短時間勤務労働者の固定残業代はいくらにすればいい?」社労士が解説

更新日

|

投稿日

玉上 信明

社会保険労務士の玉上 信明です。

短時間勤務制度を導入した際に「固定残業代」は論点になりやすいテーマの一つです。

A「固定残業代を支給しない」
B「固定残業代は全額支給する」
C「固定残業代は一部支給する」


上記のうち、どれが正解なのでしょうか?
本記事では、具体例をもとに解説していきます。

※短時間勤務制度については下記の記事をご確認ください。

Thumbnail

育児や介護のための短時間勤務制度とは?就業規則や固定残業代などの注意点を社労士が解説

短時間勤務の対象者や導入の手順だけでなく、論点になりやすい「固定残業代」についても詳しく解説します。人事・労務関連の基礎知識から、社内規程の作成や見直しに関わる法改正の最新情報まで、専門家が幅広く発信...

固定残業代手当の扱いについて

基本的な視点

固定残業代は「一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金を定額で支払うこととする制度」です。簡単に言えば「時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度」です。そのため、一定の生活給的な保障という意味合いもあります。

では、固定残業代を導入している企業で、時短勤務者の固定残業代はどう扱うべきでしょうか。

時短勤務者は、そもそも通常の所定労働時間の勤務すら困難な人です。時間外勤務は極力避けるべきだから固定残業代の適用対象外、とするのが適切なようにも思われます。

しかし、固定残業代には一種の生活給的な意味もあります。固定残業代を一律カットすると賃金が大幅に減少します。時短勤務を妨げる要因にすらなりかねません。

なお、厚生労働省で、育児のための短時間勤務制度について短縮時間分賃金の取扱いを調査したものがあります。短縮時間分について無給78.8%、有給10.7%、一部有給10.4%です。無給が多いものの、有給にして時短勤務者に配慮している会社も一定数あります。

これらも前提に検討してみましょう。

(参考)厚生労働省 「令和3年度雇用均等基本調査」結果を公表します 30頁

具体例での検討

どのようにすればよいのか。具体例で考えてみましょう。

1.通常の勤務者

①基本給(一日所定労働時間8時間)250,000円(概ね時給換算1500円)
②固定残業代30時間分 56,250円(割り増し率25%で1時間当たり1,875円)
※30時間を超える時間外労働分の割増賃金は追加で支給合計 306,250円

2.時短勤務者

①基本給(一日所定労働時間6時間) 187,500円(250,000円×8分の6)
②固定残業代 なし
合計 187,500円

基本給だけで比較すれば、もとの月収(250,000円)の75%であり、時間が減った分に見合うものです。しかし、これまでは残業有無にかかわらず30万円超の月収を得ていました。

固定残業代不支給では、もとの月収(306,250円)の61%になってしまいます。
減収額は118,750円です。

とはいえ、もとの固定残業代を満額払うのも、時短勤務者以外との公平性に欠けるとも思われます。もとの固定残業代を時間短縮分見合いで減額して払うことも考えられます。

どのような払い方をするにしても、「時間外等割増賃金の定額払い」とは性格の異なる一種の調整手当という意味合いになりそうです。

労使双方でよく協議し、また制度の適用対象者や一般の従業員の意見もよく聞いて、納得感のある制度を工夫するべきでしょう。  

【固定残業代の取り扱い参考案】
(単位 円)         

通常の勤務者                                           

基本給固定残業代合計元の月収との比較
通常の勤務者250,00056,250306,250100%

時短勤務者

基本給固定残業代合計元の月収との比較
A案:固定残業代不支給187,5000187,50061.2%
B案:固定残業代全額支給187,50056,250243,75079.6%
C案:固定残業代75%支給187,50042,187229,68775.0%
玉上 信明
社会保険労務士
TOP実務の手引き

「短時間勤務労働者の固定残業代はいくらにすればいい?」社労士が解説