試用期間は延長できる!?延長する際の注意点を社労士が解説

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西岡 秀泰

社会保険労務士の西岡秀泰です。

試用期間中の中途社員に対して、「期待と少し違った」「解雇したいとは思わないが、もう少し様子を見たい」と社内からの声が届くこともあるのではないでしょうか?

そんなときは、人事労務担当者として、試用期間の延長を選択肢に入れることも大切です。

本記事では、試用期間の延長ができる要件や、具体的な手続き、注意点について解説します。

試用期間とは

試用期間とは、採用した人の能力や適性、人間性、勤務態度などを判断するために設けられた本採用前の期間です。

一般的に、採用を決めるときには書類選考や試験、面接を行い採用候補者の能力や適性などを判断しますが、短期間の採用選考では判断が難しいこともあります。そのため、時間をかけて能力や適性を見極める期間として、多くの企業が試用期間を設けています。

最初に、試用期間中の業務内容や給与、解雇などについて確認しておきましょう。

試用期間中の業務内容や給与

試用期間に関する法律上の定めはないため、試用期間中の業務内容や期間の長さ、給与などは企業によってさまざまです。正社員として採用する場合と同じように企業と従業員が雇用契約を締結するため、試用期間中の労働条件は雇用契約書に明記しなければなりません。

試用期間の業務内容は、次の通り企業によってさまざまです。ただし、試用期間の目的は「採用者の能力や適性などを判断する」ことであるため、目的に沿った業務を付与しましょう。

  • 経験者を中途採用した場合、最初から通常業務をしてもらう
  • 未経験者を採用した場合、初期研修後に簡単な業務から始める
  • 正社員採用者と同様の業務または初期研修を行う など

また、試用期間の給与は、本採用後の給与より低くなっても問題ありません。ただし、求人するときに「試用期間があることと試用期間中の給与」を明確にするとともに、その旨を雇用契約書に記載することが必要です。

試用期間中または試用期間後の解雇

試用期間中の解雇に関する判例(三菱樹脂事件)では、「通常の試用期間中の契約関係に関しては、解約権留保付の労働契約がすでに成立している」とされています。つまり、企業には一定の解約権はあるが試用期間中(または終了後)に辞めさせるのは解雇にあたるということです。

同判例では、試用期間中の解約権の行使について次の通り述べています。

  • 解約権の行使は通常の解雇より広い範囲に解雇の自由が認められるが、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と是認されるものでなくてはならない
  • 採用当初知ることができなかった事実が判明し、引き続き雇用することが適当でないと判断することに客観的合理性が認められる場合は、解約権行使が相当である

(参考)厚生労働省「(個別)【9】試用期間中の解雇Point」

上記に該当する場合でも、解雇するときは、「少なくとも30日前に解雇の予告をする」または「30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う」必要があります。ただし、試用期間開始日から14日以内の解雇については、解雇予告などは必要ありません。

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試用期間は延長できるか

前述の通り試用期間に関する法律上の定めはなく、延長についても同様です。ただし、試用期間中の人の権利を守るために後述する要件を満たさなければなりません。

試用期間の延長によって、労働者の雇用環境の不安定な状況も延長されることになります。労働者は「継続して仕事ができるかどうかわからない」ことに不安を感じるとともに、別の企業に就業する機会を逸するリスクも感じているかもしれません。

所定の要件を満たせば試用期間の延長は可能ですが、雇用責任を持つ企業として労働者への配慮も欠かさないようにしましょう。

要件を満たさないまま試用期間を延長する、短期的な労働力確保を目的に試用期間を利用する、などの行為があった場合、労働基準法違反に問われたり社会的信用を失ったりするリスクもあります。

試用期間を延長できる3つの要件

【1】就業規則・雇用契約上に規定が明記してあること

試用期間を延長できる要件の1つ目は、「試用期間が延長されることがある」ことなどが就業規則や雇用契約書などに明記されていることです。明記すべき内容は次の通りです。

  • 試用期間が延長されることがある旨の記載
  • 延長される理由
  • 延長される期間
  • 延長後の給与 など

上記内容が具体的に記載されていなければ、試用期間を延長できません。書面に明記の上、採用時(試用期間開始前)に採用者にきちんと説明し、理解してもらった上で雇用契約を交わしましょう。

就業規則に記載がない場合、労働基準法第89条に定める就業規則の「絶対的必要記載事項」の不記載となります。雇用契約書などに明記しないと、労働条件の明示を定める労働基準法第15条違反です。

キテラボ編集部より
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【2】延長するに値する合理的な理由や事情があること

要件の2つ目は、試用期間の延長に値する合理的な理由や事情があることです。採用者の能力や適性などを判断する試用期間を延長するのは、当初設定した試用期間中に能力や適性を判断できなかったからです。

合理的な理由や事情として、「病気やけがなどで休業したため、実働日が少なかった」などのケースはわかりやすいでしょう。試用期間の延長は企業に責任のない従業員側の問題が原因であり、従業員も受け入れやすいでしょう。

また、延長理由として、試用期間中の働きが企業の求める水準に達しないことも考えられます。場合によっては試用期間終了後に解雇という選択肢もある中、「もう少し様子を見よう」と従業員にチャンスを与えるようなケースです。期間延長の合理的な理由や事情として認められやすいのは次のケースです。

  • 無断欠勤が多い
  • 勤務態度が悪く注意をしても改善しない
  • 業務上の指示に従わない
  • 採用選考時に申告のあった業務能力が不足している
  • 法律違反を犯し会社の信用に悪影響を与えた
  • 経歴詐称が判明した など

無断欠勤や勤務態度などについては、企業側も問題が発生した都度、改善に向けた適切な指導が必要です。放置していた場合、合理的な理由や事情と認められなかったり、「何も言われないから問題ないと考えていた」などと従業員が反発したりしてトラブルになることも考えられます。

また、試用期間中の配属先で適性が認められなかったケースで、他の部署での適性判断のために期間延長する場合も合理的な理由や事情と認められる可能性が高いでしょう

【3】常識的・妥当な長さであること

要件の3つ目は、延長する期間が常識的・妥当な長さであることです。試用期間の長さに法律上の定めはありませんが、期間が長いと労働者にとっては不安定な雇用状況が長期化することになります。

「常識的・妥当な長さ」ではわかりにくいと感じる人もいるでしょうが、大半の企業の試用期間は1か月から6か月程度です。また、1年の試用期間を肯定した判例もあります。

試用期間を延長するときは、最初の試用期間と合わせても1年以内に抑えるのがいいでしょう。また、明確な理由なく延長を繰り返すことは避けましょう。

試用期間の延長を行う際の手続き

(手順1)試用期間中に従業員の改善指導を行う

試用期間の延長は、企業と従業員の双方にとって避けたいものです。延長理由となる「無断欠勤が多い」「勤務態度が悪い」「業務上の指示に従わない」「業務能力が不足している」などについては、試用期間中の指導によって改善する可能性もあります。

試用期間を延長するに値する合理的な理由や事情と認められるためにも、改善指導が必要です。また、期間延長するときは従業員の理解を得ることが重要です。十分な改善指導が行われたにもかかわらず従業員自身の怠慢などによって改善がなかった場合、従業員も納得しやすいでしょう。

(手順2)従業員に試用期間の延長と理由を伝え理解を得る

一般的に試用期間の延長は従業員にとって不利益になるため、期間延長時は従業員とよく話し合って理解を得ることが重要です。試用期間を延長すること(延長期間の長さや業務内容、給与などを含む)を伝えるとともに、その理由をきちんと説明することも重要です。

理由説明が曖昧だと、従業員の納得が得られなかったり、会社は辞めてほしいと思っていると誤解したりして、試用期間を延長しても期待通りの成果は得られないでしょう。

延長理由とともに、問題や課題を解決して社内で活躍してくれることを期待して期間延長することや、改善のためのサポート体制などをきちんと説明することも重要です。従業員が納得してくれれば、トラブルの防止と採用者の成長が期待できます。

(手順3)試用期間延長に関する同意書を取る

従業員が試用期間延長に同意したら、雇用契約書の内容をチェックしましょう。雇用契約書に試用期間延長について記載があることが前提ですが、内容に変更があれば再度雇用契約を締結しましょう。

採用時に締結した雇用契約書に期間延長についての記載(期間や給与などの労働条件の記載)がある場合でも、今後のトラブル予防のために「試用期間延長に関する同意書」を取り付けることをおすすめします。延長する試用期間や給与、期間終了後の取扱いなどについて十分に説明するとともに、書面で残すようにしましょう。

延長後の試用期間開始後は、企業と従業員が協力して期間延長の原因となった問題の解決に取り組みましょう。

社労士の西岡秀泰が答えます!Q&A5選

Q1 延長が違法と判断されるのはどのようなケースですか?

違法と判断される可能性の高いケースは次の通りです。

  • 雇用契約書などに試用期間延長に関する記載がない
  • 試用期間を延長する合理的な理由や事情が存在しない
  • 延長期間が不当に長い
  • 試用期間が何度も延長されている など

雇用契約書などへの記載の有無は、簡単にチェックできるでしょう。延長期間や延長回数については、通算の試用期間が1年以内であることが1つの目安です。期間延長する合理的理由や事情については判断が難しいため、弁護士など専門家への相談がおすすめです。

Q2 試用期間を延長するときの注意点は?

前述の期間延長ができる3要件を満たすことは当然ですが、従業員の納得を得ることが重要です。納得が得られないと、従業員に次の悪影響を与える可能性があるからです。

  • 継続雇用に対して不安を感じる
  • 評価に不満を感じて企業に反感を持つ
  • 仕事に対するモチベーションや会社に対するロイヤリティーが下がる

従業員の納得を得るには、採用時から従業員と良好なコミュニケーションを取るとともに、必要な対応を怠らないことです。採用時に試用期間延長についてきちんと説明する、試用期間中は必要な改善指導を行う、延長するときは納得感のある理由と改善に向けた支援策を丁寧に説明する、などの対応が必要です。

Q3 試用期間を延長した後に解雇はできますか?

期間延長後に解雇できるケースもあります。ただし、前述の「試用期間中または試用期間後の解雇」と同様、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められるケースに限定されます。解雇予告または解雇予告手当の支払いの取扱いも同様です。

Q4 採用しても早期に退職する人が多いため、時間をかけて適正判断したいと考えています。試用期間を長めにした場合、なにかデメリットはありますか?

試用期間を長くすることで採用者の能力や適性をじっくり見極められるため、企業にとってはメリットです。しかし、従業員にとっては雇用の不安定な状況が長く続くことになるため、大きなデメリットになります。

雇用に不安を抱える従業員が他社に転職したり、中途半端な気持ちで業務に集中できなかったりすると企業にとってもマイナスです。

Q5 試用期間の延長で勤続年数の計算、社会保険の加入などで従業員が不利になることがありますか?

同時期に入社した場合、試用期間の有無によって有利・不利はありません。退職金の金額や年次有給休暇の付与を計算するときに使用する勤続年数は、試用期間の有無に関係なく入社日を起点とするため、正社員も試用期間のある従業員も同じです。

また、社会保険の加入の有無は所定労働時間や賃金などによって決まるため、勤務形態(正社員や有期雇用の契約社員、短時間労働のパートタイム社員など)に関係ありません。つまり、試用期間開始と同時に社会保険に加入することになります。

参考文献

西岡 秀泰
西岡社会保険労務士事務所 代表
TOP実務の手引き

試用期間は延長できる!?延長する際の注意点を社労士が解説