また、上記の要件を満たす業務に就く労働者は、その業務を適切に処理する経験や知識を持っている者である必要もあります。

なお、裁量労働制は専門業務型、企画業務型の区別にかかわらず、働きすぎなどを防止するため、健康確保のための措置や苦情処理に関する措置を講じなければなりません。(労基法38条の3第1項4号、5号及び労基法第38条の4第1項4号、5号)

②事業場外みなし労働時間制(労基法第38条の2)

事業場外みなし労働時間制は労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し、その労働時間の算定が困難な場合は所定労働時間働いたものとみなす制度です。一般的には外回りの営業職の従業員に適用されている事が多い制度になります。(本記事は裁量労働制の解説記事です。事業場外みなし労働時間制の詳しい内容を知りたい方は厚生労働省のHP等をご参照下さい)

裁量労働制のメリットと注意点

裁量労働制のメリット

柔軟な働き方を推進できる

裁量労働制では、「仕事の自由度」が高まります。始業、終業時間が自分で決められるので、自分のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方が可能です。

優秀な人材の確保と定着が図れる

裁量労働制であれば自身の裁量で労働時間の調整ができるため、効率よく成果を上げる自信のある人材、すなわち能力の高い人材が集まりやすくなります。     

裁量労働制の注意点

労働時間の把握    

裁量労働制においても、労働安全衛生法第66条の8の3等により、使用者は、労働時間の状況の把握が義務付けられています。

事業者は、第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない

労働安全衛生法第66条の8の3

「厚生労働省令で定める方法」とは、

  • タイムカードによる記録
  • PC等の電子計算機の使用時間の記録等(ログイン、ログアウトの記録)

といった「客観的な方法」であることが必要です。

つまり、労働者の自己申告は原則として認められていません。労働者が事業場外において行う業務に直行、直帰する場合など、やむを得ず客観的な方法により労働時間の状況を把握し難い場合においては自己申告制が例外的に認められます。

労働者への健康・福祉確保措置     

上記「労働時間の把握」で把握した対象労働者の労働時間の状況に基づいて、適用労働者の勤務状況に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確に協定(「企画型」は「決議」)することが必要です。

以下のいずれかの措置を選択して協定(決議)し、実施することが適切です。

①終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
②労働基準法第37条第4項に規定する時刻(午後10時から翌午前5時)の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること。
③把握した労働時間が一定時間を超えない範囲内とすることおよび当該時間を超えたときは労働基準法第38条の3第1項の規定を適用しないこととすること。
④働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
⑤把握した労働時間が一定時間を超える適用労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法第66条の8第1項の規定による面接指導を除く)を行うこと。
⑥把握した適用労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること。
⑦把握した適用労働者の勤務状況およびその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
⑧心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
⑨把握した適用労働者の勤務状況およびその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
⑩働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、または適用労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。

専門業務型裁量労働制の解説(厚生労働省)から抜粋

特に③の措置(太字箇所)を実施するのが望ましいとされています。

具体的には、「一定時間」について、時間外労働と休日労働の合計を、1か月100時間未満、2~6か月平均80時間以内で設定することや、「一定時間」を超えた場合裁量労働制を適用しないとともに、再度適用する際の取り決め等を事前に労使協定(労使委員会の決議)する必要があります。

労働者の「裁量」の確保

裁量労働制は、業務の「遂行の手段及び時間配分の決定」を使用者から指示されることなく、対象労働者が業務に従事できている状態を指します。

しかし、使用者は、労働者の生命、身体および健康を危険から保護する義務から解放されるわけではないです。裁量労働制を導入しても、使用者は安全配慮義務があります。

裁量労働制導入の手順

裁量労働制の導入方法は、「企画型」「専門型」で大きく異なります。下記に詳しく紹介します。     

企画業務型の導入手順

<ステップ1>労使委員会を設置する
労使委員会とは、賃金、労働時間その他の労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し意見を述べる委員会です。労働者代表の委員と使用者側代表の委員で組織されており、労働者代表の委員が半数を占めていることが要件です。

<ステップ2>労使委員会で決議をする
労使委員会の決議は委員の5分の4以上の多数によることが要件となります。

<ステップ3>労使委員会で決議された内容を所轄労働基準監督署長に届け出る

<ステップ1〜3>のあと、使用者は対象労働者に決議内容を説明し、同意を得る必要があります。同意が得られない労働者に対しては、制度を適用することができず、同意をしなかったことに対して不利益取り扱いをしてはいけません。また、法改正により労使委員会の開催頻度を6ヶ月に1回とすることが追加され、制度の実施状況をよりチェックできるようになりました。労使委員会決議の有効期間が満了し、制度を継続適用させたい場合は、再度労使委員会決議を採るところからスタートします。

専門業務型の導入手順

「専門型」は労使協定を過半数労働組合または過半数代表者との間で締結します。労使協定の内容を所轄労働基準監督署長に届け出ます。また、法改正により「本人からの同意を得ること」などが追加されています。法改正により、同意及びその撤回等について、使用者に労働者ごとの記録を労使協定の有効期間中及び期間満了後3年間の保存義務も追加されました。また、労使協定の有効期間が満了し、制度を継続適用させたい場合は、再度労使協定を締結させるところからスタートします。

裁量労働制導入の留意点

実務上の留意点

法改正内容も踏まえた、実務上の主な留意点は下記の通りです。

本人同意を得る際の説明

同意が労働者の自由意思に基づくものではないとされた場合、裁量労働制が適用されず、通常の労働時間適用となり、予想外の時間外労働が発生する可能性があります。使用者は、対象労働者に対し丁寧をするべきです。

また、説明書面や同意書を労働者と取り交わすことは、後々のトラブル防止や文書保存義務の観点からも望ましいです。(下記「同意書面イメージ」参照)

長時間労働の抑制、労働者に対するケア

時間外・休日労働の合計時間を1か月100時間未満、2~6か月平均80時間以内で設定すること以外にも、健康・福祉確保措置において「勤務間インターバルの時間については11 時間以上、深夜業の回数については1箇月当たり4回以内」といった設定をすることも考えられます。

出典:厚生労働省「裁量労働制に関するQ&A」

グラフィカル ユーザー インターフェイス, テキスト, アプリケーション

自動的に生成された説明
専門業務型裁量労働制の解説(厚生労働省)から抜粋

トラブル事例

「専門型」裁判例

某システム会社事件(大阪高判平24.7.27)

システム会社A社でSEとして勤務していた元従業員が、実際は裁量外の労働をしていたとして時間外手当を請求した事件です。

会社は原告に対して裁量労働制を適用していました。正社員として勤務していた原告は、SE業務以外にもプログラミングや営業活動にも従事していました。タイトな納期が設定され、ノルマもあり、さらには、本来支給されるべき休日手当や深夜手当が全く支給されないというものでした。

裁判所は、「裁量労働制が許容されるのは、技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるから」であるとした上で、タイトな納期の設定やノルマを課していたこと、営業活動にまで従事させていた等の事実を踏まえて、拘束性の強い具体的な業務指示があったとして、専門業務型裁量労働制の対象業務には該当しないと判断して、原告の請求が認容されました。

「企画型」トラブル例

大手不動産会社の営業などの業務を行う従業員に対し、「企画業務型裁量労働制」の対象職種でないにもかかわらず適用されていたため、残業代未払いと認定されてしまいました。

  • 「裁量」があるのか
  • 適用できる職種なのか

上記については、まず確認したい点です。困ったら社労士や労働基準監督署に確認しましょう。裁量労働制は手続きや運用等わかりづらい部分も少なくありません。これから導入したい、導入したけど正しく運用できているか不安・・・。そんな時は最寄りの労働基準監督署に相談されることをお奨めします。違法状態を放置し、未払い残業代の発生や労働者の健康障害の発生などを未然に防ぐために、早めに不安を解消しましょう。 

まとめ

裁量労働制は労働者にとっては柔軟な働き方、企業にとっては生産性の向上や優秀な人材の確保につながるといったメリットがあります。一方、労働者の長時間労働やそれにともなう健康障害につながるリスク、運用の不備による未払賃金の発生といったリスクも持ち合わせています。

労働者が気持ち良く働くことができ、かつ、成果を上げることができる労働環境を作る上で、裁量労働制の導入が最適なのかどうか、前述の労働基準監督署や社会保険労務士にご相談されることをお奨めいたします。

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