雇用形態別の労務管理と落とし穴 | 労務担当者1年目必読
昨今では、会社内に多種多様な雇用形態の人材が在籍していることが常態化し、正社員だけで成り立っている企業は少なくなっています。そのため、雇用形態管理が複雑化しており、手続きが難しくなっています。
労務担当者は1年目から様々な雇用形態の特徴について知り、適切な労務管理を行う必要性があります。今回は、労務担当者1年目が知っておくべき雇用形態別の労務管理と、その落とし穴について解説します。
労務担当者1年目が知るべき雇用形態とは
労務担当者1年目が知るべき雇用形態として、正規雇用と非正規雇用の違いや、直接雇用と間接雇用の違いがあります。それぞれの特徴について解説します。
正規雇用と非正規雇用
正規雇用と非正規雇用は、雇用期間の長さが最も大きな違いとなります。正規雇用は期間の定めがない雇用で、定年退職まで雇用が終了することはありません。一方で、非正規雇用は更新のタイミングで雇い止めをするかどうかを判断する必要性があります。正規雇用に関しては一度入社すれば大きな手続きがありませんが、非正規雇用に関しては、契約書の更新業務など、様々な手続きがあります。
直接雇用と間接雇用
直接雇用は企業が労働者と直接雇用契約を結んでおり、間接雇用は労働者と直接の雇用契約がない契約を言います。たとえば、正社員、契約社員、パートアルバイトは直接雇用です。一方で、派遣社員は派遣会社と企業が雇用契約を結んでおり、直接契約していないため間接雇用となります。
雇用形態が複雑化して管理業務も難解化している
雇用形態が複雑化している理由として、労働市場の変化が挙げられます。従来の正社員に加え、契約社員やパートタイム労働者など、多様な雇用形態が増加しています。これは、企業が柔軟性を持ち、労働力を効率的に運用するための手段として採用されています。
さらに、デジタル技術の進歩も雇用形態の変化に寄与しています。テクノロジーの発展により、リモートワークやフレキシブルな労働が可能になり、従来のオフィス勤務にとらわれない働き方が広がっています。これにより、従業員は場所や時間に制約されずに仕事をすることができます。これらの変化は、管理業務を複雑化させる要因となっています。
従業員が異なる雇用形態で働いている場合、給与計算や労働条件、労働契約の管理など、異なるルールや規制に従う必要があります。落とし穴としては、複雑化した労務管理に対応できず思いがけず法令違反を行い、従業員に損害賠償請求を起こされるといったことがあります。
多様な雇用形態に対応するためにやるべきこと
多様な雇用形態に対応するためには、雇用形態ごとの就業規則作成や、同一労働同一賃金の実現などがあります。
それぞれについて解説します。
雇用形態ごとに就業規則を作ること
多様な雇用形態に対応するためには、各雇用形態に合わせた就業規則の策定が不可欠です。なぜなら、正社員向けの就業規則が非正規雇用にも適用されると、思わぬ企業負担が生じる恐れがあるからです。通常、正社員向けの就業規則は手厚い待遇が含まれているため、非正規雇用にまで同様の待遇を提供することは予想外の負担となります。このような事態を回避するためにも、各雇用形態に合わせた就業規則の策定が必要です。
同一労働同一賃金を実現すること
労働紛争を未然に防ぐためには、同一労働同一賃金の実現が必要不可欠です。同一労働同一賃金の原則に基づく給与体系は、公平な労働環境を確保し、労働紛争を防止することができます。異なる雇用形態や契約条件によって同じ仕事をする人々が不当に差別されることなく、同等な報酬を受けることができるため、従業員間の不平等感を軽減し、モラルの向上やチームの協調性の向上につながります。
また、異なる労働条件や報酬体系によって従業員間に不公平感が生じると、労働紛争や不満が発生するリスクが高まります。同一労働同一賃金の原則を遵守することで、従業員との信頼関係を築き、労働紛争の予防につながります。企業にとって生産性の低下や評判への悪影響をもたらす可能性がある労働紛争を回避するためにも、同一労働同一賃金の実現は重要です。ただし、日本型雇用では正社員と非正規社員の間にある待遇差が大きくなりすぎており、現実的には改革を進めることが難しいという側面もあります。
残業を減らすこと
残業を減らすことは、雇用形態を問わずにできる対策です。なぜなら、どの雇用形態であっても、長時間労働で従業員に健康被害が起これば、企業は大きなダメージを受けるためです。
たとえば、長時間労働や過度のストレスが続く環境では、従業員の離職率が上昇する可能性があります。雇用形態に関わらず、経験や専門知識を持つ人材が企業を去ってしまえば、生産性や競争力の低下につながるでしょう。
雇用形態問わず有休をしっかりと消化させること
雇用形態に関わらず、有給休暇をしっかりと取得することは、多様な雇用形態に適応する上で非常に重要です。なぜなら、従業員が有給休暇を取得できる環境を整えることは、離職率の低下や従業員の不満の減少など、大きな影響を与えるからです。
たとえば、有給休暇は従業員がリフレッシュし、プライベートや趣味、家族との時間を充実させるための重要な権利です。従業員が適切な休息を取ることで、ストレスや疲労の軽減、健康維持、心身のリフレッシュが可能となります。ワークライフバランスが確保される環境は、従業員の満足度や働きがいを高めると共に、離職率を低下させる一因となります。
全従業員にコンプライアンス意識向上を求める事
全ての従業員に対して、雇用形態を問わずコンプライアンス意識の向上を求めることが重要です。なぜなら、アルバイトであっても、自社の従業員が引き起こしたコンプライアンス違反は社会に大きな影響を与えるからです。例えば、アルバイト従業員が業務中に悪ふざけで撮影した動画をインターネット上にアップし、それがクレームを引き起こして炎上することもあります。
また、コンプライアンス意識の高い組織文化を構築することは、企業が長く繁栄するために重要です。従業員がコンプライアンスに関するルールや規制を遵守し、倫理的な行動を取ることは、企業の価値観や信念を反映した行動です。コンプライアンス意識の高い組織文化が根付けば、社内の秩序や効率性が向上し、企業の信頼性や従業員のモラルが高まることで、企業全体のパフォーマンスも向上するでしょう。
適切な社会保険に加入させること
従業員を適切な社会保険に加入させることは、極めて重要です。なぜなら、社会保険は従業員の健康と福祉を守るための重要な制度だからです。たとえば、適切な社会保険に加入させることで、従業員は病気やケガによる医療費や収入の減少に対して保障を受けることができます。また、労災保険や雇用保険に加入することで、失業や労働災害による経済的なリスクからも保護されます。これにより、従業員は安心して働くことができ、生活の安定と福祉が確保されます。
労務管理を適切に行うために気を付けるべきこと
労務管理を適切に行うために気を付けるべきこととして、違法行為になる雇い止めをしないことや、給与計算ミスをしないことなど、様々なことがあります。
それぞれについて解説します。
違法な雇い止めをしないこと
多様化する雇用形態に対応するためには、違法な雇い止めをしないことが極めて重要です。なぜなら、非正規従業員を雇い止めする際には、様々なトラブルが生じる可能性が高いからです。例えば、非正規従業員への不当な雇い止めは、企業に法的なリスクをもたらすことがあります。従業員は、労働紛争解決の手段として裁判や団体交渉を申し立てることができます。
また、労働組合の介入や社会的な非難の対象にもなります。これらのリスクやトラブルを回避するためには、適正な解雇手続きを遵守することが不可欠です。また、人手不足の時代が到来しており、従業員に不当な雇い止めを強いる企業には、求人を出しても人材が集まらない状況に陥る可能性もあります。
給与計算ミスをしないこと
雇用形態が多様化しており、正社員と非正規社員の給与の締め日や支給タイミングが異なるため、給与計算ミスが起こりやすい状況にあります。このような状況においては、労働者の同意を得て、可能な限り同タイミングで給与計算を締めるなどの対策が重要です。
また、社会保険料の控除や会社独自の控除がある場合には、それらを出来る限り統合することも大切です。給与計算ミスが頻発すると、従業員から不信を買い、大きな不満となる可能性があるため、注意が必要です。
雇用形態ごとに起こる労働トラブルが違うことを意識する
雇用形態によって引き起こされる労働トラブルは、その性質が異なることを認識することが大切です。正社員においては、昇給額や与えられた懲罰などが適切かどうかといった問題が中心となりますが、非正規雇用においては、雇い止めが適法であるかどうかといった問題が中心となる傾向があります。
また、派遣社員については、直接雇用ではないものの、安全衛生管理に関しては派遣先企業が責任を負う可能性があります。多様化する雇用形態に適切に対処するために、注意深く対応することが必要です。
まとめ
今回は、多様化する雇用形態に対応するために労務担当者が1年目から知っておくべきことを解説しました。有休消化やコンプライアンス意識の向上は、雇用形態を問わず重要です。有休消化は離職率低下や従業員の満足度向上につながります。
また、コンプライアンス意識の向上は社会への影響を最小限に抑えるために不可欠です。 さらに、適切な社会保険への加入も重要です。従業員の保護や福利厚生の確保に貢献し、法的要件を遵守することが必要です。社会保険への加入は従業員の安心感や離職率低下にもつながります。
違法な解雇は非正規従業員への不適切な扱いとなり、トラブルを引き起こす可能性があります。解雇時には適正な手続きを守ることが重要であり、労働法の遵守と労働関係の安定性を確保することが求められます。
多様な雇用形態に対応するためには、全従業員に対して公平な待遇と保護を提供することが不可欠です。有給休暇の取得促進やコンプライアンス意識の向上、適切な社会保険への加入、違法な雇い止めの回避など、従業員の満足度向上や離職率低下、法的リスクの回避につながる取り組みが必要です。