人事労務担当者が1月~3月に取り組むべき事項
1月から3月にかけて、人事労務担当者が取り組む事項を把握できていますでしょうか?
法定調書や給与支払報告書の提出、新年度に向けた準備など、1月から3月までさまざまな手続きがあります。この記事では、人事労務担当者が1月〜3月に取り組むべき事項を詳しく解説します。
人事労務担当者が1月~3月に取り組む事項
1月〜3月は新年度に向けた準備や書類の作成など、さまざまな業務があります。ここでは、人事労務担当者が1月〜3月に取り組む事項を月別に詳しく解説します。
1月に取り組む事項
人事労務担当者が1月に取り組む主な事項は以下のとおりです。
- 再年末調整
- 法定調書合計表の作成・提出
- 給与支払報告書の提出
それぞれの事項を詳しく解説します。
再年末調整
再年末調整とは、年末調整をやり直すことをいいます。基本的に年末調整は12月の給与で処理を終えますが、12月31日までに扶養親族の増減や控除申告漏れなどがあった場合には、その従業員のみ再年調整を行う場合があります。
たとえば、12月31日に婚姻した従業員が配偶者を扶養に入れた場合は、通常の年末調整までに申告が間に合いません。そのような場合に、1月の給与で再年末調整を行い、所得税を計算し直すことができます。
なお、再年末調整ができるのは法定調書合計表の提出期限である1月末日までです。もし、1月の給与確定までに従業員から申告があった場合は、再年末調整を行いましょう。
法定調書合計表の作成・提出
法定調書合計表とは、企業が1年間に支払った給与や報酬、源泉徴収額を記載して税務署に提出する書類です。源泉徴収票や支払調書などの法定調書に関わる金額を集計し、法定調書合計表に1年間の合計額を記載したうえで1月末日までに提出します。
人事と経理で部署が分かれている企業では、人事労務担当者は給与所得や退職所得など源泉徴収票に関連する項目を集計し、経理担当者は支払調書に関連する項目を集計するのが一般的です。経理部門との連携も必要になるため、スケジュールを共有しながら進めていきましょう。
給与支払報告書の提出
給与支払報告書は、従業員が住民票を登録している市区町村に1年分の所得を報告する書類です。この給与支払報告書をもとに来年度の住民税が決定されます。
記載する内容は源泉徴収票と同様で、1年間に支払った給与・賞与の合計額や控除した社会保険料、源泉所得税、各種所得控除の内容を記載します。なお、給与支払報告書は退職者や休職中の従業員も対象です。
前年の1月~12月で在籍していたすべての従業員の給与支払報告書を作成し毎年1月末日までに各市区町村に提出する必要があります。
2月に取り組む事項
2月は、年度末に向けて準備を進める期間になります。そのため、4月1日に有給休暇を一斉付与している企業であれば有給休暇取得日数の確認を行ってはいかがでしょうか。
有給休暇は、2019年4月から10日以上付与されている従業員に対し、年5日の取得が義務付けられています。2月の段階で有給休暇の取得が5日未満の従業員の有無を確認し、取得期限である3月31日までに有給休暇取得の催促をしましょう。
引用:厚生労働省「年次有給休暇の時季指定義務」
3月はどの部署も繁忙期で有給休暇が取得しづらくなるため、2月中に人事労務担当者から催促することで従業員も取得しやすくなります。
3月に取り組む事項
人事労務担当者が3月に取り組む主な事項は以下のとおりです。
- 36協定の提出
- 健康保険・介護保険料率の改定
- 退職者の手続き
- 組織変更や人事異動に伴うシステム対応
- 就業規則の見直し
それぞれの事項を詳しく解説します。
36協定の提出
36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)は、従業員を労働基準法で定められている上限時間を超えて労働させるために必要な届出です。
労働基準法では1日8時間、週40時間が労働時間の上限と定められており、これを超える労働は認められていません。しかし、36協定を労使で締結し、労働基準監督署に届出することで、上限を超えて労働(時間外労働)をさせることができます。
36協定は、多くの企業で有効期間を1年に定めているため、毎年更新が必要です。3月31日が有効期間であれば、3月中に来年度の限度時間を定め、企業と労働者代表で協定を締結しなければなりません。有効期限が切れる前に必ず作成・届出を行いましょう。
健康保険・介護保険料率の改定
健康保険と介護保険の料率は、毎年3月分(4月納付分)から改定されます。
社会保険料は一般的に翌月に徴収しているため、4月の給与から改定後の健康保険料が控除されますが、3月の給与から3月分を控除するときは注意が必要です。
たとえば、当月末締め当月支給の企業では、3月31日に退職する従業員から2月分と3月分の2ヶ月分を徴収するのが一般的です。その際に、2月分と3月分で保険料率が異なるため、給与計算ミスが発生しやすくなります。
健康保険・介護保険料率が変更になった際は、何月分の保険料を控除しているかを意識して給与計算をしましょう。
退職者の手続き
3月は1年で最も退職者が多くなる時期です。従業員が退職する際は、社会保険の喪失届の作成や離職証明書の作成などに加え、住民税の手続き、源泉徴収票の発行、退職金の計算などさまざまな手続きをしなければなりません。
合間をみて早めに書類を作成するようにしましょう。
組織変更や人事異動に伴うシステム対応
3月は、4月からの組織変更や人事異動に伴って使用しているシステムの変更が必要です。
管理職の承認権限や承認ルートの設定など、細かな設定も必要になるため、組織変更や人事異動の情報がわかり次第、取り掛かりましょう。
就業規則の見直し
3月は4月から施行される新制度に備えて就業規則の見直しが行われる時期です。法改正や社内制度は4月から改定されることが多いため、就業規則は3月中に見直すとよいでしょう。
就業規則変更の際は、人事が就業規則を作成したうえで、労働者代表から意見聴取する必要があります。労働者の代表に意見を聞き、意見書に署名または記名押印をもらったうえで、変更した就業規則と意見書を労働基準監督署に届け出ます。
また、改定した就業規則は各事業場に提示したり、デジタルデータに記録して従業員がいつでも見れるようにするなど、全従業員に周知する必要があります。
1月から3月に人事労務担当者がおさえるべきポイント
1月から3月で人事労務担当者がおさえるべき実務上のポイントは以下のとおりです。
- 再年末調整を行った場合は再度源泉徴収票を発行する
- 法定調書合計表には源泉徴収票を添付する
- 36協定は有効期間が切れる前に提出する
- モデル就業規則をそのまま記載しない
それぞれのポイントを詳しく解説します。
再年末調整を行った場合は再度源泉徴収票を発行する
再年末調整を行うと、前年の所得税を再計算することになります。そのため、12月に源泉徴収票を発行している場合は、再年末調整した従業員の源泉徴収票を差し替えなければなりません。
再年末調整を行った従業員には、再計算後に源泉徴収票を必ず渡しましょう。
また、法定調書に記載する所得税額は年末調整を再計算した後の金額になるため、再年末調整前の情報で集計しないよう注意が必要です。
法定調書合計表には源泉徴収票を添付する
法定調書合計表を税務署に提出するときには、一定の条件に該当した従業員の源泉徴収票を添付する必要があります。
主な提出条件は以下のとおりです。
- 役員:給与(報酬)の支払金額が年150万円を超える
- 従業員:給与の支払金額が年500万円を超える
- 退職した役員:給与(報酬)の支払金額が年50万円を超える
- 退職した従業員:給与の支払金額が年250万円を超える
その他の条件は、国税庁が発行している「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」でご確認ください。
(引用:国税庁「給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」)
36協定は有効期間が切れる前に提出する
36協定は、届出日から適用されます。そのため、36協定の更新時に有効期間を過ぎてから届出した場合は、有効期間が切れてから届出日までの期間で時間外労働をさせると違法となります。
たとえば、4月1日に有効期限が切れているにも関わらず4月5日に届出した場合は、4月1日から4月4日は、36協定が適用されません。
有効期間が3月31日までの場合は、3月中に必ず次年度の36協定を労働基準監督署に届け出ましょう。
モデル就業規則をそのまま記載しない
就業規則作成にあたっては、厚生労働省が公表しているモデル就業規則や法改正に伴う規定例を用いて作成するのが一般的です。
しかし、規定例をそのまま就業規則に記載してしまうと、自社の実情に合っていない就業規則が作成される可能性があります。
たとえば、育児休業の規定例では有期雇用の従業員を一定条件で除外する規定が記載されていますが、自社で除外していない場合は、そのまま記載すると齟齬が生まれてしまいます。
就業規則は、職場内の規律を定める重要な規定であるため、規定例をそのまま記載せずに、自社の実情と照らし合わせて作成するようにしましょう。
まとめ
人事労務担当者にとって1月~3月は、法定調書・給与支払報告書の提出や新年度に向けたさまざまな手続きの準備をする時期です。
とくに3月は4月1日から変わる組織変更や人事異動、規定の改定などの対応に追われます。各事項、新年度に向けて早めに準備を進めていきましょう。