変形労働時間制とは!?メリットや導入の手順などを解説します【実演動画あり】

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武久 亮介

YouTubeチャンネル「社労士武久の人事労務アカデミー」を運営している社会保険労務士の武久亮介です。
労働基準法では、様々な業種の働き方に対応するため、通常の労働時間制度とは異なる変形労働時間制というものが用意されています。
今回は、柔軟な働き方を実現できる変形労働時間制について説明しますので、導入を検討されている方にとって参考になれば幸いです。

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、業務の繁閑に応じて柔軟な働き方ができるようにする制度です。
通常の労働時間制度は、原則として1日8時間、週40時間が上限となり、これを超えた部分が時間外労働となり割増賃金が発生します。
しかし業種によっては、ある週は忙しくてある週は忙しくないといったことがあるのではないでしょうか。1日8時間、週5日勤務のような典型的な働き方ができる業種は限られています。
そこで、様々な業種の特性に合わせられるように、いくつかの例外的な労働時間制度が用意されています。

変形労働時間制の種類

(1)1か月単位の変形労働時間制

1か月単位の変形労働時間制とは、1か月以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間以内となるよう、労働日と労働時間を設定する事により、特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えることが可能となる制度です。月の上旬は忙しいが下旬は忙しくないというように月内で業務の繁閑がある業種において、ある週は48時間、ある週は32時間といった対応ができます。(参考:労働基準法第32条の2)

(2)1年単位の変形労働時間制

1ヶ月を超え1年以内の期間を平均して週40時間以下となるのであれば、特定の日や週について、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

夏は忙しいが冬は忙しくないというように1カ月を超え1年以内の期間で業務の繁閑がある業種において、ある月は労働時間を多く、ある月は労働時間を少なくといった対応ができる制度です。1年単位という名称ですが、1カ月を超え1年以内であれば自由に期間を設定することができます。(参考:労働基準法第32条の4)

【1年単位の変形労働時間制 の詳しい解説については、下記の資料にまとまっています】

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1年単位の変形労働時間制 ルールの決め方とカレンダーの作り方

この資料でわかること 1年単位の変形労働時間制の概要 導入に必要な手順 1年変形カレンダーの作成方法 1年単位の変形労働時間制の「メリットやデメリット」「どのような業種に向いているのか」など

(3)1週間単位の非定型的変形労働時間制

小売業、旅館、料理・飲食店で従業員数が30人未満の場合に適用でき、労使協定により、1週間単位で柔軟に働くことができる制度です。(参考:労働基準法第32条の5)

(4)フレックスタイム制の場合

労働者が出勤時刻と退勤時刻や労働時間などを日ごとに決めることができる制度です。一般的にはコアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)とフレキシブルタイム(労働者が働く・働かないを決定できる時間帯)を設けておきます。また、最大で3カ月間の清算期間を設定することもできます。(参考:労働基準法第32条の3)

変形労働時間制のメリットとデメリット

メリット

【1】業種に合った柔軟な働き方を実現し、時間外労働を削減できる可能性がある。

平均すれば週40時間以内に収まるにもかかわらず、特定の週や月の労働時間が多くなることで時間外労働が増えてしまうことがあるかと思います。そうすると残業代が増えてしまい、会社にとっては人件費が多くなってしまいます。しかし変形労働時間制をうまく活用することによって時間外労働とならず、残業代を少なくできる可能性があります。

【2】魅力的な職場と見られ、採用や定着において有利になる可能性がある。

昨今は柔軟な働き方を求める労働者が増えてきています。そういった人にとって、特にフレックスタイム制などは魅力的に感じる可能性が高いです。これからも人手不足が進み人材獲得競争は進んでいくはずなので、労働者にとって魅力的な労働環境を整備することは非常に重要です。

デメリット

【1】正しく運用しなければ無効となる可能性がある。

原則通りの1日8時間、週40時間という制度は、良くも悪くもシンプルで運用しやすいです。変形労働時間制は特例のような制度で、メリットがある代わりに守らなくてはならないルールが数多く追加されます。例えばシフトやカレンダーは必ず事前に、かつ期日までに作成して確実に周知しなければならないことや、就業規則などに適切な文言を記載しておかなければならないことなどです。こういったルールを遵守していなければ、変形労働時間制が無効となってしまう可能性もあります。

【2】労働時間の集計がややこしくなる可能性がある。

労働時間の集計においても、原則通りの制度はシンプルで集計しやすいです。原則通りであれば単純に1日8時間と週40時間を超えた部分を時間外労働として集計していけばいいことが多いのですが、変形労働時間制だと事前に設定したスケジュールはどうなっているかによって時間外となる部分が決まったり、途中で退職したら清算が必要になったりと、細かな集計ルールが追加されることが多いです。こういったルール通りに集計するためには、適切なシステムや労務知識が必要になります。

導入ステップ

1.勤務実態の調査

まずは自社の勤務実態を把握しましょう。実態を把握しなければ、自社に最適な労働時間制度を選択することができません。経営陣や総務部などだけで判断するのではなく、実際に働いている現場の人にも確認することをお勧めします。そうしなければ、苦労して導入したにもかかわらず運用がうまくいかないということになりかねません。

2.導入する労働時間制度の選定

実態が把握できたら、次は自社に最適な労働時間制度を選定しましょう。これまでもご説明しましたが、変形労働時間制はいずれも導入や運用において注意しなければならない点がいくつもあります。誤ってしまうと無効になってしまう恐れもありますので、必ず事前に制度の詳細を確認しておいてください。法律に関することですので、社会保険労務士などの専門家や最寄りの労働基準監督署へ相談することをお勧めします。

3.就業規則の整備と労使協定の締結

導入する制度が決まりましたら、次は本格的に導入の準備をします。就業規則の変更に加え、労使協定の締結が必要となる制度もありますので、何が必要なのかしっかりと確認して漏れが無いようにしてください。このとき、会社主導で強引に進めていないかも注意してください。就業規則変更や労使協定締結は、労働者との合意が必要なケースが多いです。法律的に合意までは必要ないケースもありますが、事前にきちんと説明して納得してもらっておくと、導入後の労使トラブルを未然に防ぐことができます。

また、就業規則や労使協定は、KiteRaのような規程管理システムで作成すると効率的です。
規程例や協定例などが豊富に用意されているので、どのような文言にすべきかなどを調べる時間を大幅に削減できます。

キテラボ編集部より
規程管理システム KiteRa Bizは、約120規程雛形をご用意しております。
雛形には条文の解説もついているため、参照しながら規程を編集することで、内容理解を深めた規程整備が簡単にできます。法改正に準拠した雛形のため、現在のお手持ちの規程と比較することで見直しポイントのチェックもできます。他にも、ワンクリックで新旧対照表が自動生成できる機能などもあります。

4.労働基準監督署への届け出

労使協定の届出が必要な制度もありますので、期日までに忘れずに届け出るようにしましょう。

拠点が多くある会社では届出が大変になりますが、電子申請を活用すれば業務効率化できます。KiteRaのような規程管理システムには電子申請機能も付いているので活用してみてください。また、就業規則や一部の労使協定は、要件を満たせば本社を管轄する労働基準監督署に一括で届け出ることも可能になりました。

5.従業員への周知

規程や労使協定を社内に周知して、従業員に把握してもらうことも忘れてはいけません。従業員が知らなかったとなると、後々トラブルに発展する可能性もあります。

周知についても、KiteRa Bizのように規程管理システム内で行うことができるものもあります。KiteRa Bizでは未閲覧者を確認でき、その未閲覧者に対して再度通知を送信することもできます。システムを最大限に活用して、効率的かつ適切に導入しましょう。


(関連記事)就業規則の周知の効力については、下記リンクからご参考ください。

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社労士武久のワンポイント
導入する前に、制度についてしっかりと調べておきましょう。特に運用方法、具体的にはシフトやカレンダーの作成方法と時間外労働集計方法については入念に確認しておいていただきたいです。

よくある勘違いが2つあり、1つは「結果的に週平均40時間以内になればいい」というものです。
例えば1カ月単位の変形労働時間制では、該当月が始まる前に1カ月の勤務スケジュールを決めて周知しなければならず、基本的にはそのスケジュール通りに働くことになります。しかし事前にスケジュールを作成せず、週ごとに翌週のスケジュールを作成しているケースがあります。顧客の数や天候に左右されるため1カ月先までのスケジュールを作成することは難しいという業種もあるかと思いますが、そのような場合では1カ月単位の変形労働時間制などは適さない可能性があります。

運用方法や集計方法において細かなルールがありますので、変形労働時間制を導入する前に、自社でこういった運用や集計が可能なのか専門家や労働基準監督署に相談しながら確認しておいてください。

社労士武久がお答えします。変形労働制についてのQ&A

Q変形労働時間制で1日8時間を超えて働かせることはできますか?

A場合によってはできます。

例えば1カ月単位や1年単位の変形労働時間制であれば、事前に8時間を超える勤務スケジュールを作成しておけば、スケジュールで設定した時間までは8時間を超えたとしても時間外労働となりません。ただし1年単位の変形労働時間制で設定できるスケジュールには1日10時間などの上限があるので注意が必要です。

Q変形労働時間制でも休日振替ができますか?

A制度によっては原則としてできないものもあります。

例えば1年単位の変形労働時間制では、通常業務の繫閑等のために行われる休日振替は原則として禁止されています。予期しない事情によりやむを得ず振替を行う場合には、一定の要件を満たす必要があります。また、振替により時間外労働の集計方法がイレギュラーとなりますので、振り替えた場合の労働時間集計方法についても理解したうえで行うようにしてください。

Qスムーズに運用するためのコツはありますか?

A勤怠管理システムを導入することをお勧めします。

変形労働時間制では、労働時間の集計について細かなルールがあります。ルール通りに手作業で集計することはかなり大変ですので、勤怠管理システムを活用することで集計業務を効率化することができます。ただし適切に設定しなければせっかくのシステムが活用できないので、初期設定時には集計結果が思い通りになっているか確認するなど注意してください。

まとめ

変形労働時間制は柔軟な働き方を実現できる制度ですので、自社の実態に合うようであれば導入してみてはいかがでしょうか?会社の働き方に応じていくつかの変形労働時間制が用意されているので、視野を広げて検討してみると自社にピッタリな制度が見つかるかもしれません。

ただ、詳細を調べずに安易に導入するケースも多いように感じます。あくまでも原則に対する例外的な存在ということをご理解いただき、例外を採用する条件をクリアできないのであれば原則通りの制度で運用すべきなので、変形労働時間制にこだわりすぎるのも禁物です。きちんと法律を遵守し、労使双方が納得して気持ちよく働ける職場環境ができることを願っています。

また、導入時には就業規則や労使協定など様々な業務が必要になります。このような業務が億劫で導入に二の足を踏んでいることもあるかもしれませんが、KiteRaなら効率的に規程編集や労使協定作成、カレンダー作成、電子申請などができますので、このようなシステムを活用することも検討してみるとよいかと思います。

キテラボ編集部より
武久亮介先生がKIteRa Bizを紹介している動画もございます。「就業規則」の編集と「1年単位の変形労働時間制に関する協定届」の作成を実演し、法改正反映機能や、編集機能などを説明しています。本記事と合わせて、ご参考になれば幸いです。

【規程管理システム KiteRa Bizの詳細は下記リンクからご覧ください。】

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武久 亮介
社会保険労務士法人三交会 代表社員
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