入社手続きどうする?入社前・入社時の流れ・必要書類を解説!
会社側でさまざまな対応が必要な入社手続き。労働条件通知や社会保険・所得税への対応、各種システム登録など、多くの手続きを所定の期日までに漏れなく処理しなければなりません。
本記事では、入社手続きについての基本的な流れについて入社前・入社時に分けて説明するほか、入社手続きで気をつけるべきポイントを解説します。
入社手続きの基本的な流れ・概要
はじめに、入社手続きの基本的な流れを説明します。
ここで、概要を把握し、全体像を捉えてください。
入社前の手続き
入社時に行う手続きは以下の通りです。
- 【1】内定通知書(採用通知書)の作成・交付
- 【2】入社誓約書(内定誓約書)の作成・交付
- 【3】労働条件通知書の作成・交付
入社時の手続き
入社時に行う手続きは以下の通りです。
- 【1】各種申請書類の受理
- 【2】各種帳簿・データ登録
- 【3】各種保険・税金手続き
- 【4】その他社内手続き
次章から、入社前と入社時に分けて詳細に説明していきます。
入社前に必要な3つの手続き
採用内定後に行う手続きとして、入社前に必要な手続きを解説します。
【1】内定通知書(採用通知書)の作成・交付
採用選考後、応募者に内定意思を伝えるために、内定通知書(採用通知書)を作成します。なお、内定通知は、口頭と書面のいずれでも法的効力に違いはありませんが、原則、企業からの内定の意思表示をした段階で、「始期付解約権留保付労働契約」という労働契約が成立します。そのため、実務上、書面を作成することが一般的です。
始期付解約権留保付労働契約について詳しく知りたい方は、「最高裁判所判例集(大日本印刷事件 最判昭和54年7月20日)」をご参考ください。
【2】入社誓約書(内定誓約書)の作成・交付
応募者の入社意思を確認するために、入社誓約書を作成します。
原則、企業が内定を通知した段階で労働契約が成立するため、法的に必須ではありませんが、入社誓約書を提出してもらうことで、内定辞退を抑制する効果が期待できます。
また、入社誓約書に内定取消事由を定めておけば、「始期付解約権留保付労働契約」における「解約権」に基づいて、内定取り消しを適法に行うことが可能です。
運用としては、口頭で内定の意思を伝え、応募者から承諾意思を確認した段階で、内定通知書と入社誓約書を同時に送付するケースが多いでしょう。
【3】労働条件通知書の作成・交付
労働条件を応募者に明示するため、労働条件通知書を作成します。
労使間のトラブルを防止し、労働者が安心・納得して働けるように、就業場所や休日、業務内容などの労働条件の明示が義務付けられています(労働基準法第15条)。
記載事項としては、必ず明示すべき「絶対的記載事項」、定めたら記載が必要な「相対的記載事項」があります。
労働条件通知書について詳しく知りたい方は、「労働条件通知書に記載すべき項目は?電子メールによる「送信」の考え方も解説」の記事をご参考ください。
なお、2024年4月から、将来の配置転換等によって変更となり得る「就業場所・業務の範囲」や、有期雇用労働者における「更新・雇止め」など、絶対的記載事項に関する労働条件明示ルールが改正されますので、漏れが生じないよう対応しましょう。
改正内容について詳しく知りたい方は、「労働条件の明示ルールとは? 明示すべき項目と法改正を説明」の記事をご参考ください。
(※参考)厚生労働省:「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
入社時行うべき4つの手続き
ここからは、入社時に行うべき手続きを解説します。
【1】各種申請書類の受理
社会保険手続きや通勤費といった社内申請手続きは、従業員の生活に直結するため、速やかに行う必要があります。手続き漏れで支障が生じないよう、確実に処理してください。
各種社内申請書
台帳管理や給与計算、各種手続きなど、さまざまな目的で各種申請を受理します。
社員の氏名、住所、緊急連絡先といった「基本情報」のほか、給与振り込み口座、通勤費申請、社宅制度がある企業は社宅申請など、企業で用意している各種申請書面にて提出してもらうことが一般的です。財形貯蓄や持株会の制度を設けている場合、希望者はその申請も必要になるでしょう。
扶養控除等(異動)申告書(所得税・住民税関係)
所得税・住民税の申告手続きとして、「扶養控除等(異動)申告書」を受理します。
企業には源泉徴収義務があり、正しく所得税を徴収するために必要なほか、「扶養控除等(異動)申告書」は個人住民税の申告も兼ねていますので、必ずもらい受けてください。その際は、「扶養情報が正しく記載されているか」「被扶養者の所得の整合性が取れているか」などを確認するほか、「住所が住民登録の住所になっているか」などを漏れなく確認しましょう。
扶養控除等(異動)申告書の内容や様式、源泉徴収義務について詳しく知りたい方は、次の国税庁サイトをご確認ください。
(※参考)国税庁:「A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告」「No.2502 源泉徴収義務者とは」
健康保険・厚生年金被保険者資格取得届出に必要な書類等の提出(社会保険関係)
入社した社員が加入条件を満たす場合は、健康保険・厚生年金保険の資格取得手続きが必要です。対象者から、健康保険・厚生年金被保険者資格取得届出に必要な書類等(基礎年金番号通知書・年金手帳またはマイナンバーカードの写し)をもらい受けてください。
なお、加入対象者は、正社員といったフルタイム労働者だけでなく、パートやアルバイトなどの有期雇用労働者も対象となります。基本的な加入条件は、次のとおりです。
- 常時雇用されている従業員
- 週所定労働時間及び月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員
詳細の加入要件は、日本年金機構のサイト「厚生年金保険・健康保険の加入は、 従業員のみなさまの生活を支えます。 加入の手続き」をご参考ください。
また、配偶者が社会保険上の扶養範囲の場合は、「健康保険 被扶養者(異動)届」と「国民年金第3号被保険者届」、その他の扶養対象者がいる場合は「健康保険 被扶養者(異動)届」も忘れずに対応しましょう。
様式を確認されたい方は、日本年金機構のサイト「被保険者資格の取得・喪失、被扶養者関係届書」をご参考ください。なお、健康保険組合加入企業の場合、「健康保険 被扶養者(異動)届」については、各健康保険組合にご確認ください。
※書類について詳しく知りたい方は「入社時に必要な書類は?必要な書類と詳細を解説」の記事をご参考ください。
【2】各種帳簿・データ登録
入社した社員から受理した申請内容をもとに、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿を作成します。
これらは「法定三帳簿」ともいわれ、労働基準法上、作成・保管義務が課されています。「労働者名簿」は、氏名や生年月日、履歴等(労働基準法第107条)、「賃金台帳」は、賃金計算期間や労働日数、労働時間数等(労働基準法第108条)、「出勤簿」は、出勤日及び労働日数、始業・終業の時刻及び休憩時間等(労働基準法第109条)をそれぞれ記載する必要があります。
紙やExcelで給与や勤怠を管理している場合はそれぞれ自社の台帳に記載し、システムを導入している場合はそれぞれに応じたマスタ登録を行います。
誤って登録することのないように、複数人で確認するなど、内部統制上不備のない登録体制を整えることが重要です。
法定三帳簿について詳しく知りたい方は、「法定三帳簿とはー労働者名簿、賃金台帳、勤怠記録について解説ー」の記事を参考にしてください。
【3】各種保険・税金手続き
社会保険や税金など、行政手続きを行います。
- 社会保険(健康保険・厚生年金)の資格取得手続き
- 雇用保険の資格取得手続き
- 税金①(住民税)の手続き
- 税金②(所得税)の手続き
社会保険(健康保険・厚生年金)の資格取得手続き
加入対象者の入社後5日以内に、年金事務所または健康保険組合に「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」の提出が必要です。厚生年金基金制度を導入している場合も同様です。
対象者の氏名、生年月日、性別、住所、マイナンバー(または基礎年金番号等)を確認するよう本人確認を徹底し、資格取得届に記入します。マイナンバーまたは基礎年金番号が未記入の場合返送されてしまいますので、漏れなく記入してください。
資格取得手続きの詳細を詳しく知りたい方は、日本年金機構のサイト「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」をご参考ください。
雇用保険の資格取得手続き
加入対象者の入社後、翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」を管轄のハローワークに提出する必要があります。
なお、雇用保険適用事業所は、加入条件を満たす社員の全てを雇用保険に加入させる義務があります。社員の加入条件は、次のとおりです。
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
「雇用保険被保険者資格取得届」の提出後、加入対象者が被保険者となったことの確認がなされた場合、「雇用保険被保険者証」と「雇用保険資格取得等確認通知書」が交付されます。
雇用保険の詳細や手続きを詳しく知りたい方は、厚生労働省のサイト「雇用保険の加入手続はきちんとなされていますか!」を参考にしてください。
税金①(住民税)の手続き
住民税は、その年の1月1日現在の居住地にて課税されますが、給与天引きとする「特別徴収」とする場合、住民登録住所に基づき、手続きを行います。
具体的には、「扶養控除等(異動)申告書」に記載された住民登録のある市町村に対し、「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出します。
なお、住民税は、前年度の所得に対する住民税を翌年6月から徴収しますので、新卒者など前年所得がない場合は、翌年5月までの特別徴収は発生しません。
税金②(所得税)の手続き
所得税の手続きとしては、もらい受けた「扶養控除等(異動)申告書」に基づき、扶養情報や税区分など、税金計算に関わる給与システムのマスタ登録を行います。Excel等で計算している場合は、それに応じた準備をしてください。
また、対象者が年内に再就職で入社した場合は、前職の勤務先から「給与所得の源泉徴収票」を提出してもらい、年末調整時に給与所得や社会保険料を通算します。
【4】その他社内手続き
入社時は、ここまで説明してきた手続き以外に、企業ごとに異なる入社手続きがあります。ここでは、代表的な手続きを次のとおり説明します。
- 人事発令手続き
- 備品等の貸与
- 社員証等の交付
人事発令手続き
人事発令は、法定上の手続きではありませんが、人の配置や役割を明確化するため、一定規模以上の企業であれば、組織運営上、不可欠な手続きです。
入社日や氏名、配属先を記載し、社内の誰もが閲覧できるよう、掲示板やイントラネットに掲示します。人事システムを導入している場合は、人事システム上で発令登録を行い、発令文書をダウンロードすることが一般的でしょう。
備品等の貸与
入社後に社員が速やかに業務に就けるよう、必要な備品は入社当日に渡せるよう準備しましょう。主な備品は次のとおりです。
- デスク、PC、電話、事務用品等の備品
- 制服・作業着
- 名刺、社員証
PCを利用する社員の場合、社内ネットワークの設定やメールアドレスの取得、利用するアプリケーションの設定など、PC関係に関する初期設定が必要になります。プリンターにセキュリティが設定されている場合、その環境設定も行います。営業職等で、携帯電話を利用する場合は、その端末も事前に準備しましょう。
入社手続きで気をつけるべきポイント
ここまで、入社手続きの一連を説明してきましたが、最後に入社手続きで気をつけるべきポイントを次のとおり説明します。
- 就業規則の周知義務
- マイナンバーの取り扱い
- 外国人を雇用するとき
就業規則の周知義務
労働基準法上、就業規則には、社員に対する周知義務(労働基準法第106条)があります。
入社時に、就業規則の説明を行うとともに、誰もが見られる場所に備えおく、またはイントラネットに掲示するなど、社員がいつでも見られる環境を整える必要があります。入社時に配布するだけでは、就業規則が改定されたときに内容を把握できないため、必ずこの環境を整えてください。
就業規則の周知義務について詳しく知りたい方は、厚生労働省のチラシ「1 就業規則に記載する事項 2 就業規則の効力」を参考にしてください。
マイナンバーの取り扱い
マイナンバーは、社員やその扶養家族のマイナンバーを取得し、社会保険等の資格取得届や源泉徴収票に記載して、行政機関へ提出する必要があります。
このマイナンバーは、個人情報を集約した機密性が高いものであり、不正流出や漏えいした場合、懲役や罰金など重い罰則があります。漏洩することのないよう、「保管場所を施錠する」「データのセキュリティを施す」など、厳密な管理をしてください。
人事・給与システムでは、マイナンバー用の高いセキュリティ機能のツールもありますので、自社の状況に合わせて環境を整えましょう。
マイナンバーの罰則に関する詳細や根拠条文について詳しく知りたい方は、デジタル庁の資料「マイナンバー制度における罰則の強化 (令和4年5月25日現在)」をご確認ください。
外国人を雇用するとき
外国人を雇用する場合は、原則、次の書類が必要です。
- 在留カード
- パスポート
- 卒業証明書の原本(留学生の場合)
- 職務経歴書
国外から採用する、あるいは留学生を採用する場合は、新規でビザの取得手続きも必要になります。また、採用後には、ハローワークへの「外国人雇用の届出」が義務化されていますので、漏れのないように対応してください。
手続きについて詳しく知りたい方は、出入国在留管理庁のサイト「在留資格認定証明書交付申請」、外国人雇用状況の届出について知りたい方は、厚生労働省のサイト「「外国人雇用状況の届出」について」をそれぞれ参考にしてください。
まとめ
本記事では、入社手続きについて、基本的な流れを入社前・入社時に分けて説明するほか、気をつけるべきポイントを解説しました。
入社手続きは、社員が働く上で不可欠な手続きです。とくに、行政手続きは社員の生活に直結しますので、漏れのない対応が必要になります。
本記事を参考に、適切な入社手続きを行ってください。