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社会保険の随時改定とは?「月額変更届と算定基礎届ではどちらが優先されるか」などのポイントも解説します

松本 幸一
2024.05.29

社会保険労務士の松本 幸一です。

給与計算において、先月から変更がある月はどうしても緊張感が増しますよね。そのため、先月からの変更点をすべて給与に反映させ振込まで無事完了したところでついほっとしたくなりますが、一息つくまでにもう一仕事あります。

今回は給与額に変動があった場合に判断が必要な随時改定について、基本とよくある疑問点について解説します。

INDEX
  1. 社会保険の随時改定とは?
  2. 随時改定のタイミングはいつ?保険料はいつから変わる?
  3. 随時改定の3つの要件
  4. 社労士松本がお答えします。随時改定・月額変更のQ&A
  5. 社会保険の随時改定の手続き方法 
  6. まとめ

社会保険の随時改定とは?

社会保険の随時改定とは、昇給などにより給与額が大幅に変動した場合に、年に1回の定時決定を待たずに変動後の給与を基に標準報酬月額を改定(変更)する仕組みのことを言います。この時に提出する書類が月額変更届です。

そのため、随時改定を月額変更、もしくは略して月変(げつへん・げっぺん)と呼ぶことも多いです。厳密には随時改定が制度の名称、月額変更届が手続書類の名称ですが、随時決定=月額変更と捉えていただいて問題有りません。

随時改定のタイミングはいつ?保険料はいつから変わる?

随時改定の要件に該当した場合、次に解説する固定的賃金の変動のあった給与を支給した月から数えて4カ月目の標準報酬月額が改定されます。

以下の表では3か月間の平均額の計算、月額変更届への記入、給与から徴収する社会保険料の変更等の実務が発生するタイミングを★で示しています。

当月支給の場合4月5月6月7月8月9月
固定的賃金の変動
変動後の給与支給日★1カ月目★2カ月目★3カ月目
標準報酬月額の改定月
給与から徴収する社会保険料の変更月当月徴収
翌月徴収

翌月支給の場合4月5月6月7月8月9月
固定的賃金の変動
標準報酬月額の変更月★1カ月目★2カ月目★3カ月目
標準報酬月額の改定月
給与から徴収する社会保険料の変更月当月徴収
翌月徴収

※補足:上記2つの表は「4月に固定的賃金の変動があった場合」になります。

定時決定の場合と比べ1カ月早く標準報酬月額が改定されますので、給与から徴収する保険料の変更のタイミングを混同しないよう注意しましょう。

定時決定の場合4月5月6月7月8月9月10月
算定基礎届に記入する給与支給月・給与額
標準報酬月額の改定月
給与から徴収する社会保険料の変更月当月徴収
翌月徴収

随時改定の3つの要件

【要件1】昇給または降格等により固定的賃金に変動があった

固定的賃金とは

基本給のほか、支給額や支給率が定められていることにより、毎月定額で支給されている手当のことを言います。

よくある例で言うと、

・基本給
・役職手当
・資格手当
・扶養手当
・住宅手当
・通勤手当(日額支給の通勤手当を含む) 

などが毎月定額で支給されている場合、固定的賃金に該当します。

一方、固定的賃金に該当しないものを非固定的賃金と言います。

残業手当やインセンティブなど、勤務実績に応じて支給される手当が該当します。

固定的賃金の変動とは

次のような場合、固定的賃金が変動したと考えられます。

・昇給、降給
・時給の変更
・各手当の支給要件に該当した、しなくなった
・時給から月給への変更など給与形態の変更
・所定労働時間の変更
・公共交通機関の料金改定、経路・通勤手段の変更
・インセンティブの単価、計算方法の変更
・手当の新設

【要件2】賃金変動以降3カ月間の給与の平均額に基づく標準報酬月額と、変動前の標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じたとき

固定給の変動前後で標準報酬月額が2等級以上変わるなら随時改定に該当するので月額変更届を出してください、ということです。

具体的な例で解説します。

2等級以上の差が生じ随時改定に該当するケース
新たに採用した従業員が徐々に仕事を覚えてきたので、昇給させた。
同じタイミングで繁忙期にさしかかり、残業が続いた。
給与の内訳は基本給200,000円+残業代のみ。

現在(採用時)変動後(3カ月平均)
固定的賃金200,000円205,000円(+5,000円)①
非固定的賃金50,000円 
報酬月額200,000円255,000円
標準報酬月額200,000円健康保険17級 厚生年金14級260,000円(+60,000円)健康20級 厚生年金17級 

ここでのポイントは三つです。

①固定的賃金の変動が生じている
②3カ月間の平均額には非固定的賃金も含む
③固定的賃金のプラスマイナスと変動後の標準報酬月額のプラスマイナスが一致している

このように、固定的賃金が変動したタイミングで非固定的賃金も変動すると、固定的賃金の変動幅以上に標準報酬月額の変動幅が大きくなります。

2等級以上の差が生じていても随時改定に該当しないケース
昇給後さらに頑張っているので再度昇給。
一方、閑散期に入ったことで業務量は落ち着き、残業が一切発生しなかった。

現在(前回の随時改定)変動後(3カ月平均)
固定的賃金205,000円210,000円(+5,000円)
非固定的賃金50,000円(3カ月の平均額)0円
報酬月額255,000円210,000円
標準報酬月額260,000円健康保険20級 厚生年金17級220,000円(-40,000円)健康保険18級 厚生年金15級

先のケースと異なり、固定的賃金のプラスマイナスと変動後の標準報酬月額のプライスマイナスが一致していないため随時改定には該当しません。

以上のことから、2等級以上の差が生じているか判断するポイントは三つです。

①固定的賃金が変動しているか
②非固定的賃金も含めた標準報酬月額と比較しているか
③固定的賃金と標準報酬月額のプラスマイナスが一致しているか

1等級の差でも随時改定に該当するケース
2等級以上の差について、例外的に標準報酬月額の上限または下限をまたぐ等級変更の場合は2等級の差が生じなくても随時改定の対象となります。 (※補足)

※補足
・標準報酬月額の差が1等級の場合、原則として随時改定にはなりません。
・しかし、最高等級の1等級下、最低等級の1等級上に該当する場合は、2等級以上の差になりません。
・このような場合に、実質的に2等級以上の変動が生じた際は、例外的に随時改定を行います。

ここでは「低額の1等級」「高額の50(32)等級」という表現を用いますが、あくまで実質2等級の変更をイメージしやすくするための便宜上の表現であり、日本年金機構の定める等級ではないことにご留意ください。

・健康保険

等級低額の1等級1等級(最低等級)2等級
標準報酬月額58,000円58,000円68,000円
報酬月額53,000円未満53,000円以上63,000円未満63,000円以上73,000円未満

等級49等級50等級(最高等級)高額の50等級
標準報酬月額1,330,000円1,390,000円1,390,000円
報酬月額1,295,000円以上1,355,000円未満1,355,000円以上1,415,000円未満1,415,000円以上

・厚生年金

等級低額の1等級1等級(最低等級)2等級
標準報酬月額88,000円88,000円98,000円
報酬月額83,000円未満83,000円以上93,000円未満93,000円以上101,000円未満

等級31等級32等級(最高等級)高額の32等級
標準報酬月額620,000円650,000円650,000円
報酬月額605,000円以上635,000円未満635,000円以上665,000円未満665,000円以上

なお、この場合も上記三つのポイントで1等級の差が生じているか判断します。

【要件3】 賃金の変動があった月以降3カ月間連続して、支払基礎日数が一定基準を越すとき

短時間労働者:次の①~③をすべて満たす従業員

①週の所定労働時間が20時間以上であること
②所定内賃金が月額8.8万円以上であること
③学生でないこと

社労士松本がお答えします。随時改定・月額変更のQ&A

Q1 出勤日数に応じて支給している通勤手当も固定的賃金に該当しますか?

A 該当します。

通勤日数により金額が変動する為「固定的賃金」としてイメージできない、ということかと思います。

この点について、本記事でも解説した通り、定期代に限らず日額で支給している通勤手当の単価が変更になった場合も固定的賃金の変動に該当します。

Q2 固定残業代は固定的賃金に該当しますか?

A 該当します。

残業代は非固定的賃金であるため混同しがちですが、固定残業代は想定される残業時間を基に計算された定額の手当であるため固定的賃金に該当します。そのため、計算の基となる残業時間を変更した結果固定残業代が変動した場合は固定的賃金の変動に該当します。

Q3 月の途中で昇給した場合の変動月はいつになりますか?

A 昇給後の賃金を初めて満額支給した月が変動月になります。

 以下の例で解説します。

・締日:20日
・支給日:当月末日
・昇給日:4月1日(日割り計算)

4月5月6月7月8月9月
固定的賃金の変動〇4/1
変動後の給与支給月×4/30★5/31★6/30★7/31
標準報酬月額の改定月
給与から徴収する社会保険料額の変更当月徴収★8/31
翌月徴収★9/30

5月末日に支給する4月21日から5月20日分の給与で初めて昇給後の賃金が満額支給されますので、5月が変動月になり、5・6・7月の3カ月で判定します。誤って4・5・6月の3カ月で判定しないよう注意が必要です。

なお、日割り計算を行わない場合は4月が変動月になります。

Q4 月額変更届と算定基礎届ではどちらが優先されますか?

A 月額変更届が優先されます。

月額変更届が算定基礎届と競合するのは「7・8・9月改定」の場合です。実務では〇月に標準報酬月額が改定されることを「〇月改定」と呼ぶことが多いので、これを機に覚えてしまいましょう。まずは7・8・9月改定となる場合をおさらいします。

固定的賃金の変動が生じた給与を初めて支給した月標準報酬月額の改定月
4月7月
5月8月
6月9月

なお、その後3カ月平均で2等級以上の差が生じ、基礎日数も17日以上あるとします。

次に、算定基礎届と月額変更届を二つのポイントで比較します。

・各届に記入する給与支給月・給与額
・標準報酬月額の改定月

以下の表では月額変更届が優先されるポイントにマークしています。

上記の理由から、7・8・9月改定となる月額変更届は算定基礎届に優先されます。

Q5 育児休業終了時の月額変更届で注意することはありますか?

A 提出は任意ですが、提出する場合は併せて養育期間標準報酬月額特例申出書も提出しましょう。育児休業終了時報酬月額変更届は以下の要件に該当する場合に提出可能です。

・復帰日の属する月から3カ月の間の賃金の平均額を基に計算した標準報酬月額等級が現行(休業前)の等級と1等級でも差が生じる
・対象となる3カ月のうち1月でも原則17日以上出勤している

育児休業終了時改定は育児休業からの復帰時に時短勤務等の措置が講じられる場合に保険料負担を軽減するために設けられています。

様式はこちら
(参照)育児休業等終了後に受け取る報酬に変動があったとき|日本年金機構

ここからは届出が任意である理由を解説します。それは、その後の傷病手当金・出産手当金額が低下するためです。いずれも1日あたりの金額は直近12カ月の標準報酬月額の平均額÷30×3分の2 です。育児休業終了時改定に限らず、標準報酬月額が低下するとこれらの手当の金額も低下します。そのため、育児休業終了時報酬月額変更届の提出は任意となっています。なお、育児休業復帰時報酬月額変更届を提出する際には、併せて厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書も提出しましょう。

これは、育児休業終了時改定により標準報酬月額が低下した場合でも、子が3歳になるまでの間は改定前(休業前)の標準報酬月額のまま保険料の納付実績が年金額に反映されるというもので、養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置と言います。

様式はこちら
(参照)養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置を受けようとするとき|日本年金機構

制度の詳細はこちら
(参照)養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置|日本年金機構

Q6 他社でも社会保険に加入している従業員の月額変更届で注意することはありますか?

A 通常の従業員と同じく、自社の給与だけで随時改定の要件に該当する場合に月額変更届を提出します。

月額変更届の提出後、以下いずれかの処理が行われます。

・他社での給与額も合算した総額で見ても随時改定に該当する場合
→標準報酬月額及び按分比率の変更

・総額では随時改定に該当しない
→按分比率の変更

いずれの場合も社会保険料が変更となりますので、後日送付される決定通知の内容に従い給与計算ソフトの設定等を忘れずに行いましょう。

Q7 70歳以上の従業員も月額変更届の提出は必要ですか?

A 必要です。

70歳以上で厚生年金被保険者資格を喪失している場合でも、75歳に達するまでは健康保険の被保険者であり、健康保険料算定のために月額変更届の提出が必要です。また、厚生年金被保険者資格を喪失している場合でも、70歳未満であれば厚生年金の被保険者となる条件で勤務しながら年金を受給している場合は年金額が減額調整される場合があります。

年金額の調整を計算する際に標準報酬月額が関係しますので、70歳以上の従業員も月額変更届の提出が必要です。なお、年金額との調整に年齢の上限はありませんので、75歳以上で健康保険被保険者資格を喪失した後も同様に月額変更届の提出が必要です。

Q8 昇給の反映漏れがありました。次の給与で差額を支給する場合の変動月はいつになりますか?

A 本来の昇給月が変動月になります。

給与計算上のミスで標準報酬月額の改定月が変動するのは好ましくないという観点から、実際に支給した月ではなく本来昇給後の給与を支給するべき月が変動月になります。月額変更届には、翌月以降に支給した反映漏れの賃金を含めて記入します。

Q9 遡って昇給する従業員がいます。次の給与で差額を支給する場合の変動月はいつになりますか?

A 前月以前の昇給差額を含め、昇給後の賃金を支給した月が変動月になります。

遡って昇給が決定された場合、通常その後直近の給与にて昇給後の賃金及び遡及昇給後前月までの差額を支給することとなります。いつに遡るのかによって標準報酬月額の改定月が変動するのは好ましくないという観点から、遡った昇給時点ではなく初めて昇給後の賃金を支給する月が変動月になります。

Q8の反映漏れの場合と取扱いが異なりますので混同しないよう注意しましょう。月額変更届には、前月分以前の昇給差額を除いた賃金を記載します。

Q10 残業代を翌月払いにしていますが、離職証明書のように割り戻す必要はありますか?

A 必要ありません。

随時改定は昇給反映漏れの調整額、前月以前の昇給差額を除き、いつの労働に対する賃金か、ではなくその月に受け取った賃金額を基準に行われます。そのため、翌支給月に遅れて支払われる賃金を基本給の支給日に合わせて割り戻す必要はありません。

Q11 先月に引き続き今月も固定的賃金が変動しました。この場合、比較すべき改定前の等級はどれになりますか?

A 新たな固定的賃金の変動による改定月の時点の等級です。

7・8月と連続して固定的賃金が変動した給与を支給し、7月変動の月額変更届を提出しているケースの例で解説します。

7月支給給与で変動7月8月9月10月11月12月
月額変更届に記入する給与支給月・給与額
標準報酬月額の改定月

8月支給給与で変動7月8月9月10月11月12月
月額変更届に記入する給与支給月・給与額
標準報酬月額の改定月

このように、8月変動による月額変更届の提出の要否を検討する際、比較する改定前の等級は7月変動による10月改定後の標準報酬月額です。

Q12 複数の固定的賃金が変動する場合はどのように判断しますか?

A 固定的賃金の変動の総額を基準に判断します。

複数の固定的賃金がいずれも増加/減少した場合は通常の固定的賃金の変動と同様に判断できます。一方で、昇給により基本給が増加し、併せて転居により住宅手当が減少する場合には各固定的賃金の増加額と減少額を相殺した結果をもとに固定的賃金が増加/減少したか判断します。

Q13 4・5・6月に業務が集中し残業代が高額になる場合には特例があると聞きましたが?

A 定時決定に対応する特例で年間平均による定時決定という制度があります。

4・5・6月に支給する給与の計算対象となる期間に業務の繁忙が集中し、通常の算定方法では著しく不当とされるものであるとして、特例が設けられています。これを保険者決定と言います。簡単に言うと、毎年算定基礎の時期に限って繁忙が集中するのが業務の性質上避けられないことを事業主が申し出ることにより、12カ月間の平均で定時決定を行うというものです。

詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
(参照)保険者決定|日本年金機構

社会保険の随時改定の手続き方法 

ここからは、随時改定のための手続きについて解説します。

提出書類

健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届(通称:月額変更届)。

様式はこちら
(参照)随時改定に該当するとき(報酬額に大幅な変動があったとき)|日本年金機構

提出先

管轄の年金事務所もしくは年金事務センター

提出期限

要件に該当後速やかに

記入例

(引用)月額変更届の記入例|日本年金機構

月額変更届の提出をしなかったら?遡っての随時改定はできる?

固定的賃金の変動を見落としていた、またはうっかり提出を忘れていた場合には遡って月額変更届を提出します。年金事務所の調査で提出漏れが発覚した場合も同様です。

いずれの場合も、提出が漏れていた月額変更届を提出することで過去の標準報酬月額が改定されます。そうすると、この改定を考慮せず提出が済んでいる算定基礎届・月額変更届の内容も連動して訂正する必要が生じます。

このように、月額変更届の提出が漏れた場合、その対応に莫大な時間を割くことになります。昇給の時期はもちろんのこと、公共交通機関の運賃改定等、社内で支給額の変更を決定しないものはつい見落としがちになりますので注意が必要です。

まとめ

今回は仕組みが複雑ゆえ判断に迷うことが多い随時改訂、月額変更届についての基本とよくある疑問点を解説しました。随時改定では、給与額の変動から実際に月額変更届を提出するまで間が空きますので、翌月への申し送り事項としてきっちり管理しておきましょう。そうすればご自身の備忘録としてはもちろん、急な担当者の変更があっても固定的賃金の変動を見落としてしまうリスクを軽減できます。この記事が随時改訂、月額変更届の疑問点の解消に役立てば嬉しい限りです。

この記事を書いた人

松本 幸一
さいわい人事労務事務所 社会保険労務士

元ハローワーク正職員の社会保険労務士。ハローワーク時代に社会保険労務士試験に合格し、その後社会保険労務士事務所、企業人事部勤務を経て独立。官・民・士業の三視点からのアドバイスを得意とする。独立後は顧問社会保険労務士のほかWebメディア記事を通じた情報発信などを行っている。