「育児休業給付金の延長手続き」厳格化に伴い、企業側が準備すること
社会保険労務士の西岡秀泰です。
2025年4月から育児休業給付金の延長手続きが厳格化されます。育児休業給付金の支給は原則1年間ですが、保育所に入所できないなどやむを得ない事情があれば延長可能です。しかし、入所意思がないのに育休延長のために入所申し込みするケースが問題となり、雇用保険法が改正され給付金の延長手続きが厳格化されることになりました。
この措置により、職場復帰する意思がない人への育児休業給付金の支給と、支給要件を満たすために行う保育所入所申し込みが抑えられる見込みです。本記事では、延長に必要な3つの書類と育児休業給付金の概要について解説します。企業が対応すべきことも紹介しますので、改正に向けて対応しましょう。
延長手続きに必要な3つの書類
◆延長手続きに必要な書類 (改定前) (1)入所保留通知書 (改定後) (1)入所保留通知書 (2)育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書 (3)保育所などに申し込みをおこなったときの申し込み書の写し |
保育所などに入所申し込みをしたにもかかわらず入所できないことを理由に、育児休業給付金の支給期間の延長を申請するときの手続き書類が2025年4月から変わります。改定理由は、手続きを厳格化して入所意思がないのに育休延長のために入所申し込みするケースを防ぐことです。改定後に必要な3つの書類について詳しく解説します。
(1)入所保留通知書
「入所保留通知書」とは、市区町村が発行する保育所などの利用ができない旨の通知のことです。市区町村によっては、「入所不承諾通知書」など名称が異なることがあります。
入所保留通知書の発行申請は、居住地の市区町村に対して行います。申請書は各市区町村のホームページや役場などで入手しましょう。申請する前に保育所などに入所申し込みしていないと、入所保留通知書は発行してもらえません。また、通知書の発行日が「子どもが1歳に達する日の翌日(子どもの誕生日)の2ヶ月前(4月入所申し込みの場合は3ヶ月前)の日以後」であることに注意しましょう。
(入所保留に関する申請書と通知書のイメージ図)
引用:育児休業の延長手続きに使用する「保育の実施が行われていないことを証明する申請書」について|西東京市
(2)育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書
「育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書」とは、ハローワークに支給期間の延長事由を認定してもらうための申告書です。主な記入内容は次の通りです。
- 子どもの氏名・生年月日
- 延長申請する期間
- 保育所などの入所申し込みした内容(申し込み日や利用開始希望日、利用保留の有効期限、保育所の名称・住所・通勤時間、通所時間片道30分以上かかる場合はその理由)
- 入所内定の辞退の有無や入所保留の意思表示の有無 など
(支給対象期間延長事由認定申告書のイメージ)
引用:育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書|厚生労働省
申請書は厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
(3)保育所などの利用申し込み時の申し込み書の写し
「保育所などの利用申し込み時の申し込み書」のコピーも添付が必要です。申し込み書の全ページをコピーして添付します。申し込み内容を変更した場合は、変更後の申し込み書をコピーします。
申し込み内容が正しいかどうかを、ハローワークが市区町村に確認することもあるため、注意が必要です。申し込み内容を改ざんするなどして育児休業給付金を受給すると、不正受給として給付金の返還を求められたり、罰金が課されたりすることもあります。
ハローワークでは、(1)~(3)の書類をチェックして、育児休業給付金の支給期間を延長するための次の要件を満たしているかを判定します。
- 原則子どもが1歳に達する日の翌日以前の日(誕生日以前の日)を入所希望日として入所申し込みをしている
- 申し込みした保育所などが、合理的な理由なく自宅から通所に片道30分以上要する施設のみとなっていない
- 子が1歳に達する日の翌日(誕生日)時点で保育所などの利用ができる見込みがない
合理的な理由とは、次のいずれかに該当する場合をいいます。
- 保育所などが本人または配偶者の通勤経路の途中にある
- 自宅から30分未満で通える保育所などがない
- 自宅から30分未満で通える保育所などのすべてが、開所時間または開所日(曜日)では職場復帰後の勤務時間または勤務日(曜日)に対応できない
- 子どもが病気や障害により特別に配慮が必要であり30分未満で通える保育所などはすべて申し込み不可である
- 兄弟と同じ保育所などの利用を希望する場合、30分未満で通える保育所などがいずれも過去3年以内に児童への虐待等について都道府県または市区町村から行政指導等を受けている
そもそも育児休業給付金とは
そもそも、育児休業給付金とは、会社員などの育児休業中の生活を保障するために雇用保険から支給される給付金のことです。最初に、育児休業給付金の支給要件と支給額、支給される期間について解説します。
育児休業給付金の要件
育児休業給付金は、「原則1歳未満の子どもを養育するために育児休業を取得した雇用保険の被保険者」に支給されます。子どもを産んだ母親だけでなく、父親や特別養子縁組や里親として子どもを養育する人も対象です。育児休業給付金の支給を受けるには、次の2つの要件を満たさなければなりません。
- 休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上(または賃金支払の基礎となった時間数が80時間以上)ある月が12ヶ月以上あること
- 一支給単位期間(育児休業開始日から1ヶ月ごとの期間)中の就業日数が10日以下(または就業時間数が80時間以下)であること
有期雇用労働者(契約社員など)については、「出生日から8週間経過する日の翌日から6ヶ月以内に雇用契約の満了が明らかでないこと」が条件です。契約更新される可能性があれば、「雇用契約の満了が明らかでないこと」になります。
詳細については、ハローワークインターネットサービスのホームページで確認してください。
育児休業給付金の金額
育児休業給付金の支給金額は、支給開始日から1ヶ月単位で計算します。計算方法は、休業開始からの期間によって次の通りです。
- 休業開始180日 まで:休業開始時賃金日額✕支給日数(30日)✕67%
- 休業開始181日目 以降:休業開始時賃金日額✕支給日数(30日)✕50%
「休業開始時賃金日額」は、女性は産前産後休業開始前の、男性は育児休業開始前の6ヶ月の賃金を180日で割って計算します。休業開始半年間は休業前の2/3、後の半年間は半分が支給されることになります。延長給付を受ける場合は、休業前賃金の半額支給です。
ただし、休業開始時賃金日額には上限額(1万5,690円)と下限額(2,869円)が決まっているため、1ヶ月の支給額は次の範囲内です。上限額と下限額は毎年8月に更改されます。
- 休業開始180日まで:上限額31万5,369円、下限額5万7,666円
- 休業開始181日目以降:上限額23万5,350円、下限額4万3,035円
また、休業中に仕事をするなどで収入がある場合、支給金額が減額されたり支払われないこともあります。詳細は前述のハローワークインターネットサービス・ホームページで確認してください。
育児休業給付金の期間
育児休業給付金が支給されるのは、原則「養育する子どもが1歳になる日」までです。子どもが1歳になるまでに1ヶ月受給した場合も、10ヶ月受給した場合も子どもが1歳を過ぎれば支給はありません。
ただし、「パパ・ママ育休プラス」を取得した場合、支給期間は「子どもが1歳2ヶ月になる日」まで支給期間は延長されます。パパ・ママ育休プラスとは、夫婦が交互に育休を取得することで育休期間を延長できる制度です。育休期間と同時に、給付金の支給期間も延長できます。
支給期間の延長
育児休業給付金の支給期間は原則「子どもが1歳になる日」までです。しかし、1歳になったとき子どもを養育する人がいない場合(保育所に入所できない場合など)、育休期間と給付金支給期間を「子どもが1歳6ヶ月になる日」まで延長できます。また、子どもが1歳6ヶ月のとき同様の状況ならば「子どもが2歳になる日」まで再延長可能です。
(育休期間延長のイメージ図)
(引用)育児休業給付の内容と支給申請手続(P9)|厚生労働省
なお、保育所に入所できないことを理由に給付金の支給期間を延長できるのは次の3要件を満たす場合です。
- 保育所などの入所申し込みを1歳の誕生日の前日以前に行っている
- 入所希望日(利用開始日)が1歳の誕生日の属する月である(誕生日の翌日以降は不可)
- 1歳の誕生日以後の期間について当面保育の実施が行われない
企業側が準備すること
2025年4月の雇用保険法改正による育児休業給付金の延長手続き厳格化に対応するために、企業がすべき主なことは次の2つです。それぞれの対応について解説します。
【1】必要な書類の把握
【2】従業員への周知
【1】必要な書類の把握
従業員から育児休業の延長申出があった場合、企業が延長期間中の給付金支給申請と合わせて延長手続きを行うのが一般的です。そのため、給付金の延長手続きに必要な書類を把握し、従業員から取り付けなければなりません。
従業員から提出された延長手続きの必要書類によって、支給期間の延長事由を満たしているかどうかを確認しましょう。問題なければ、ハローワークに対し育児休業給付金の支給期間延長手続きと支給申請手続きを同時に行います。
チェックポイント ・前述の給付金延長に必要な書類が3点揃っているか ・保育所などへの入所申し込みを行っているか ・入所申し込み日が子ども1歳の誕生日の前日以前であるか ・入所希望日が子ども1歳の誕生日以前であるか ・入所の内定を辞退していないか ・入所保留を積極的に希望する旨の意思表示をしていないか ・通所時間片道30分以上かかる場合は合理的な理由が記載されているか など |
【2】従業員への周知
2025年4月の雇用保険法改正に関して、改正の主旨や延長手続きの必要書類などについて事前に従業員に周知しておきましょう。周知するタイミングは、産前産後休業に入る前や育児休業に入る前などです。育児休業の延長申請があった場合にも再度確認が必要です。従業員に周知するときは、厚生労働省作成のリーフレットなどを活用しましょう。
参考:2025年4月から保育所等に入れなかったことを理由とする育児休業給付金の支給対象期間延長手続きが変わります|厚生労働省
育児休業給付金の支給期間の延長に必要な書類を案内するとともに、次の点を徹底しましょう。
チェックポイント ・給付金を延長できるのは、「仕事に復帰するため」に保育所などに入所申し込みをしたが入所できない場合などに限定されること ・延長手続きの厳格化によって、入所意思がないのに給付金延長のために入所申し込みをしていないか厳しくチェックされるようになったこと ・支給期間の延長事由を満たさない場合、育児休業給付金は支給されないこと(育児のために休業できるかどうかは勤務先の就業規則などによる) ・虚偽の申告により育児休業給付金を不正受給すると、給付金の返還を求められたり、罰金を課されたりすること |
まとめ
育児休業給付金の延長について、雇用保険法が改正され2025年4月より延長手続きが厳格化されます。職場復帰する意思がない人が給付金延長のために、入所するつもりがないのに保育所などに入所申し込みするケースが問題となったからです。
延長手続きの厳格化により、「育児休業給付金支給対象期間延長事由認定申告書」などの書類が新たに必要となります。提出された書類をもとに、ハローワークが支給期間の延長事由を満たしているかどうかを厳しくチェックします。
雇用保険法改正に対応するために、企業は必要書類を正しく把握し従業員に周知しなければなりません。延長手続きなど事務的なことを伝えるだけでなく、育児休業給付金制度の主旨や延長手続き厳格化の理由を従業員に理解してもらい、不正受給や入所意思がない保育所の入所申し込みの防止に努めましょう。安易な育休延長を防ぐことにも役立ちます。
キテラボ編集部より
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