定年後の再雇用制度とは?導入の注意点や就業規則への記載例を解説

更新日

|

投稿日

玉上 信明

社会保険労務士の玉上 信明(たまがみ のぶあき)です。

少子高齢化が急速に進行し人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するためには、働く意欲がある人が、誰でも年齢にかかわりなく、能力を十分発揮できる環境を整える必要があります。「高年齢者雇用安定法」はそのための法律です。

「再雇用制度」が一つの選択肢として定められていますが、実際には高齢者雇用として一番広く用いられている制度です。

今回は、この「再雇用制度」について、制度の内容、制度設計・契約時のポイント、導入のメリットや注意点について解説します。

高年齢者雇用安定法の全体像

はじめに、高齢者雇用の基本法である「高年齢者雇用安定法」(以下「法」)の全体像に簡単に触れます。「65歳までの雇用確保義務」「70歳までの就業機会確保の努力義務」という2段構えになっています。

本稿では65歳までの「継続雇用制度」のなかの「再雇用制度」について解説しますが、将来的にさらに適用対象年齢が引き上げられる等の可能性も考えておく必要があります。

この法律は頻繁に改正が行われており、今後も改正がありうるでしょう。事業者としても、制度全体の現在の姿のみならず、進んでいる方向を見定めておくことが望まれます。

65歳までの雇用確保義務

事業主は、希望する従業員全員に対し、65歳までは就労の機会を与えることが義務付けられています。この「就労の機会」というのは、自社で継続的に働く他に、グループ会社などで働くことも認められます。具体的内容は以下の通りです。

60歳未満の定年は禁止(法第8条)
事業主が定年を定める場合には、定年年齢は60歳以上としなければなりません。

65歳までの雇用確保措置義務(法第9条)
定年を65歳未満としている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければなりません(高年齢者雇用確保措置)。 

1.65歳までの定年引き上げ あるいは定年制の廃止 
2.65歳までの「継続雇用制度」(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 

「継続雇用制度」の適用者は原則として「希望者全員」です。過去の労使協定により、制度の対象者を一定の範囲で限定することも認められていましたが、これは2025年3月31日までの経過措置です。

70歳までの就業機会の確保も「努力義務」

65歳から70歳までの就業機会の確保のため、以下のいずれかの措置を講ずることも努力義務になっています

1. 70歳までの定年引き上げあるいは定年制の廃止
2. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入 
3. 70歳までの継続的業務委託契約制度の導入
4. 70歳までの社会貢献事業参加制度の導入

「再雇用制度」とは?「勤務延長制度」との違い

「継続雇用制度」は、高年齢者を本人の希望で定年後も雇用する制度ですが、「再雇用制度」「勤務延長制度」の2つがあります。

再雇用制度は、定年でいったん退職したうえで、新しい身分の従業員になるものです。

勤務延長制度は、定年後もこれまでの雇用条件や雇用形態が継続は引き継がれる制度で、実質的には定年延長と同じと考えればよいでしょう。

65歳までの雇用確保義務はほぼ100%の企業で実施済み

厚生労働省の調査によると、65歳までの雇用確保義務はほぼ100%の企業で実施済みです。

「継続雇用制度の導入」が69.2%、「定年の引上げ」が26.9%などとなっています。

(出典)厚生労働省 令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します

再雇用制度の設計・契約時に注意したいポイント

定年退職後の正社員を65歳まで再雇用する場合、有期雇用契約として65歳までの雇用継続を認める、という制度にする事が一般的です。

再雇用制度を設計する場合には、次の3つのポイントに注意しておく必要があります。

1.希望者全員を再雇用すること。65歳までの雇用を継続すること。
2.再雇用時の労働条件は再雇用前と同じでなくてもよい。
3.有期雇用契約として例えば1年ごとに契約更新することが多いと思われますが、無期雇用社員と比べて不合理な待遇差は禁止される。

以下、個別の項目の留意点について、簡単に触れます。

雇用形態

再雇用制度は一度退職するという形をとるものです。再雇用契約時に嘱託、パートアルバイト、契約社員など雇用形態の変更が可能です。

有期雇用1年更新とし、特段問題なければ65歳まで雇用する、というのが一般的でしょう。

また、現在の会社ではなくグループ会社に雇用される、という形でも差し支えありません。現在の会社で従来の業務を継続してほしいのなら、当該グループ会社から現在の会社に出向・派遣といった形をとることも考えられます。

契約更新期間

再雇用の場合は、1年ごとの更新になっていることが多いでしょう。無期転換ルールに注意が必要です。すなわち、通算で5年を超えて繰り返し契約更新されると、本人の申し込みにより、「無期転換ルール」が適用され、期間の定めのない雇用契約になってしまいます。

定年後再雇用の場合には、事業主が雇用管理に関する計画(第二種計画と呼ばれます)を作成して都道府県労働局長の認定を受ければ、無期転換ルールの適用対象外となります(有期雇用特別措置法)。

60歳定年で65歳までの再雇用ならギリギリセーフと思われるかもしれませんが、人により65歳を超えて再雇用することも想定するなら、第二種計画の労働局認定をとっておく方がよいと思われます。

給与・賞与・各種手当など

再雇用で 有期雇用の従業員(すなわち非正規社員)について、無期雇用の正社員と比べて一定程度待遇を切り下げることは許されますが、「不合理な待遇差」は認められません(パートタイム有期雇用労働法第8条等)。「不合理な待遇差」かどうかは、業務の内容、責任の範囲、厚生年金等の支給といった諸事情を考慮して判断されます。

なお、特に「手当」についてはその性質により、正社員と同様にすべきものもあります。例えば、食事手当や通勤手当等は、正規非正規にかかわらず業務上必要ですから、原則として同様に支給すべきでしょう。

仕事内容

定年前と異なる仕事についてもらうことは、差し支えありません。しかし、全く別個の職種とするのは、問題になり得ます。デスクワークの事務職を再雇用後に清掃業務につかせたことを違法とした裁判例もあります(平成28年(2016年)9月28日名古屋高等裁判所判決)

有給休暇

再雇用ではいったん労働契約が途切れますが、有給休暇付与要件の労基法第39条「6ヶ月以上継続勤務」については、労働契約の継続は、実質的に判断されるべきものです。

形式上労働関係が終了し、別契約が成立している場合でも、前後の契約を通じて、実質的に労働関係が継続していると認められれば、労基法第39条にいう継続勤務と判断されます。

この判断基準に応じて、有給休暇を付与しなければなりません。

実際に制度設計し再雇用する際の流れ

(1) 就業規則の整備

就業規則中に定年の定めがあるでしょう。再雇用制度導入時には、まず就業規則にその旨を記載します。通常の就業規則改定と同様に、労働組合(労働組合がない場合は労働者代表)の意見を聞き、労働基準監督署に届け出ます。

(2) 該当従業員の意思確認

再雇用制度は、再雇用を希望する従業員を再雇用する制度です。企業は、該当の従業員に、再雇用を望むかどうかの意思確認をします。再雇用を望まない場合は、従来の定年退職と同様の対応になります。

(3) 契約内容の提示と同意

会社から従業員に再雇用契約の内容を提示して、従業員の同意を得ます。なお、再雇用の条件として給与等を不合理に切り下げたり、業務内容について不合理なものを提示するなど、実質的に再雇用を妨げるようなことは避けるべきです。

(4) 退職金の処理と社会保険の確認

再雇用の前に、一度退職することになりますので退職金の手続きを行います。

再雇用前後で、標準報酬月額も変わることが多いでしょう。同日得喪の手続を行って再雇用の月から標準報酬月額の変更を行うのが望ましいと思われます。雇用条件の変更の程度によっては、社会保険の対象から外れる場合もありえます。

社会保険労務士等の専門家に手続きを確認してください。

就業規則への記載例

就業規則で注意したいポイントと、それに応じた規定の例を以下に示します。

【1】継続雇用しない事由の記載例

第〇条 会社は、定年により会社を退職する社員であって再雇用を希望する者(以下「再雇用希望者」という。)のうち、就業規則第〇条(解雇)に該当する事由のない者について、満65歳を限度に1年間の有期労働契約によってこれを再雇用する。

就業規則で、継続雇用しないことができる事由は、解雇事由又は退職事由の規定と同様のものとする事が必要です。定年時に継続雇用しない特別な事由を設けるのは、高年齢者雇用安定法違反となります。

ただし、就業規則の解雇事由又は退職事由と同じ内容を、継続雇用しない事由として規定することは可能です。次のような定め方が考えられます。

【2】再雇用の希望の聴取・申請手続き等の記載例

(再雇用の希望の聴取等)
第〇条 会社は、定年退職日の6ヶ月前までの間に、再雇用の希望の有無を聴取する。

(再雇用申請手続)
第〇条 再雇用希望者は、定年退職日の3ヶ月前までに、所属長経由で申請書類を総務部へ提出する。

2.総務部は、申請書類を受領した後、再雇用の可否を定年退職の2ヶ月前までに所属長経由で再雇用希望者へ通知する。

3.前項の通知において再雇用する旨の回答を行った場合であって、当該通知を発した時点から定年退職日までの間に再雇用希望者が就業規則第〇条(退職、定年に関するものを除く)または第〇条(解雇)の事由に該当するものと会社が認めた場合、会社は当該通知による回答を撤回し、当該再雇用希望者を再雇用しないことができるものとする。

4.前項に基づき再雇用希望者を再雇用しないこととした場合、総務部は速やかにその旨を所属長経由で当該再雇用希望者へ通知する。

【3】各種労働条件の定め方の記載例

(就業時間・休日)
第〇条 再雇用者の1日の勤務時間および1週の休日数は、業務上の必要性と本人の希望を勘案して会社が決定する。

(年次有給休暇)
第〇条 年次有給休暇の勤続年数の算定は、社員として就職したときより通算し、労働基準法の定めに基づき付与する。
(注)社員就職時からの通算に関しては、前述再雇用制度の設計・契約時に注意したいポイント「有給休暇」を参照してください。

(休職制度)
第〇条 再雇用者には休職制度を適用しない。

(給与)
第〇条 再雇用者の給与は、次の事項を総合的に勘案して決定する。
(1)業務の内容
(2)1ヶ月の勤務時間数

(賞与)
第〇条 再雇用者の賞与は、個別に取り決めることとする。

(退職金)
第〇条 再雇用者が退職した場合は、退職金は支給しない。
(注)賞与・退職金の定め方については、後述 「社労士の玉上 信明がお答えします。Q&A」のQ2を参照してください。

(その他の就業条件)
第〇条 再雇用者のその他の就業条件は社員就業規則に準ずる。

社労士の玉上 信明がお答えします。Q&A7選

Q1 再雇用は新たな労働契約なので、再雇用前と比べて給与・賞与等を大幅減額したり、手当をカットすることは認められるのですか。

A.有期雇用社員について正社員と比較して不合理な待遇差をつけることは禁止されています(パートタイム有期雇用労働法第8条)。正規・非正規の労働者について、職務の内容や責任の範囲、転勤の有無などを考慮して「不合理な待遇差がないようにする」というルールに従って個別に判断されることになります(厚生労働省同一労働同一賃金ガイドライン

また、仕事の内容が変わる場合に、それに応じて待遇を切り下げることは認められますが、前職と著しく異なる業務に就かせるのは、問題になり得ます。

Q2 再雇用者は有期雇用なので、賞与や退職金は支給しなくてもよいのではありませんか。そのような最高裁判決があったと思います。

A.最高裁判所にて2020年に「非正規社員への賞与・退職金不支給は問題ない」とされた判決が出ていますが、これは、それぞれの事件の個別事情を考慮して判断されたものです。

そもそも働き方改革関連法施行前の事件です。 厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインなども参考にして、適切な水準を定めるべきでしょう。

Q3 本人と事業主の間で賃金と労働時間の条件が合意できず、継続雇用を拒否した場合も違反になるのですか。

A. 高年齢者雇用安定法(法)は、継続雇用制度の導入を求めているものですが、事業主に定年退職者の希望どおりの労働条件での雇用を義務付けるものではありません。

事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主の間で合意が得られず、労働者の継続雇用を拒否したとしても、法違反となるものではありません。

Q4継続雇用制度として、再雇用する制度を導入する場合、実際に再雇用する日について、定年退職日から1日の空白があってもだめなのでしょうか。

A.この問題については、厚生労働省の高年齢者雇用安定法Q&A で次のように記載されています。どの程度の空白期間なのか、合理的な理由があるのか、ということを含めて慎重に対応すべきと思われます。

「継続雇用制度は、定年後も引き続き雇用する制度ですが、雇用管理の事務手続上等の必要性から、定年退職日の翌日から雇用する制度となっていないことをもって、直ちに法に違反するとまではいえないと考えており、このような制度も「継続雇用制度」として取り扱うことは差し支えありません。ただし、定年後相当期間をおいて再雇用する場合には、「継続雇用制度」といえない場合もあります。」
※厚労省「高年齢者雇用安定法Q&A」より引用

Q5 当社の継続雇用制度では、定年後の就労形態をいわゆるワークシェアリングとし、それぞれ週3日勤務で概ね2人で1人分の業務を担当する予定ですが、このような制度も認められますか。

A.事業主の合理的な裁量の範囲の条件であれば、定年後の就労形態をいわゆるワークシェアリングとし、勤務日数や勤務時間を弾力的に設定することは差し支えないと考えられます。

Q6 高齢者を雇用するにあたって、健康上の配慮など注意すべき点がありますか。

A.高齢者は健康問題を抱えることが多く、また、過度な業務負担が再雇用者の健康を害するリスクがあります。再雇用後も定期的な健康診断や職場での健康管理が重要です。労働災害防止等にも十分配慮してください。

Q7 最近の技術の進歩等で、高齢の従業員についていけない人もいるのではないかと心配です。率直に言って若手社員の足手まといにならないか、と懸念しています。どのような対応が必要でしょうか。

A.高齢者は技術の進歩について行けない、と決め付けるのはいかがなものでしょうか。高齢者は、個人差が大きく、新しい知識の習得に熱心な人も沢山います。

豊富な職業経験等から、自分にできない仕事でも、人を巧みに使って業務を遂行していくマネジメントスキルにたけた人も少なくありません。むしろ、修羅場を踏んだ貴重な経験の持ち主も数多くいるのです。「高齢者だからできない」と思い込まず、例えば若い人を新しい技術のメンターにして、高齢者とチームを組んで仕事をするなど、様々な工夫の余地があると思います。それぞれの人の得意を組み合わせてお互い切磋琢磨する。そのような職場を目指して はいかがでしょうか。

キテラボ編集部より
規程管理システム KiteRa Bizは、定年退職者再雇用規程などを含めた約120規程雛形をご用意しております。
雛形には条文の解説もついているため、参照しながら規程を編集することで、内容理解を深めた規程整備が簡単にできます。法改正に準拠した雛形のため、現在のお手持ちの規程と比較することで見直しポイントのチェックもできます。他にも、ワンクリックで新旧対照表が自動生成できる機能などもあります。

【規程管理システム KiteRa Bizの詳細は下記リンクからご覧ください。】

Thumbnail

社内規程をクラウド管理!簡単に運用できる

社内規程DXサービスとは、社内規程の作成・編集・管理・共有・申請の一連のプロセスを統合管理するシステムです。統合管理することで各プロセスの業務を効率化し、企業のガバナンス向上を実現します。

Thumbnail

規程管理システムとは!?社労士が人事労務担当者向けにメリットを解説します

規程管理システムとは、各企業が独自に定める社内ルール「社内規程」の作成・改定・管理を行うためのシステムのことです。専用のシステムを使うことで、効率的かつスムーズな作業が実現できます。

玉上 信明
社会保険労務士
TOP実務の手引き

定年後の再雇用制度とは?導入の注意点や就業規則への記載例を解説