産後パパ育休とは?2025年4月からスタートする「出生後休業支援給付金」も合わせて解説します
この記事でわかること
- 産後パパ育休を取得した場合、条件を満たせば、【1】育児休業給付金と【2】出生後休業支援給付金が受け取れます
- 【1】と【2】を両方利用することで、産後パパ育休中の給付金が育休前の手取り額の実質100%になります
社会保険労務士の松本 幸一です。
2021(令和3)年6月に育児・介護休業法が改正され、2022(令和4)年10月の改正法施行により出生時育児休業(産後パパ育休)の制度がスタートしました。
本記事では産後パパ育休の概要と、2025年4月からスタートする「出生後休業支援給付金」について解説します。
産後パパ育休とは
対象者 | 男性労働者 (養子の場合等は女性も取得可能)有期契約労働者は、申出時点で、出生後8週間を経過する日の翌日から起算して6か月を経過する日までに労働契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない者に限り、対象となります。 |
労使協定の締結により対象から除外できる者 | ①入社1年未満の労働者 ②申出の日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者 ③1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 |
期間 | 子の出生後8週間以内に4週間(28日間)までの間の労働者が希望する期間 |
申出期限 | 原則休業の2週間前までに申出 ※雇用環境の整備等について、法を上回る取組を労使協定で定めている場合は、申出期限を1か月前までとすることができます。 |
分割取得 | 2回まで分割して取得可能(まとめて申出ることが必要) |
休業中の就業 | 労使協定の締結により、労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能 |
出生時育児休業(産後パパ育休)の申出期限
原則2週間前までとされていますが、雇用環境の整備等について法を上回る取組を労使協定で定めている場合は、申出期限を1か月前までとすることができます。申出期限を1か月前までとするためには、下記の1~3の全ての事項を労使協定で定めることが必要です。
- 以下①~⑤のうち、2つ以上の措置を講じること
- ①その雇用する労働者に対する育児休業(出生時育児休業を含む。以下同じ。)に係る研修の実施
- ②育児休業に関する相談体制の整備
- ③その雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集及びその雇用する労働者に対する当該事例の提供
- ④その雇用する労働者に対する育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に関する方針の周知
- ⑤育児休業申出をした労働者の育児休業取得が円滑に行われるようにするための業務の配分、又は人員の配置に係る必要な措置
- 育児休業の取得に関する定量的な目標※1を設定し、育児休業の取得の促進に関する方針を周知すること。
- 育児休業申出に係る当該労働者の移行を確認するための措置を講じた上で、その意向を把握するための取組※2を行うこと。
※1「定量的な目標」は「数値目標」を意味します。法に基づく育児休業の取得率のほか、企業における独自の育児目的の休暇制度を含めた取得率等を設定すること等も可能ですが、少なくとも男性の取得状況に関する目標を設定することが必要です。
※2「意向を把握するための取組」は、法律上の義務を上回る取組とすることが必要であり、最初に意向確認の措置を取った後に返事がないような場合には、リマインドを少なくとも1回は行うことが必要です(そこで、労働者から「まだ決められない」などの場合は、未定という形で把握)。
分割して取得する際の申出
出生時育児休業(産後パパ育休)を2回に分割して取得する場合は、1回目の申出時に、出生後8週間のうちいつ休業しいつ就業するかについて、初回の出生時育児休業を申し出る際にまとめて申出ることが必要です。法律上、まとめて申出ない場合には、事業主は2回目の申出を拒むことができるものとされています。
出生時育児休業(産後パパ育休)期間における休業中の就業
出生時育児休業(産後パパ育休)では、次の条件を満たす場合において、休業期間中に就業させることができます。
- 労使協定の締結
- 労働者の個別合意
- 一定範囲内での就業
- 就業日数の合計は、出生時育児休業期間の所定労働日数の半分以下とすること。
- 就業日における労働時間の合計は、出生時育児休業期間における所定労働時間の合計の半分以下とすること。
- 出生時育児休業開始予定日とされた日又は出生時育児休業終了予定日とされた日を就業日とする場合は、当該日の労働時間数は、当該日の所定労働時間数に満たないものとすること。
給付金について
出生時育児休業(産後パパ育休)を取得した場合、条件を満たせば、
育児休業給付金と出生後休業支援給付金を受けることができます。
育児休業給付金
支給額:休業開始時賃金の67%相当(180日目まで)、休業開始時賃金の50%相当(181日目から)
出生後休業支援給付金
支給額:休業開始時賃金の13%相当(男性は子の出生後8週間以内、女性は産後休業後8週間以内)
出生後休業支援給付金は、従来の育児休業給付金に加えて、2025年4月からスタートする新しい支援制度です。
子の出生直後の一定期間以内に、被保険者とその配偶者がそれぞれ14日以上の育児休業を取得した場合、被保険者の休業期間について28日間を限度に、従来の育児休業給付「休業開始時賃金の67%相当」に「休業開始時賃金の13%相当」を上乗せする制度です。
(参考)子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律の概要|こども家庭庁
出生後休業支援給付金の支給要件
・産後パパ育休期間中に被保険者である男性(養子等の場合は女性も対象)が14日以上の育児休業を取得すること
・産前休業後8週間以内に被保険者の配偶者(※2)が14日以上の育児休業を取得すること
※配偶者が専業主婦(夫)や雇用保険の被保険者でない、もしくは被保険者がひとり親である場合は配偶者の育児休業の取得を問わない
出生後休業支援給付金の支給額
最大28日間
手取り10割相当(手取り額の実質100%)ってどういうこと?
2024年6月の育児・介護休業法改正により、産後パパ育休中の給付が引き上げられることになりました。これにより、産後パパ育休中の給付金が育休前の手取り額の実質100%になると新聞・ニュース等で報道されているところです。
手取り額の実質100%について詳しく解説します。
一般的に、給与の総支給額から社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料)と所得税を控除した後の手取り額は支給総額の約80%と言われています。
出生後休業支援給付金(給付率67%)と育児休業給付金(給付率13%)を活用して給付率80%となれば、実質的な手取り100%と同じになる、ということです。
社会保険労務士 松本 幸一のワンポイント
イオンの取り組みをご紹介します。流通大手であり、全国にショッピングモール、スーパーマーケット等を展開する流通大手イオンが育児休業を取得する社員に対し、最長で子が1歳になるまでの期間中、育休前の手取り額の実質100%を補償すべく会社独自の給付を行うことを決定しました。
子ども・子育て支援法等改正法が成立する前から育児休業中の手取り額の実質100%を自社の取組で実現すると決めたイオンの姿勢には多くの賛同が寄せられています。
また、子ども・子育て支援法等改正法の成立により手取り額の実質100%が国から支給されるのは産後パパ育休の期間中に限られるため、国の支給水準を上回る独自給付に踏み込んだことは英断であるという他ありません。
この他にも三井住友海上が育休取得者の同僚へ最大10万円、タカラトミーが第1子の出産から200万円を支給するなど、育児休業の取得のみならず出産・育児との両立を支援する取り組みを発表しています。これら民間の取り組みが、国の施策といい意味で補完・刺激しあう構図が国全体の更なる出産・育児の支援につながることを願うばかりです。
社会保険料の免除について
出生時育児休業(産後パパ育休)を取得した場合、従来の育児休業同様に以下の場合に社会保険料が免除されます。
・その月の末日が育児休業期間中である場合
・同月内に育児休業の開始日と終了日がある場合であって、月内に14日以上
この「14日以上」の日数には、出生時育児休業期間中に事前に調整して就業した日は含まれません。
上記の要件を満たせば、産後パパ育休を2回に分けて取得する場合であっても1回目、2回目それぞれの月の社会保険料が免除されます。
また、賞与に係る保険料については上記の条件に加え、1か月を超える休業を取得した場合のみ免除の対象となります。
(引用)育児休業、出生時育児休業(産後パパ育休)には、給付の支給や社会保険料免除があります|日本年金機構
上記の定めにより、出生時育児休業の取得時期(月の末日に休業しているかどうか)や暦月中の就業日数によっては、社会保険料の免除が受けられない場合があります。出生時育児休業期間中に就業させる場合には、この点についても十分説明の上、同意を得る必要があります。
社会保険料免除の注意点
育児休業期間中の社会保険料免除についてはここまで解説した通りですが、特に産後パパ育休において注意すべき点があります。
産後パパ育休を2回に分けて取得する場合であっても、2回の産後パパ育休が続くときには社会保険料は1カ月分しか免除にならないということです。
2つのケースについて、具体的に解説します。
ケース①
当初2回に分けて取得を予定していたが、1回目の産後パパ育休期間中に2回目の開始日を1回目の終了日の翌日に変更したケース。
2回目は月末をまたぐ
(引用)育児休業、出生時育児休業(産後パパ育休)には、給付の支給や社会保険料免除があります|日本年金機構
この場合、1回目、2回目の間に暦日がなく、1回で取得したものとして取り扱うため開始日の属する10月分の社会保険料のみが免除されます。
ケース②
14日ずつ2回に分けて取得を申し出たが、1回目の終了日の翌日から2回目の開始日までが全て会社の定める公休日であるケース。
2回目は月末をまたぐ
(引用)育児休業、出生時育児休業(産後パパ育休)には、給付の支給や社会保険料免除があります|日本年金機構
この場合、1回目、2回目の間に暦日があるものの、その間に出勤すべき日がなく①と同様結果的に1回で取得したものとして取り扱うため開始日の属する10月分の社会保険料のみが免除されます。
特にケース②については公休日を避けて産後パパ育休を取得すること自体何ら問題ありませんが、社会保険料免除について誤って認識しないよう注意が必要です。
まとめ
2022年10月1日から、出生時育児休業(産後パパ育休)の制度が開始されました。創設されてからまだ間もない制度ですので、まだ対応が追いついていない、もしくはこれから対象者が出てくる予定の会社では引き続き制度の検討や就業規則への反映等の対応が必要となります。
併せて2025年4月より始まる出生後育児支援給付金により、男性が育児休業を取得しない理由で上位に見られる「収入が低下するから」という不安が実質的に解消されることとなるため、本記事で担当者として正しい知識を身につけ、男性の育休取得に向けてより一層取り組んでいただければ幸いです。
キテラボ編集部より
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