未払いの残業手当を支給したら、所得税はどうなるの?
未払いの残業手当を一括で支払うこととなった場合には、いつの労働に対するものなのか、その支給すべき額面が何円であるかの確認と共に、額面に対する所得税をはじめとする控除についても確認をする必要があります。
今回は、このような場合における所得税等の取り扱いについてご紹介を致します。
所得税の課税される対象は「給与所得」
勤務先から支給する金銭等のうち、所得税の課税される対象は、給与所得に該当するものです。
給与所得とは、従業員や役員に支払う俸給や給料、賃金、歳費、賞与のほか、これらの性質を有する手当や現物給与を含む、給与に係る所得をいいます。
手当とは
従業員や役員に支払う手当は、原則として給与所得に該当し、所得税の課税対象となります。この手当には、残業手当、休日出勤手当のみならず、職務手当、地域手当、扶養手当、住宅手当といった各種手当が含まれます。
例外として、通勤手当のうち一定額以下のもの、転勤や出張などのための旅費のうち、通常必要と認められるもの、宿直や日直の手当のうち、一定金額以下のものは、所得税の課税対象とはなりません。
現物給与とは
従業員や役員に支払う給料や手当は、一般的には金銭で支払いが行われますが、食事の支給や自社商品の値引き販売等、物または権利その他の経済的利益を支給した場合には、現物給与として給与所得に該当し、所得税の課税対象となります。
現物給与に該当するものとして、「物品その他の資産を無償または低い価額により譲渡したことによる経済的利益」、「土地、家屋、金銭その他の資産を無償または低い対価により貸し付けたことによる経済的利益」、「福利厚生施設の利用等を無償または低い対価により提供したことによる経済的利益」、「個人的債務を免除または負担したことによる経済的利益」等があります。
残業手当は所得税の課税対象になる
今回ご紹介を致します残業手当は、上記のとおり、給与所得に該当する手当に含まれます。未払いの残業手当として、勤務日と支給日が大幅に異なる場合であっても、給与所得に該当しますので、所得税の課税対象となります。
給与所得の課税時期 ※¹
従業員や役員の給与所得に課税される年間の所得税は、対象外となる一定の方を除き、勤務先の年末調整によって、個人毎に最終決定及び追徴や還付による精算が行われます。この年末調整の対象となる給与は、その年の1月1日から12月31日までの間に支払いが確定した給与です。
例えば、令和5年11月分の給与として12月15日に支払われる予定であったものが、未払いとなり令和6年1月15日に支払われる場合には、12月31日までに支払うことが確定していると判断をすることができるため、令和5年分の年末調整の対象となる給与に該当、すなわち令和5年分の所得税の課税対象として取り扱われます。
未払いの残業手当が支給された場合には、本来各支給日に支払うべき残業手当が一括して支払われたものと認められることから、上記の給与と同様に、本来支給すべきであった支給日の属する年分の給与所得となります。
例えば、令和5年1月から12月に発生をした残業手当が、令和5年中は未払いであり、令和6年に一括で支払った場合には、発生をした令和5年分の給与所得に該当、すなわち令和5年分の所得税を追加払いする必要があります。
未払いの残業手当を支払った場合の事務手続き
未払いの残業手当を支払った場合には、本来の支給時期に遡った事務手続きが必要となります。
所得税に関する事務手続き
本来の支給時期が前年以前であり、確定していた年間の給与所得が増額する場合には、年末調整の修正を行い、勤務先は税務署へ所得税の追加払いと、同額の所得税の追徴を従業員や役員から行う必要があります。
年末調整によって確定された情報は、給与支払報告書の提出をもって従業員や役員の居住する市区町村へ共有され、従業員や役員の住民税の計算根拠となっているため、修正後の情報提供として、市区町村へ給与支払報告書の再提出も必要です。
また、未払いの残業手当の支給を受ける従業員や役員が確定申告を行っていた場合には、従業員や役員本人が確定申告の修正として修正申告書を税務署に提出する必要があります。
社会保険料に関する事務手続き ※²
未払いの残業手当を支払った場合には、所得税のみならず、各従業員や役員の社会保険料にも影響を及ぼすことがあり得ます。
社会保険料は、支給する給与に応じた標準報酬月額が定められており、この標準報酬月額に対して保険料率を乗じることで、各従業員や役員の保険料が算出されます。
この支給する給与に残業手当が含まれるときは、残業手当の支給前と後では標準報酬月額が異なり、負担すべき保険料が相違している場合があります。
未払いの残業手当が本来支給すべきであった年月日に支給されたとみなした場合において、定時決定や随時改定の修正が必要であるかを確認し、修正が必要である場合には、その届出を勤務先が加入する保険団体に提出します。
届出の結果、標準報酬月額が異なる場合には、社会保険料の不足分の精算を、勤務先は保険団体に対して、また従業員や役員は勤務先に対して行う必要があります。
労働保険料の事務手続き
労働保険料も、支給する給与に対して保険料率を乗じて各従業員や役員の保険料が算出されるため、未払いの残業手当を支払った場合には、影響が及びます。
社会保険料と同様に、この支給する給与に残業手当は含まれるため、残業手当の支給前と後では、負担すべき保険料が相違している場合があります。
未払いの残業手当が本来支給すべきであった年月日に支給されたとみなした場合において、労働保険料の申告の修正が必要であるかを確認し、修正が必要である場合には、その申告を再度労働局に行います。
また、社会保険料と同様に、労働保険料の不足分の精算を、勤務先は労働局に対して、また従業員は勤務先に対して行う必要があります。
まとめ
このように、未払いの残業手当を一括で支給した場合には、本来支給すべきであった年月日に支給されたとみなして、所得税や、社会保険料、労働保険料の精算が必要となります。
本来支給すべきであった年月日が不明である場合等は、例外として残業手当が実際に支払われた年月日の賞与として取り扱うこともできます。
ご不明な点がございましたら、税務署や年金事務所等の公的機関や、各専門家にお問い合わせされることをおすすめ致します。
【参照】
※¹…国税庁
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/41.htm
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2668.htm
※²…日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20121017.files/jireisyu.pdf