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男性の育児休業について。2025年4月の法改正前に人事労務担当者が押さえておきたいポイントを解説

KiteLab 編集部
2024.05.10

キテラボ編集部です。
株式会社KiteRaの社会保険労務士の監修のもと、「男性の育児休業」についてご紹介します。

「男性の育児休業」については、2024年に厚生労働省が社員100人超えの5万社に対して「取得率の目標設定と公表を義務づける」方針を固めました。2024年の通常国会で改正案が提出され、2025年4月からの施行が見込まれます。

法改正前に、人事労務担当者として押さえておくべき基礎知識をまとめました。

男性の育休の取得状況

育介法の度重なる改正を経て、育児休業に関する制度整備が進みましたが、制度の利用状況はどうなのでしょうか。以下では、育児休業の取得状況をみてみます。

取得率

(出典) 厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査

厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」によると、女性の育児休業取得率が「80.2%」であるのに対し、男性は「17.13%」でした。男性の取得率は、統計調査が始まって以来、過去最高となっています。平成29年度の男性の育児休業取得率が「5.14%」であったことを考えると、5年間で3倍以上となっており、男性の育児参加率が高まっていることが分かります。
しかし、女性の5人に4人が育児休業を取得しているのに対し、男性は5人に1人と、まだまだ男女間の格差があると言わざるを得ません。

政府は、男性の育児休業取得率について「2025年までに50%」との目標を掲げており、取得率向上のための施策が講じられています。2023年4月1日より、社員数1,000人以上の企業に対して、年に1回、男性社員の育児休業等の取得状況を公表することが義務づけられました。企業HPや厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」(下記)など、インターネット等による公表が必要となりました。

期間

順位男性女性
1位5日~2週間未満(26.5%)12か月~18か月未満(34.0%)
2位5日未満(25.0%)10か月~12か月未満(30.0%)

男性の育児休業取得率は上昇していますが、その取得期間はどの程度でしょうか。厚生労働省「令和3年度雇用均等調査」によると、男性の育児休業取得期間は、「5日~2週間未満」が26.5%と最も高く、次いで「5日未満」が25.0%と、2週間未満が5割を超えています。

これに対して女性は、「12か月~18か月未満」が34.0%と最も高く、次いで「10か月~12か月未満」が30.0%となっています。取得期間についても、男女の間には大きな開きがあるといえます。

男性の育休取得率が低い理由

男性の育児休業取得率が低い理由は何なのでしょうか。正社員・職員である男女と正社員・職員以外の男女を対象にした調査の結果(※)をもとに、男性が育児休業取得に踏み切れない主な理由を見ていきます。

◆男性(正社員・職員) (n=626)が末子の育児に関して、育児休業制度を取得しなかった理由


順位
選択肢割合
1位収入を減らしたくなかったから46.4%
2位職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから22.5%
3位自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから22.0%

※(参考)厚生労働省 委託事業「令和4年度 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」)をもとにキテラボ編集部で作成。

収入を減らしたくない

雇用区分にかかわらず、男性が育児休業を取得しなかった理由の第1位は「収入を減らしたくなかったから」でした。後述する「給付金の支給」や「保険料の免除」といった優遇措置があるとはいえ、育児休業の取得に伴う収入減は、大きな課題となっています。

育休を取得しづらい雰囲気がある

正社員・職員である男性が育児休業を取得しなかった理由の第2位は「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」です。正社員・職員以外の男性でも第3位の理由となっており、職場の雰囲気は育児休業の取得のしやすさに大きく影響しているといえます。

職場が人手不足

正社員・職員である男性が育児休業を取得しなかった理由の第3位は「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」です。なんと、正社員・職員である女性が育児休業を取得しなかった理由の第2位にもなっており、業務の属人化を理由に、正社員・職員である男女が育児休業の取得に踏み切れていないという実情が見えてきます。

業務の属人化が起こる主な原因は「人手不足」です。労働人口が減少していく中、DX化などにより人手不足を解消し、育児休業が取得しやすい雰囲気を作ることが求められます。

企業側の男性育休促進のメリット

世間的には、男性の育児休業の取得が推進されていますが、会社側が育児休業の取得を促進することにメリットはあるのでしょうか。以下では、会社が男性の育児休業取得を促進することのメリットについて解説します。

当事者への影響 

男性の育児休業取得を促進することで、育児休業の取得を希望している当事者の「満足度」の向上が見られます(厚生労働省「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査(速報値)」)。従業員の満足度の向上により、人材の定着が見込まれるため、人手不足に悩む会社にとっても大きなメリットといえます。

会社全体への影響 

育児休業の取得を促進することにより、当事者への影響があるのはもちろんですが、会社全体への影響も見られます。具体的には、当事者以外の従業員のワークエンゲージメント(働きがい)の向上やコミュニケーションの活性化といった好影響を及ぼしている可能性があるのです(厚生労働省「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査(速報値)」)。

男性の育休取得を促進するためには

男性の育児休業取得率がまだまだ高くないこと、そのうえで、育児休業取得の促進により会社全体にも好影響があることを見てきました。

では、育児休業の取得を促進する方法にはどのようなものがあるのでしょうか。以下で解説していきます。

なお、各項目の具体的な行動でご不明点がある場合は、社労士等専門家に相談するとよいでしょう。

キャリアダウンにならないためのフォロー体制

1つめの方法は、フォロー体制の整備です。育児休業の取得により、キャリアが中断してしまい、結果的にキャリアダウンしてしまうとすると、なかなか取得に踏み切ることはできません。育児休業の取得を促進するためには、一旦職場を離れたとしてもキャリアダウンにならないためのフォロー体制を整備することが必要です。

リモートやフレックスを利用した休業中の就労体制

2つめの方法は、休業期間中の就労体制の整備です。新型コロナウイルスの流行を機に、リモートワークやフレキシブルな働き方が一気に普及しました。これを追い風に、柔軟な働き方を可能とすることで、育児に忙しい男性社員にとっても働きやすい環境を整えることに繋がるため、育児休業の取得促進に有効といえます。

なお、休業期間中の就労可否について、「育児休業」の場合と「出生時育児休業」の場合とで異なります。次表をご覧ください。

制度休業期間中の就労
育児休業制度原則、就業不可
出生時育児休業制度労使協定を締結している場合に限り、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが

育児休業の場合、原則として、休業期間中に就業することはできません。

しかし、労使の話し合いにより、子どもの養育をする必要がない期間に限り、一時的・臨時的に就労することができるとされています。一時的・臨時的と認められる事例については、厚生労働省のリーフレットを参照してください。

これに対し、出生時育児休業を取得する場合には、一定の条件の下で就業することが認められています。ただし、就業可能日等には次の上限があります。

  • 休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分
  • 休業開始・終了予定日を就業日とする場合は当該日の所定労働時間数未満

例えば、1日の所定労働時間が8時間、1週間の所定労働日が5日の男性社員で、出生時育児休業2週間・休業期間中の所定労働日10日・休業期間中の所定労働時間80時間の場合を考えてみます。就業日数の上限は10日の半分の「5日」、就業時間の上限は80時間の半分の「40時間」、休業開始・終了予定日の就業は、所定労働時間である「8時間」未満の間で就業ができるということです。

育休中の評価制度の見直し

3つめの方法は、休業期間中の評価制度の見直しです。先に見たとおり、育児休業取得に踏み切れない最大の理由は「収入を減らしたくなかったから」でした。そして、評価と収入とは、切っても切れない関係といえます。だからこそ、休業期間中の評価は、育児休業の取得率に直結するといえます。

例えば、休業期間中の評価については、休業取得前の評価を引き継ぎ、昇進・昇格には影響しないようにするといった制度設計が有効です。

長期休業にも対応できる人員確保体制

4つめの方法は、人員確保体制の整備です。人手不足からくる業務の属人化が、育児休業を取得しづらくしていることについては先述のとおりです。労働人口が減っていく中、転職も当たり前になりつつある現代において、誰かが抜けても他の人員でカバーできる体制を整えておくことは、会社を存続させる上では必須といえます。

育児休業は、翌日から急に始まるものではなく、休業の開始日があらかじめ判明しています。日頃から人員確保体制が整備できていれば、育児休業を希望する男性社員も、安心して申し出ることができます。

職場の意識醸成のための経営トップからの発信

5つめの方法は、経営陣からの発信です。男性社員の育児休業取得率が高い企業へのアンケートによると、共通している取り組みとして、経営陣からの発信があることが分かっています(「6社に見る 男性の育児休業取得促進の取り組み」労政時報.2021,4016,p.17-21)。

つまり、経営陣からの育児休業の取得促進に関する発信が、会社全体の意識を醸成しているということです。ボトムアップではなく、トップダウンの発信が有効といえます。

男性の育休手続き

育介法の改正により、育児休業の手続き、特に人事・労務担当者がすべき手続きは、やや煩雑になりました。今後も、法改正により対応事項の変更や増加が予想されますので、改正情報を見逃さないようにしましょう。

男性の育休における給付金と社会保険料

社会保険制度の被保険者である男性が育児休業を取得した場合には、各保険制度からのサービスを受けることができます。以下では、保険制度ごとに、どのようなサービスを受けることができるのかを解説していきます。

育休にかかる給付金

男性が取得できる育児休業には、次の二つがあります。

①出生時育児休業(いわゆる「産後パパ育休」)(子の出生の日から8週間以内)
②育児休業(原則として子が1歳に達する日まで)

そして、これらの育児休業を取得する男性が、「雇用保険」の被保険者である場合には、一定の条件を満たすことで、当該休業期間中の所得保障として「給付金」を受給することができます。

受給できる給付金の種類は、取得する育児休業の区分により次のとおりとされています。

①出生時育児休業:出生時育児休業給付金
②育児休業:育児休業給付金

いずれも、月額賃金の67%程度の給付金を受給することができます。

なお、2023年11月13日に開催された労働政策審議会において、育児休業給付の給付率引き上げ等についての議論が開始されました。主な方向性として、育児休業給付金の給付率を、現行の「67%(手取りで8割相当)」から「8割程度(手取りで10割相当)」へ引き上げることが検討されています。

育休中の社会保険料は免除

また、上記いずれかの育児休業を取得する男性が、「健康保険」及び「厚生年金保険」の被保険者である場合には、それぞれの保険料の「免除」を受けることができます。「育児休業を開始した日の属する月」から「育児休業を終了した日の属する月の前月」までの保険料が免除の対象となります。

例えば、4月15日から育児休業を開始し、12月15日に育児休業を終了、翌16日から職場復帰した場合には、「4月」から「11月」までの保険料が免除となり、「12月」分から保険料が控除されることになるのです。

男性の育休取得者への注意点

男性社員が育児休業を取得した場合、会社側である人事・労務担当者はどのような点に気をつける必要があるのでしょうか。育介法の規定とともに解説していきます。

不利益な取扱いの禁止 

育介法第10条において、出生時育児休業及び育児休業の取得の申出等をした労働者に対して、解雇をはじめとする不利益な取扱いをすることは禁止されています。

特に、出生時育児休業の場合は、その取得の申出のほか、休業期間中の就業可能日等についての申出等に対しても不利益な取扱いをすることは禁止されています。

個別周知・意向確認

法改正により、2022年4月から、妊娠または出産の申出をした労働者に対して、育児休業等に関する制度等の周知(個別周知)と育児休業等の取得の意向を確認するための面談等(意向確認)の措置を講ずることを義務づけています(育介法21条)。同年10月からは、出生時育児休業の取得対象者である男性社員に対しても、措置を講じることが義務づけられました。

個別周知すべき事項は、次のとおりとされています。

  • 育児休業に関する制度
  • 育児休業申出等の申出先
  • 育児休業給付に関すること
  • 労働者が育児休業期間及び出生時育児休業期間について負担すべき社会保険料の取扱い

また、意向確認の方法として、次の方法が定められています。

  • 面談
  • 書面の交付
  • ファクシミリ(FAX)を利用しての送信
  • 電子メール等の送信

DX化が進んでいるものの、FAXや電子メールによる意向確認については、社員が希望する場合に限り認められており、原則は、面談もしくは書面の交付となることに注意が必要です。

個別周知につきましては、下記の記事でも詳しく解説しています。

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2022年4月1日から義務化される「個別の周知・意向確認の措置」とは?

2021年6月に育児・介護休業法が改正され、2022年4月1日、2022年10月1日、2023年4月1日の3段階に分け、順次施行されることと…

雇用環境の整備の措置

育介法第22条では、育児休業の申出等が円滑に行われるようにするために、会社に次のいずれかの措置を講じることを義務づけています。

  • 雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
  • 育児休業に関する相談体制の整備
  • 雇用する労働者の育児休業取得事例の収集・提供
  • 雇用する労働者に対する育児休業に関する制度及び育児休業取得促進に関する方針の周知

なお、上記のうち、いずれか一つの措置を講じることはもちろん、可能な限り、複数の措置を講じることが望ましいとされている点にも注意が必要です。

ハラスメント防止措置

育介法第25条では、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、会社に防止措置を講じることを義務づけています。

主な措置は次のとおりで、具体的には「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針(以下「指針」といいます。)」に定められています。

  • 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場における妊娠・出産等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置

原職相当職への復帰

指針では、育児休業後において、原則として「原職」または「原職相当職」に復帰させるように配慮することが定められています。育児休業取得後、職場復帰させるにあたって降格等させることは、原則として認められません。会社としては、この点にも留意する必要があります。

編集後記

育児・介護休業法は、2024年に改正され、2025年4月からの施行が見込まれます。新しいルールが施行される前に、就業規則や社内規定の現状を確認することも大切です。今回の記事が社内ルールを見直す「きっかけ」になれば幸いです。
育児休業の全体については、下記の記事でも詳しく解説しています。

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育児休業とは!?対象者や期間、給付金など人事労務担当者が押さえておきたいポイントを解説

「育児休業中の社会保険料はどうすればいいか?」「所定労働時間の短縮措置とは何か?」などにも社労士が細かく回答しています。人事・労務関連の基礎知識から、社内規程の作成や見直しに関わる法改正の最新情報まで...

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