給与計算の基本的な流れと重要なポイントを解説
従業員を雇用している企業が毎月行う給与計算。労働基準法をはじめとしたさまざまな法律に基づき、正確な作業を行なわなければならない重要な業務です。本記事では、給与計算の概要や重要なポイント、給与計算のやり方のほか、注意点やミスをしたときの対処法などを徹底解説します。
給与計算における端数処理については「残業時間や賃金の端数処理はどこまで許されるか」をご覧ください。
給与計算の概要
給与計算とは、基本給や各種手当、残業手当といった支給項目全体の「総支給額」から、社会保険料、所得税、住民税などの「各種控除額」を差し引き、従業員に支払う「差引支給額」を計算するまでの一連の流れを指します。
差引支給額=総支給額-各種控除額
給与は、賃金支払期の間隔が開きすぎないことで、労働者の生活上の不安を除くことを目的に、労働基準法上、毎月一回以上支払う義務があります。そのため、従業員を雇用する企業は、必ず毎月給与計算を行います。総支給額については労働基準法や最低賃金法、各種控除額については所得税法、健康保険法、厚生年金保険法などさまざまな法律の下、正確に計算しなければなりません。
給与計算を行うにあたって重要なポイント
給与計算は、ここまで触れたように、さまざまな法律の下、正確な計算が求められます。ここでは、初めて給与計算をする担当者が押さえるべきポイントを解説します。
従業員の情報を把握できるようにする
従業員に支払う給与は、労働基準法上、労働の対償として労働者に支払うもの(労働基準法第11条)と定義されています。この労働の対償に基づいて給与計算をするには、従業員の勤怠情報を把握することが必要です。
出退勤や残業、休暇・欠勤などの勤怠情報を収集し、給与計算に反映します。また、勤怠情報以外では、昇給・昇格などによって変更が生じる基本的給与、住宅手当や家族手当といった各種手当、所得税における扶養情報なども把握する必要があります。
こうした勤怠情報は勤怠システムで、給与計算は給与計算システムで管理することが増えています。近年では、クラウドシステムを利用する企業も多いでしょう。
労働基準法第24条を守る
労働基準法第24条では、賃金の支払い方法について、次のとおり定められています。
- 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(1項)
- 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(2項)
これは、いわゆる「賃金支払いの5原則」であり、給与計算においては、この5原則をしっかり理解して、遵守することが重要です。
- 通貨払いの原則(現物給与の禁止)
- 直接払いの原則(中間搾取の排除)
- 全額払いの原則(支払い留保による足止め抑止と対価の労働者への帰属)
- 毎月1回以上払いの原則(生活不安の排除)
- 一定期日払いの原則(計画的生活の困難を防止)
労働基準法における賃金支払いの5原則を詳しく知りたい方は、下記、厚生労働省のサイトをご参考ください。
(※参考)厚生労働省:「賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。」
(※引用)e-Gov法令検索:「労働基準法 – e-Gov法令検索」
不明点があれば顧問社労士・税理士に確認する
給与計算は、労働基準法をはじめとした各種法律の下、企業が定める就業規則や賃金規程のほか、36協定、労働契約などに基づき、正確に計算します。
就業規則や賃金規程に定めがないときや、法律判断に迷うときなど、不安な点があれば、専門家である顧問社労士や税理士に相談しましょう。
給与計算のやり方
ここでは、給与計算のやり方を5ステップで解説します。
各従業員の総支給額を計算する
一つ目は、各従業員の総支給額を計算することです。
給与の支給項目は企業によって異なり、多岐にわたりますが、今回は下記の3つを想定して解説します。
- 基本給
- 各種手当
- 割増賃金
基本給の計算
自社の就業規則や賃金規程などの定めに基づき、適切に基本給の計算をしましょう。なお、減給の必要が生じた場合は、労働基準法や労働契約法に抵触しないように、専門家と相談することをお勧めします。
出勤日数の計算
給与は、有給休暇の取得分は支給対象となりますが、欠勤の場合、自社の就業規則や賃金規程などの定めに基づき計算した金額を控除します。1例としましては、次のとおり時給単価を算出し、欠勤控除を行います。
- (月給制の場合)欠勤控除額=基本給÷月平均所定労働時間
- (日給制の場合)欠勤控除額=基本給÷1日あたり所定労働時間
勤怠システム、給与計算システムを利用している場合、給与計算システムを正しく設定して勤怠システムの情報を取り込むと、有給休暇や欠勤控除を反映する自動計算ができます。
各種手当の計算
賃金規程などの定めの下、各種手当を計算します。給与計算システムを利用している場合は、従業員からの申請や人事発令に基づき、各種手当をシステムに登録します。主な手当としては、住宅手当や家族手当、役職手当、資格手当などがあります。
通勤手当の計算は、従業員の通勤方法に応じて、自社の定めに基づき支給します。
従業員の通勤方法は、「公共交通機関」と「マイカー」に大別されます。「公共交通機関」の場合は、合理的なルートを従業員から申請してもらい、定期代を支給することが一般的です。「マイカー」の場合も同様、合理的なルートを従業員から申請してしてもらいますが、計算方法は、キロあたりのガソリン単価を決定し、距離と期間に応じた通勤費を支給する仕組みが多いでしょう。
なお、通勤手当は、非課税限度額を超える場合、その超えた部分は課税対象となります。公共交通機関は1カ月あたり150,000円、マイカーの場合は、1カ月あたり2km以上10km未満は4,200円というように、距離別に非課税限度額が設定されていることに留意が必要です。
さらに、詳しく知りたい方は「通勤手当は対象となるか?事例を用いて解説」をご参考ください。
割増賃金の計算
残業や休日出勤手当など、労働基準法や就業規則や賃金規程に基づき、割増賃金を計算します。
割増賃金には、次の3つに分類され、労働基準法によって、それぞれ最低割増率が定められています。
- 時間外手当:25%以上(月60時間を超えたときは50%以上)
- 休日(法定休日):35%以上
- 深夜(22時〜5時まで):25%以上
各企業は、この法律の下、就業規則や賃金規程に割増賃金の計算方法を定めています。
さらに、詳しく知りたい方は、「労働基準法上の割増賃金を基本から解説」をご参考ください。
税金や社会保険料などの控除額を計算する
二つ目は、税金や社会保険料などの控除額を計算することです。
計算した総支給額から、それぞれの法律や制度に基づき、料率と税率に応じた控除額を算出します。控除項目は、次の3つに大別されます。
- 社会保険料
- 所得税
- 住民税
社会保険料
社会保険とは、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の総称です。
このうち、「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」は、総支給額を元に算定する「標準報酬月額」に応じて保険料が決定され、企業と従業員が折半で負担します。なお、介護保険料は、40歳から64歳の従業員が対象となることにご留意ください。また、「労災保険料」は、全額会社負担のため従業員から徴収は発生しません。
「雇用保険料」は、労働対価となる給与支給額を対象に、企業と従業員、それぞれに定められた料率に応じて負担します。
健康保険料や厚生年金保険料について詳しく知りたい方は、次の日本年金機構のサイトをご参考ください。
(※参考)日本年金機機構:「健康保険・厚生年金保険の保険料関係」
また、健康保険組合における健康保険料については、ご加入の健康保険組合のサイトを確認ください。
雇用保険料率については、次の厚生労働省のサイトをご参考ください。
(※参考)厚生労働省:「雇用保険料率について」
所得税
所得税とは、個人の所得に対して発生する税金です。
月々の所得税は、概算の税率で計算します。そして、年末の最終給与計算時に、基礎控除や扶養控除、保険料控除などの各種控除を行い、最終的な所得税額を計算し、年末調整を行う仕組みになっています。
年末調整は、毎年条件が変わる可能性がありますので、毎年必ず、次の国税庁のサイトで、該当年度における「年末調整のしかた」を確認しましょう。
(※参考)国税庁:「パンフレット・手引 – 国税庁」
また、所得税の仕組みや年末調整について詳しく知りたい方は、次の国税庁のサイトをご参考ください。
住民税
住民税とは、所得税と同様、個人の所得に対して発生する税金です。
ただし、所得税とは違い、前年の所得に対しかかる税金であり、基本的には、各自治体からの決定通知に基づき、翌年の6月から5月まで企業が特別徴収を行います。
住民税の仕組みを詳しく知りたい方は、次の総務省のサイトをご参考ください。
(※参考)総務省:「地方税制度|個人住民税」
手取りの金額を算出する
三つ目は、手取りの金額を算出することです。
手取りの金額となる差し引き支給額は、ここまで計算した総支給額と各種控除額を元に、次のとおり計算します。
差引支給額=総支給額-各種控除額
給与明細の作成と振り込み手続き
四つ目は、給与明細の作成と振り込み手続きをすることです。
給与明細
これまでの流れを経て、給与を確定し、給与明細を作成します。給与計算システムであれば、給与明細が自動的に作成されます。給与明細を紙で配布している場合は印刷し、Web化している場合は、eメールやクラウドにアップするなどの方法によって従業員に配布します。
振り込み手続き
給与は、「通貨払いの原則」「直接払いの原則」に基づき、賃金は、原則、現金かつ日本円で支払わなければなりません。しかし、同意書等による従業員の同意を得て、銀行口座等へ振り込みを行うことができます。
手続きとしては、給与システムで銀行振込用のデータを「全銀協規定形式」の形式で作成し、送金元銀行に振り込みデータを送信します。送金元銀行は、振り込みデータに基づき、各従業員の口座に給与を振り込みます。
送金エラーがなければ支払い完了です。もし、従業員が指定した振り込み口座に誤りや支障があった場合は、送金元銀行から振り込み不能の連絡がきますので、「一定期日払いの原則」を厳守するため、速やかに訂正手続きを行います。
全銀協規定形式について詳しく知りたい方は、全国銀行協会の次のサイトをご参考ください。
(※参考)一般社団法人 全国銀行協会:「〔別冊〕全銀協パーソナル・コンピュータ用標準通信プロトコル(ベーシック手順) 適用業務」
税金や社会保険料の納付
五つ目は、税金と社会保険料の納付です。
所得税の納付
原則として、給与支払月の翌月10日までに、納付する必要があります。そのため、給与計算で算出し、従業員の給与から控除した所得税額を預り金として取扱い、この徴収税額を税務署に納付します。
住民税の納付
住民税は、毎月、定められた税額を給与から控除して納付する「特別徴収」が義務付けられています。そのため、各市町村からの決定通知に従い、従業員の給与から控除した住民税額を預り金として取扱い、この徴収税額を各市町村へ納付します。
社会保険料の納付
給与計算で算出し従業員の給与から控除した社会保険料額は預り金として取扱います。この控除した従業員負担分と会社負担分を合算した社会保険料をそれぞれの機関に納付します。納付方法は、金融機関の窓口で直接納付や振替、振り込みなど、各機関指定の納付方法によっておこないましょう。
給与計算のスケジュール例
ここでは、毎月と年間それぞれの給与計算のスケジュール例を紹介します。
毎月のスケジュール例
毎月の給与計算スケジュールは、給与締切日と給与支給日をベースにスケジューリングします。次のスケジュールは、給与締切日を10日、支給日を25日とした例です。
10日(締め日) | 勤怠締め日前月給与分における源泉徴収税額や住民税特別徴収税額の納付 |
11~13日頃 | 労働時間や残業のチェック・勤怠集計各種社会保険の登録・変更各種手当申請の登録・確認 |
14~17日頃 | 給与計算実施給与計算結果のチェック・確定 |
18~19日頃 | 給与振り込み準備(経理部門等へ振り込みする場合は、その部門へ依頼) |
20~22日頃 | 給与振り込み手続き ※一括データ伝送(ファームバンキング:FB)・法人インターネットバンキングは、金融機関ごとに振り込み期限が定められていることに留意してください。 |
25日 | 給与支払日 |
月末 | 社会保険料の納付 |
年間のスケジュール例
年間の給与計算スケジュールは、昇給・昇格、賞与計算のほか、各種機関向けの住民税や社会保険、労働保険や年末調整など、時期が決まっている項目をスケジューリングします。ここでは、一般的な給与計算の年間スケジュール例を紹介します。
1月 | 給与支払報告書の提出(市区町村)法定調書の提出(税務署) |
4月 | 給与改定(昇給・昇格)※給与改定がある場合 |
5月 | 住民税の年度更新 |
6月 | 労働保険年度更新(7/10締め切り)賞与計算 |
7月 | 賞与額振り込み社会保険料算定基礎届の提出 |
8月 | 社会保険料改定(4月の給与改定者) |
10月 | 年末調整関係書類の配布社会保険料改定(7月の算定基礎対象者) |
11月 | 年末調整関係書類の回収賞与計算 |
12月 | 賞与額振り込み年末調整の実施源泉徴収票の作成 |
給与計算を行うにあたっての注意点
給与計算は、さまざまな法律やルールに基づき、正確に計算する必要があるため、注意点も多くあります。ここでは、給与計算の注意点を次のとおり説明します。
最低賃金を確認する
事業場の所在地に応じた最低賃金を適用する必要があります。この最低賃金とは、最低賃金法に基づいて国が賃金の最低限度を定め、企業は、それ以上の賃金を従業員に支払わなければなりません。この最低賃金は、都道府県毎に定められており、毎年10月頃に更新されます。
なお、特定の産業における最低賃金は、より高い水準の「特定(産業別)最低賃金」が適用されることにご留意ください。
地域毎の最低賃金は、次の厚生労働省のサイトを確認ください。
(※参考)厚生労働省:「地域別最低賃金の全国一覧」
また、最低賃金制度について詳しく知りたい方は、次の厚生労働省のサイトも参考にしてください。
(※参考)厚生労働省:「最低賃金制度とは」
雇用形態に合わせた給与計算を行う
給与計算は、雇用形態毎に合わせた計算を行う必要があります。
正社員などの無期雇用契約社員は月給制、有期雇用契約社員は日給制や時給制など、基本給の計算の仕方が異なる場合、それぞれの制度に応じた計算をします。給与システムを活用している場合は、勤怠情報を取り込めば、自動計算できることが一般的でしょう。
時間外労働の割増賃金を正しく計算する
時間外労働の割増賃金は、給与計算のやり方の章で解説したとおり、労働基準法や就業規則や賃金規程に基づき、正しく割増賃金を計算する必要があります。
労働基準法では、時間外手当は25%以上、法定休日の休日手当は35%以上、深夜割増手当は25%以上とそれぞれ最低割増率が定められています。この最低割増率を下回ると違法となるため、違法とならないよう、正しく計算しましょう。
従業員情報や労務情報の情報漏洩に気を付ける
給与計算は、従業員情報や労務情報など、さまざまな個人情報を取り扱います。所得税関係では、マイナンバーも取り扱うように、重要情報も管理する必要があります。こうした情報を漏洩しないよう、セキュリティに対応した給与システムを活用するほか、紙で管理する個人情報は施錠管理を行うなど、情報漏洩を防止する体制を整えてください。
給与計算で計算ミスをしてしまった時の対処法
給与計算は、誤りなく正確に行う必要がありますが、万が一ミスが発生した場合は、短期的対応と長期的対応に分けて対処しましょう。
短期的対応
まず第一に行うことは原因を調査し、ミスを是正することです。人為的なミス、給与システムの仕組みや設定の不備などさまざまな原因が考えられますが、起きた事象を確認し、影響範囲を調査します。簡潔に是正できる内容であればすぐに訂正対応を行い、ミスの対象となった従業員にお詫びと報告をしましょう。
基本的には、翌月以降に訂正を反映することが一般的ですが、訂正が各種社会保険料や所得税等に影響する場合は、対処法を顧問社労士や税理士に相談してください。過年度の訂正が発覚した場合は、所得税や住民税など、訂正対応が発生することも留意が必要です。
長期的対応
突き止めた原因を踏まえて、ミスの防止策を検討します。ミスが生じないよう、チェック体制の強化や業務のやり方を見直すなど対策を講じましょう。自動チェックの仕組みを講じる、あるいはエラーチェックプログラムを組み込むなどシステム強化を図ることも有効です。
まとめ
本記事では、給与計算の概要や重要なポイント、給与計算のやり方のほか、注意点やミスをしたときの対処法などを徹底解説しました。
給与計算は、労働基準法をはじめとした各種法律に基づき、正確な計算が求められますので、正しい知識を持ち、円滑な給与計算を心がけましょう。